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【Cases & Trends】
 米判例紹介: 特許担保融資において設定した担保権および特許庁登録の効果 -- 返済中の特許権者は侵害訴訟における原告適格を有するか

2020/09/28 判決/事例紹介 米国

今回紹介するのは、保有特許権を担保として銀行から融資を受けた企業による特許侵害訴訟に関する判例です。日本ではたまに特許担保融資に関する個別事例が報道される程度だと思いますが、アメリカではリーマンショック時にGMが大規模な特許担保融資を受けるなど、大企業による利用も珍しくないようです。現在のコロナによる経済状況をみれば、今後米国において特許担保融資を利用する企業がさらに増えるかもしれません。そして、融資を受けた企業が返済のために特許を活用する、権利行使をするという事態も見込まれます。

今回の判例は地裁レベルのものであり、判例法として重要な原則を確立するというものでもありませんが、特許の利用法のひとつを示すものとして、またそこに付随する契約や周辺法のケーススタディとしてなかなか興味深いと思います。

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RAFFEL SYSTEMS, LLC v. MAN WAH HOLDINGS LTD, INC. (Case No. 18-CV-1765)
ウィスコンシン東部地区連邦地裁 6/15/2020

事案概要
原告Raffel Systems, LLC(「ラッフェル」)は、ホームシアター用の座席や据え付けカップホルダーなどを販売しており、これをカバーする複数の特許(「本件特許」)を保有している。
2016年12月7日、ラッフェルは、The PrivateBank and Trust Company(「プライベートバンク」)と“Intellectual Property Security Agreement”(「知財担保契約」)を締結した。同契約は、プライベートバンクから融資を受けたラッフェルが、本件特許を含む同社保有知的財産(現在および将来保有するものも含む)を担保とすることを定めている。プライベートバンクは、この担保設定について米特許庁に登録した。
2019年8月9日、ラッフェルによる融資額の返済により、設定された担保権(security interest)が解除された。同年8月13日、ラッフェルは、イーストウエストバンクと同様の知財担保契約を締結し、本件特許を含む知的財産に担保権が設定された。イーストウエストバンクは、この担保設定について米特許庁に登録した。

2018年11月8日、ラッフェルは、被告Man Wah Holdings Ltd.他を本件特許の侵害を理由に、ウィスコンシン東部地区連邦地裁に提訴した。これに対しMan Wahは、提訴時においてラッフェルは本件特許に対する権原(title)を有しておらず、原告適格に欠けるため、訴えを却下するよう地裁に申し立てた。


判決(命令)要旨 (*[ ]内小見出しは筆者が便宜上付加したもの。原文にはありません)
申立て却下

[原告適格の判断基準 – 移転された権利の実体]
ラッフェルが本件訴訟を提起する適格性(standing)を有しているか否かを判断するためには、提訴時点での本件特許に対するラッフェルの権利について検討する必要がある。
特許法は、「特許権者(patentee)」が特許侵害に対し民事訴訟を提起することを認めている(35 USC 281)。ここでいう特許権者には、「原特許権者(original patentee = inventor or original assignee)」と「権原の承継人(successors in title)」が含まれる。ライセンシーはこれに含まれない。
したがって、原告が原特許権者でない場合、特許権を移転する契約が「譲渡(assignment)」なのか「ライセンス」なのかを判断する必要がある。「譲渡」であるか「ライセンス」であるかは、当該契約が「当該特許に関するすべての実質的権利を移転したのか否か」によって決まる。この判断は、契約が実際に何を認めているかによるものであって、形式的な文言の有無によるものではない。

[UCC(統一商法典)制定前と後]
本件において、Man Wahは、ラッフェルがプライベートバンクやイーストウエストバンクから融資を受けるために特許を担保とした時点で、ラッフェルは当該特許に対する権原を失った、と主張する。Man Wahは、連邦最高裁による1891年のWaterman v. Mackenzie判決(138 U.S.252)に依拠して、ラッフェルが銀行に対し自社特許への担保権を認め、銀行がそれを特許庁に登録したことにより、当該特許に対する権原はラッフェルから銀行に移転されたと主張する。
これに対しラッフェルは、締結した銀行との契約は特許権に対する担保設定を認める標準的な担保契約に過ぎず、権原の移転まで伴うものではない、と反論した。

まずは知的財産担保に関わる歴史的背景を確認しておく。19世紀、特許に対する担保は、権原を移転することで対抗要件を具備する(perfected)ものとされていた。Waterman事件(前出)においては、原告がその妻に万年筆の改良に関する特許を譲渡し、妻は当該特許を使用するライセンスを原告に供与した。そのライセンスは特許庁に登録されることなく、その後原告の妻は、借金の担保として当該特許を第三者に譲渡した。この譲渡は特許庁に登録された。その後、当該特許は原告の妻から原告に再譲渡された。
ここで問題となったのは、原告が侵害訴訟を提起する適格性を有するか否かということだ。
最高裁は、当該第三者のみが原告適格を有すると判断し、次のように述べた。

