TOPページ知財情報【Cases & Trends】  USPTO行政特許判事の任命を違憲とした最新CAFC判決 – その内容は、インパクトは…

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 USPTO行政特許判事の任命を違憲とした最新CAFC判決 – その内容は、インパクトは…

2019/11/19 特許/実案 判決/事例紹介 米国

10月末に下されたひとつのCAFC判決がいま、米国知的財産コミュニティをざわつかせています。
その判決とは、Arthrex, Inc. v. Smith & Nephew, Inc.(CAFC 10/31/2019)で、Arthrexが保有する特許(USP 9,179,907)に対してSmith & Nephew社(S&N)が米特許庁PTABに提起したIPR(Inter Partes Review)に端を発するものです。
この判決に対する当事者、関係者の反応、裁判所や庁の対応など、いずれもまだ流動的で、確たることはいえませんが、とり急ぎ事案の概要や論点などを手短に紹介します。

事案の概要
S&NによるIPR申請を審理したPTABの3人の行政特許判事(Administrative Patent Judge:APJ)パネル(合議体)は、’907特許の特定クレームが新規性欠如により特許性を有しないとする最終決定(final written decision)を下しました。
これを不服としたArthrexはCAFCに控訴。ここでArthrexは、そもそもAPJの任命自体が合衆国憲法に違反すると主張しました。(S&Nと庁側は、本争点をPTAB手続き中に提起しなかったことを指摘し、Arthrexが控訴手続きで争う権利を放棄したと主張しましたが、CAFCはこの主張を退けています)

APJの現行任命方法と合衆国憲法の任命条項
APJは、特許庁長官との協議を経て、商務長官が任命しています(特許法第6条(a))。因みに、特許庁長官は、上院の助言と承認を得て、大統領が任命します(特許法第3条(a))。
今回争点となった合衆国憲法の「任命条項(Appointments Clause)」は、憲法第2章第2条第2項にあり、以下のような規定になっています。

第2章 [執行部]
第2 条[大統領の権限]
[第2 項] 大統領は、上院の助言と承認を得て、条約を締結する権限を有する...。大統領は、大使その他の外交使節および領事、最高裁判所の裁判官、ならびに、この憲法にその任命に関して特段の規定のない官吏であって、法律によって設置される他のすべての合衆国官吏(Officers of the United States)を指名し、上院の助言と承認を得て、これを任命する。但し、連邦議会は、適当と認める場合には、法律によって下級官吏(inferior Officers)の任命権を大統領のみに付与し、または、司法裁判所もしく は各部門の長官に付与することができる。
(*日本語訳はAMERICAN CENTER JAPANによる)

APJは「主要官吏」か「下級官吏」か
ここでキーワードとなるのが、「合衆国官吏(Officers of the United States)」と「下級官吏(inferior Officers)」です。本Arthrex判決においてCAFCは、「問題は、APJが合衆国官吏に該当するのか否か。該当する場合は、上院の助言と承認を得て大統領が任命することを必要とする『主要官吏(principal officers)』なのか、商務長官の任命で足りる『下級官吏』なのか、が問題となる」 と指摘します。

そこで、APJの職務や権限について検討したうえで、CAFCはAPJが「主要官吏」に該当すると認定したのです。

Arthrex判決のインパクト、今後の展望
このように、APJが「主要官吏」であるとの認定に基づき、CAFCは、大統領でなく商務長官によるAPJ任命は合衆国憲法(任命条項)に違反すると判断したのです。

そのうえで、CAFCは現状に対する次のような救済措置を示しています。
「最高裁が先例で述べている通り、制定法中に憲法に違反するような欠陥が認められた場合、その問題に対する解決策は、問題ある箇所だけ切り離し、残る部分は可能な限りそのままにすることだ。…本件においては、APJの解任を制限する規定部分を特許法から切り離すことで、APJを『下級官吏』の立場にし、憲法上の任命権問題を解決することができる」

本件控訴案件については、Arthrexの’907特許クレームを特許性なしとした先の最終決定を取り消し、新たなAJPパネルの下で審理し直すよう、PTABに差し戻しました。
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違憲の理由が理由だけに、Arthrex事件に限らず、「違法に任命されたAJPパネルによる他の多くのPTAB判断が無効になるのではないか」、「否、本判決の射程はそこまで広くない」、など様々な声が出ているようです。他に、近々本判決を受けたガイドラインが特許庁から出る、あるいは、Arthrex判決自体CAFCの3人判事(Moore, Reyna, Chen)パネルによるものだから、全判事による再審理(rehearing en banc)が行われることになろう、などの指摘もあります。

いずれにせよ、日本企業にとっても大きな影響をもたらしかねないこの事件については、引き続きウォッチし、この場で続報したいと思います。

=> 判決原文はこちらから 

追記:本稿公開の直前に新たな情報が入りました。
議会下院司法委・裁判所知的財産権インターネット小委員会は2019.11.19に「特許庁審判部(PTAB)と合衆国憲法任命条項 – 最近の裁判所判決の意味合いについて」(The Patent Trial and Appeal Board and the Appointments Clause: Implications of Recent Court Decisions)と題する公聴会を開催することを決定しました。証人として複数のロースクール教授や知財コンサルタント(Robert A. Armitage氏)が招かれています。

(営業推進部 飯野)

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