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【特別寄稿】
 司法修習生、NGBで"IPランドスケープ"を学ぶ

2018/11/12 コラム

NGBでは先月(2018年9月)の1週間、司法試験合格者の三代川英嗣さんを司法修習生として受け入れた。本稿では、三代川さんが寄稿したその体験談・感想を掲載する。

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■自己紹介
 司法修習生をしております三代川英嗣と申します。この度、NGBにおいて、IPランドスケープを中心とした研修を受ける機会をいただきました。
 大学時代に経営を学んでいた際、知財の経営的な活用に興味を持ちまして、知財を扱う弁護士になりたいと考え、北海道大学法科大学院既修課程へ進学しました。北大では知的財産法の田村善之先生のもとで学び、先生の教えにより、昨年の司法試験では、知的財産法だけの話ではありますが83点を取り全国1位で合格することができました。
 中国の法律家との交流が多かった影響で、特に中国の知財に強い興味を持っています。日本企業にとって中国知財戦略はますます重要になっていますので、弁護士として主にその観点から日本企業のお手伝いをさせていただきたいと考えています。

■司法修習について
 司法修習というのは、司法試験に合格した後、裁判官、検察官、弁護士などの法曹実務家になる前に受けるべき1年に渡る研修のことです。現在の司法修習は大きく4つほどの段階に分かれておりまして、(1)埼玉県和光市において1ヶ月ほどの導入修習を行って概要を確認し、(2)各裁判所や検察庁、法律事務所において8ヶ月ほどの実務修習をし、(3)2ヶ月ほどの選択型の修習をし、(4)再び和光に戻って集合修習というまとめの研修を行います。
 このうち、(3)と(4)は班によって前後するものですが、私は今回(3)の期間中でありました。この期間では自分が学びたいと考える会社や官公庁等にお願いして研修させていただく「自己開拓プログラム」という研修制度がございます。この度この制度を利用して研修をさせていただきました。
 NGBでの研修を希望した理由は、IP ランドスケープの分析手法を学びたいと考えたからでした。上記IPランドスケープを学ぶために自己開拓プログラムを申請した司法修習生は私が初めてかと思います。

■IPランドスケープの意義と魅力について
 私が、「IPランドスケープ」という言葉を聞いたのは、ちょうど司法試験の合格発表を待っている時期に読んだ日経新聞の記事でした。日本企業は「技術で勝っても事業で勝てない」という話はよく聞かれますが、IP ランドスケープの方法論は、技術、経営、法律という3分野のコミュニケーションを図り、全体像を把握し、目標を共通化、そして可視化できる重要な経営戦略ビジョンであり、部門間の理解の隔たりを埋めるため、共通言語、コミュニケーションツールとして有用かと思います。
 IP ランドスケープは、知財法の知識、個別のテクノロジーの知識、データサイエンス的素養、経営戦略論的素養など多様な知見によってその方法論が構成されています。まさに、法律論、経営論、技術論がクロスするところにこの面白さがあると思います。
 例えば、非常にデータサイエンス的な方法論だと感じました。データベースからデータを引っ張ってきて、スプレッドシートに整理、クリーニングを施し、経営判断をしやすいよう様々に可視化し、そしてそこから統計分析、経営分析をしていくのです。これはデータサイエンティストが統計分析を行う過程と同じかと思います。
 また、経営学的方法論も駆使します。得られた知財情報を、マイケル・ポーターの戦略論的な5F、バリューチェーンや、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント、3Cなどの観点で説明するのです。これは経営層への説明としては適切な方法論だと思います。
 もちろん、法的な素養も欠かせません。これらの情報は基本的に特許出願や、知財訴訟に活用されて行きます。法的な主張の位置付けを理解しなければ、的確な情報を持ってくることはできません。知財制度は属地主義であり、国によって制度が異なります。合理的な知財戦略を追求するためには、各国の法制度の理解が欠かせません。
 このように、IPランドスケープは各種の手法を組み合わせた複雑な経営戦略論と言えるでしょう。

■おわりに
 今回の研修で、お世話になった方が仰っていた言葉で強く印象に残っているものがあります。特許調査の過程で、技術者の方々にインタビューをし、どこを特許にするかなどを話し合うそうなのですが、その中で、日本の技術者の人たちは本当に熱心で優秀と感じることが多く、その方々とお話をする中で、この人たちの汗を何とかして汲み取りたいという思いが生まれ、それが仕事のモチベーションになるというのです。
 今後、私が知財法務案件を処理する上で、権利主張根拠、証拠資料として、特許公報を扱うことでしょう。記録上は単なる無機質な公文書にすぎないかもしれません。しかし、想像力を少し働かせてみると、この公文書が作成されるまでに、世界のどこかの研究者、技術者の方々がアイデアを絞り考えに考え、調査会社や特許事務所の方々が権利の調査をしてクレーム等を書いて出願し、特許庁の審査官の方々がこれを審査されて来ているのです。
 今回の研修を通して、知財訴訟の代理というのは、そのような血と汗をまさに代理しているのだという意識を忘れてはいけないのだと思うことができました。
 今後は、中国法や知財法を主に扱う法律事務所で、弁護士になる予定です。知財立国日本に少しでも貢献できる、そして、多くの方々の汗を汲み取ることができる、そんな弁護士になりたいと思います。

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