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中国:特許等訴訟事件の裁判所審級管轄の調整を決定~控訴審の管轄権を最高裁に集約~

2018/10/29 特許/実案 中国

日本技術貿易株式会社 顧問
中国弁護士・中国弁理士・日本付記弁理士
張 華威


1.概要
 2018年10月26日午後、第13期全国人民代表大会常務委員会第六回会議において、「専利等事件の訴訟手続に関する若干問題の決定」が可決された。当該決定によれば、知財事件審理の品質・効率の向上並びに各地における審理基準の統一を図るために、最高裁に知財法廷を設け、集中的に全国における専門性の高い特許等訴訟の控訴事件を審理する。
 具体的には、特許、実用新案、植物新品種、集積回路設計、技術秘密、ソフトウェア、私的独占等の専門技術性が比較的高い民事事件の第一審判決又は裁定に対して不服な場合、及び特許、実用新案、意匠、植物新品種、集積回路設計、技術秘密、ソフトウェア、私的独占等の専門技術性が比較的高い行政事件の第一審判決又は裁定に対して不服な場合、当事者は直接最高裁判所に控訴することができる。
 また、既に効力が発生した上記事件の第一審判決、裁定、和解調書に対して当事者が再審を申立てた場合または検察庁が控訴をした場合など、裁判監督手続を適用する場合は最高人民法院は自ら審理し、または下級人民法院に審理させることができる。
 上記決定は2019年1月1日から施行され、三年後の全国人民代表大会常務委員会で最高人民法院より本決定の実施状況を報告する予定である。

2.中国の裁判制度及び裁判所
 中国の裁判制度は「四級二審終審制」とよばれており、全部で四つの等級の裁判所があり、当事者が第一審の判決に不服な場合は、その上級の裁判所に一度だけ上訴(すなわち「控訴」)する機会が与えられる。そして、第二審裁判所が下した判決は確定判決であり、これに対して更なる上訴は認められない。
 なお、確定判決に重大な瑕疵がある場合は、当事者は再審を申し立てることができるが、再審手続を行うか否かは申立てを受けた裁判所が決定するものであり、再審理由もかなり限られている。
まず、四つの等級の裁判所を詳しく説明する。
 最高裁判所は、全国にただ一つの最高裁判機関であり、首都である北京に設けられている。控訴事件や再審事件を審理するほか、全国裁判所の判例の中から指導判例を選定したり、裁判経験に基づいて司法解釈を制定したりする。
 高級裁判所は、日本の高等裁判所に相当し、各省級行政区に置かれている。「省級行政区」とは、日本の「都道府県」のような、中国でのもっとも広い範囲の行政区画であり、22の省、4の直轄市、5の自治区を含む。高級裁判所は、上記省級行政区にそれぞれ一つずつ設けられ、合わせて31か所存在する。
 中級裁判所は、日本の地方裁判所に相当し、各地級行政区におかれている。地級行政区は、省級行政区に属する一級下の行政区をいい、地級市 、自治州、区、盟などが含まれる。大まかではあるが全国には約400弱の中級裁判所が設けられているといわれている。
 知財裁判所は、知財事件を専門的に扱う裁判所で、2018年10月現在では全国に三か所存在し、それぞれ北京市、上海市、広州市に設けられている。中国における知財裁判所は中級裁判所と同一の等級である点で日本の知的財産高等裁判所と異なる。なお、北京知財裁判所と上海知財裁判所は、それぞれ北京市と上海市の直轄市全体の範囲を管轄し、広州知財裁判所は、広東省の範囲(シンセン市を除く)を管轄する。また、独立した知財裁判所ではなく、中級裁判所の中に知財法廷が設けてその所属する省級行政区内の知財事件を管轄する場合もある。
 基層裁判所は、日本の簡易裁判所に相当し、各県級行政区に設けられる。日本とは異なり、「県」は中国ではかなり小さい範囲の行政区画である。全国には、3000以上の基層裁判所が存在するといわれている。


 このほかにも、軍事裁判所、海事裁判所、鉄道運輸裁判所などの特別な事件を審理する専門裁判所が存在するが、知財訴訟を取り扱うものではないため、ここでは説明を省略する。 

3.裁判管轄
 裁判管轄には、どの等級の裁判所が審理することができるかを示す「縦の関係」である審級管轄と、どの地域の裁判所が審理することができるかを示す「横の関係」である土地管轄が含まれる。
まず、行政訴訟(具体的には審決取消訴訟)について説明する。専利復審委員会の復審または無効審判の審決に不服である当事者は北京知財裁判所に審決取消訴訟を提起することができる。ここで、日本では審判を一つの審級と考えて審決取消訴訟は知財高裁に提訴するが、中国では中級裁判所の等級にあたる北京知財裁判所が専属管轄する。
 北京知財裁判所が下した判決または裁定に不服な当事者は、現行法では北京高級裁判所に控訴することとなっているが、今後は直接最高裁判所に控訴することになる。

 次に、民事訴訟(例えば侵害訴訟)の場合を説明する。
 審級管轄においては、専利権侵害訴訟の第一審は原則省級行政区の政府所在地の中級裁判所、又は最高裁判所が指定する中級裁判所が管轄権を有する。例外的に、最高裁判所により認可を受けているいくつかの基層裁判所は、実用新案と意匠についての少額訴訟の第一審を管轄できる。また、訴訟目的額が極めて高額な場合(具体的には双方当事者の所在地が該管轄区域内にあり且つ訴訟目的額が2億元を超える場合、又は当事者の一方の所在地が該管轄区域外にありまたは海外・香港・マカオ・台湾関連事件で且つ訴訟目的額が1億元を超える場合)は高級裁判所が第一審を管轄できる。
 土地管轄においては、専利権侵害訴訟の場合、被告所在地または侵害行為地の裁判所が管轄権を有する。なお、複数の被告が存在する場合は、いずれか一つの被告所在地又は侵害行為地の裁判所に提訴することができる。
 通常の特許侵害訴訟を例にとると、現行法では被告所在地または侵害行為地の中級裁判所(または知財裁判所)が第一審を管轄し、当事者がその判決または裁定に不服な場合は、その地域の高級裁判所に控訴することになっているが、今後は直接最高裁判所に控訴することになる。


 
<行政訴訟の場合>


 
<民事訴訟の場合>

4.まとめ
 これにより、民事訴訟及び行政訴訟を含めたすべての控訴事件は全国でただ一つの最高裁判所が審理することになる。訴訟の件数が著しく増加する中、最高裁判所の裁判官の人員不足が懸念される。筆者の個人的な予測にすぎないが、今後最高人民法院は複数の地域に巡回法院を設立し、各高級人民法院から知財裁判官を転勤させる可能性がある。知財事件の控訴審の管轄権を最高裁判所に集約させるのは世界的に見ても新しい試みであるが、これにより知財事件審理の品質・効率の向上並びに審理基準の統一が図れるかが注目される。

以上
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