特許権に対し担保権を認めるということは、不動産に対する抵当権のようなものである。不動産に対する抵当権は、「単なる借金の担保であり、先取特権や負債のみを生じさせ、権原は抵当権設定者に残っている」と考えられるようになっている。しかしながら、不動産の場合、抵当権者が当該不動産を占有した場合、抵当権設定者はそれを貸し出し、家賃を得るようなことはできなくなる。一方、特許権は無形財産であり、現実の引き渡しや占有ができないため、担保権を特許庁に登録することが「占有権の引き渡しに相当し、抵当権者の権原が、抵当権設定者およびすべての第三者に対して主張できるようになるのである。」
 
In re Cybernetic Servs. Inc.事件で第9巡回区控訴裁が説明したように、Waterman事件での事象は、「pre-UCC(「統一商法典」制定前)の担保権」扱い事例である。すなわち、特許権の担保は、「ローン返済によって解除されるという条件付きで特許権が譲渡されることによって成立し」、権原の移転を伴うものである。
しかし、1952年のUCC(Uniform Commercial Code「統一商法典」)制定により、担保権の対抗要件具備(perfection of security interest)の前提が変わった。UCC第9編は、知的財産のような無形資産を含む動産(personal property)に対する担保権の対抗要件具備の方法について規定している…。UCCは、誰が当該財産に対する権原を有しているかに依存しない方法を構築した。

UCC制定後は、担保権の対抗要件具備のために権原を移転することは不要となったのである。「…もはや動産への担保設定において権原移転は重要な意味をもたなくなったため、UCC採用以降設定された担保権のほとんどは権原移転を伴っていない」(前出 In re Cybernetic Servs.)

In re Transportation Design & Tech., Inc.事件(48 B.R.635, 639(Bankr. S.D. Cal. 1985))において、破産管財人は、特許権に対し担保権を認めることは所有権の移転に該当するため、対抗要件をもつために特許庁登録をしなければならない、と主張した。これに対し破産裁判所は、「担保権を認めることは、特許所有権を移転することではない」ため、特許庁登録は必要ないと述べた。

Sky Tech LLC v. SAP AG事件(576 F.3d 1374 (Fed.Cir.2009))におけるCAFC判決も示唆に富む。
同事件において発明者は自身の権利をOzro, Inc.に譲渡し、OzroはXACPに同特許に対する担保権を認めた。その後OzroがXACPへの返済義務を履行できなくなったため、XACPは特許権を差し押さえた。
この後XACPは特許権をSky Technologiesに譲渡した。
Sky Technologiesが被告を特許侵害で提訴すると、被告はSky Technologiesによる原告適格欠如を理由に、訴えの却下を申し立てた。被告は、特許法第261条に基づき特許権の譲渡は書面でなされることが要求されているにもかかわらず、OzroからXACPへの権利移転には何らの書面も存在しないため、Sky TechnologiesはXACPから合法的権原を取得したとはいえない、と主張した。

CAFCは次のように述べ、被告の主張を退けた。
特許権の移転が、譲渡による場合、第261条に基づき書面でなされなければならないとしても、譲渡だけが特許の所有権を移転する方法ではない。本件の場合、特許の所有権はXACPによる担保権の差押え(foreclosure on its security interest)によって移転された。そして、この差押えは、州UCCの規定に則って行われた。ゆえに、XACPは正当に権原を取得し、それをSky Technologiesに譲渡したのであり、原告適格も正しく与えたことになる。

要するに、特許法は担保権の対抗要件具備について規定しておらず、銀行がラッフェルの特許に対する担保権を特許庁に登録したというだけでは、特許の権原を銀行に移転したことにはならない。ラッフェルと銀行間の「知財担保契約」は、ラッフェルから銀行への権原移転について何ら規定しておらず、知的財産に対する「担保権」を認めることのみを明記している。…ラッフェルは本件特許の権原を引き続き保有しているため、本件訴訟を提起する適格性を有している。

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判例紹介のときは、なるべく裁判所判決(命令)原文を入手できるURLを記すようにしているのですが、本件の場合、裁判所や大学のホームページなどでの公開が見つかりませんでした。民間の複数サイトで公開されていますので、あえてここでは記しませんが、以下の事件名データで検索すればいろいろ出てきます(無料のものも多いです)。
RAFFEL SYSTEMS, LLC v. MAN WAH HOLDINGS LTD, INC. (Case No. 18-CV-1765)
US District Court Eastern District of Wisconsin 6/15/2020

(営業推進部 飯野)

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