TOPページ知財情報【短期集中連載】欧州単一特許 =新制度の開始に向けて= 第2回:新制度の開始に向けて、いまできる準備

【短期集中連載】欧州単一特許 =新制度の開始に向けて=
第2回:新制度の開始に向けて、いまできる準備

2017/06/16 特許/実案 欧州 連載

*第1回(いつ始まるのだろうか?)に引き続きご紹介いたします。

 今回は、欧州単一効特許、及び欧州統一特許裁判所について簡単にご紹介した後に、それぞれの仕組みにおいて現時点で検討可能な事項について紹介いたします。
 また、前回の記事以降、新制度の開始時期に影響を与え得る出来事がいくつかございました。これらについては、本ページ下部にある<今月のアップデート>内にまとめましたので、ご覧ください。

<欧州単一効特許(UP: Unitary Patent)>
 新制度の開始日以降に付与された欧州特許については、
(1)特許付与された時点におけるUPC協定の批准国の間で単一の効力を有する欧州単一効特許、又は、
(2)従来通り、国毎に権利を有効化(バリデーション)する従来型欧州特許
のうちのいずれかを選択可能です。

 まずは、単一効特許、または従来型欧州特許のいずれを選択すべきかについて、判断基準を明確にしておくべきでしょう。
 例えば、単一効特許を選択した場合と従来型欧州特許を選択した場合の費用比較をしておくことです。費用比較において、大きなウエイトを占めるのが年金と有効化費用です。これらは、有効化する国の組み合わせによって異なりますので、実際に有効化する可能性が高い国に基づいて概算費用をシミュレートしておくのがよいでしょう。
 なお、単一効特許の年金額は既に発表されています(*1)。一般的には、有効化する国数が3か国以下の場合は、従来型欧州特許の方が安いと言われています。一方、有効化する国数が5か国以上の場合は、単一効特許の方が安いと言われています。

 また、<欧州統一特許裁判所>で詳細に説明していますが、単一効特許を選択した場合は例外なく統一特許裁判所の専属管轄となります。一方、従来型欧州特許を選択した場合は、新制度開始から7年(+最大7年延長される可能性あり)の過渡期の間であれば、統一特許裁判所と国内裁判所のうちのいずれかを選択可能です。すなわち、国内裁判所での裁判管轄の可能性を残しておくのであれば、従来型欧州特許を選択する必要がございます。

 最後になりますが、上述のとおり単一効特許は、新制度の開始日以降に付与された欧州特許についてのみ選択可能となります。この点に鑑みますと、新制度の開始日が決定した際には、新制度の開始日よりも前に特許付与がされそうな件(例えば、その時点でEPC Rule 71(3)に基づく特許付与予告通知が発行されている件)をピックアップし、単一効特許の選択を希望する場合は、特許付与を遅らせるための措置を取ることが好ましいでしょう。具体的には、特許付与予告通知への応答をなるべく遅くする、特許付与予告通知への応答時に補正をする、といった対応が考えられます。

<欧州統一特許裁判所(UPC: Unified Patent Court)>
 新制度が開始すると、欧州特許庁で付与された欧州特許(以下、EP特許)に関する新たな事件は、原則すべて、統一特許裁判所の専属管轄となります。
 統一特許裁判所の専属管轄となるEP特許は、(1)欧州単一効特許、及び(2)従来型欧州特許の両方です。従来型欧州特許も統一特許裁判所の専属管轄となる、という点は大きなポイントです。すなわち、新制度開始よりも前に付与された従来型欧州特許も、原則として統一特許裁判所の専属管轄となります。
 ただし、従来型欧州特許については、例外として、新制度開始から7年(+最大7年延長される可能性あり)の過渡期の間は、統一特許裁判所と国内裁判所のうちのいずれかを選択可能です。また、自身の保有する従来型欧州特許を統一特許裁判所の管轄から除外することも可能です。
 この従来型欧州特許の統一特許裁判所管轄からの自発的除外手続きが『オプトアウト』です。
 まずは、現在保有している従来型欧州特許について、オプトアウトの申請の要否を確認しておくべきでしょう。なお、オプトアウト手続きの詳細については、来月号でお話ししたいと思います。オプトアウトのメリット/デメリットについても触れたいと思います。

 また、新制度開始と同時に統一特許裁判所での訴訟に巻き込まれてしまう可能性もあります。実際に訴訟が開始された場合は、統一特許裁判所での訴訟代理資格を有する弁護士・欧州特許弁理士の助言に基づき対応を協議することになりますが、最低限の情報(例えば訴訟のタイムライン)を事前に把握しておくことによりアドバンテージを確保できるでしょう(*2)。
 なお、以下のような場合は統一特許裁判所の管轄となりますので注意が必要です:
・第三者から、統一特許裁判所に対して侵害訴訟を提起された場合。
・自身の従来型欧州特許に対するオプトアウトが手続き不備により正しく申請されていない状況で、第三者により統一特許裁判所での無効訴訟を提起された場合。

<今月のアップデート>
・2017年6月2日付で、ドイツ連邦参議院がUPC関連法案を採択しました。

・2017年6月7日付で、UPC委員会より、「新制度の2017年12月開始の目標は変更せざるを得ない」との発表がありました。各国における批准手続きの遅れが原因のようです。なお、新しいスケジュールについてはまだ発表がされておりません。

・2017年6月8日付の英国総選挙の結果、与党である保守党が過半数割れしました。英国のEU離脱交渉に影響が出るといわれており、本制度の開始時期にも影響が出る可能性があります。

・2017年6月13日付で、ドイツの連邦憲法裁判所が、UPC関連法案への大統領署名の保留を要求しました。


 6月7日、8日(日本時間8日、9日)に飛び込んできた2つのニュースは新制度の開始時期の遅れを仄めかすものであり、先月号で開始時期について語った筆者に少なからず衝撃を与えました。新制度開始に向けての新しいスケジュールについては追ってUPC委員会から発表される予定ですので、当連載の行方をも左右しかねないこの発表をまずは待ってみたいと思います。
 次回は、「オプトアウト」について、お話しする予定です。乞うご期待!

(記事担当:特許第1部 田中)


*1:https://www.epo.org/news-issues/news/2015/20150624.html
 記事内の表の “True TOP 4” が単一効特許の年金額。
*2:https://www.unified-patent-court.org/sites/default/files/UPC-Rules-of-Procedure.pdf
 侵害訴訟のタイムラインは141ページに、無効訴訟のタイムラインは142ページに記載。

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