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【特許・意匠ニュース】
 カナダ、特許可能な主題に関する新たなガイドラインを公表(医療診断方法および医薬用途に関する発明への適用例)

2020/12/18 特許/実案 カナダ

 別の記事でご紹介しましたように、2020年11月3日、カナダ知的財産局(CIPO)は、特許可能な主題に関する新たなガイドラインおよびその適用例(コンピュータ実装発明、医療診断方法、医薬用途)を公表しました[1][2]。

 従来、特許可能な主題か否かを判断する際、クレームの重要な要素を決定するために、カナダ知的財産局は、1)出願に開示された課題を特定し、2)その特定された課題の解決に必要な要素を重要な要素と解釈する「課題解決アプローチ」という手法を用いていましたが、審査官が、クレームのある要素(例えば、コンピュータ要素)を重要な要素ではないと容易に認定し、他の残った重要な要素(例えば、アルゴリズム)が物理的性質を有していないことを理由に、発明が特許可能な主題ではないと指摘することがしばしばあったようです。

 医療診断方法に関する発明においても、遺伝子変化や分析物のレベルと、疾患や病状との相関関係が重視される一方で、遺伝子変化や分析物の測定・検出といった要素は無視され重要でない(non-essential)と判断される傾向にありました[3]。

 新たなガイドラインでは、従来の上記手法が見直され、クレームに記載された要素を原則として全て「重要な要素(essential elements)」と推定し、課題の解決を提供する要素で構成されるクレームの「実体発明(actual invention)」を決定した上で、当該「実体発明」が物理的性質を有するか否かで特許適格性を判断することとしています。ここで「実体発明」は、課題の解決を提供する単一要素と、互いに働き合って課題の解決を提供する複数要素の組み合わせと、のいずれかで構成されるものです。

 上記を踏まえ、本記事では、医療診断方法および医薬用途に関する発明への適用例についてご説明します。なお、新たなガイドラインの詳細については、別の記事でご紹介しています。

(1) 医療診断方法に関する発明への適用
 癌の罹患リスクを診断する方法に関する発明について、以下の二つのクレーム(a)(b)が例示されています:
(a)
 被験者に癌の罹患リスクがあるかどうかを診断する方法であって、
 前記被験者から得たサンプル中の分析物Xのレベルを測定する工程と、
 そのXのレベルを非癌性サンプル中のXのレベルと比較する工程と、を含み、
 前記非癌性サンプルに対する分析物Xのレベルの増加は前記被験者に癌の罹患リスクがあることを示す、診断方法。
(b)
 被験者に癌の罹患リスクがあるかどうかを診断する方法であって、
 前記被験者から得たサンプル中の分析物Xのレベルをまとめたレポートを受領する工程と、
 そのXのレベルを非癌性サンプル中のXのレベルと比較する工程と、を含み、
 前記非癌性サンプルに対する分析物Xのレベルの増加は前記被験者に癌の罹患リスクがあることを示す、診断方法。

 両クレームにおいて分析物Xのレベルは癌の罹患リスクと相関関係があることが定義されており、当該相関関係とクレームにおける全ての工程が「重要な要素(essential elements)」として考慮されています。(従来の手法では、当該相関関係は重要な要素とされる一方で、その他の工程は重要な要素ではないと容易に判断され、重要な要素である「当該相関関係」単体は物理的性質を有しないことから、本クレームの主題が特許可能な主題ではないと判断される恐れがありました。新たなガイドラインでは、このような判断がされなくなります。)

 次に、「癌の罹患リスクと分析物Xのレベルの相関関係」という要素と、クレームされたその他複数の要素(工程)との組み合わせが、1つの「実体発明(actual invention)」を構成すると判断されています。

 その上で、上記(a)の診断方法では、物理的性質を有する測定工程Aが「実体発明」に含まれるため、クレームの主題は特許可能な主題であるとされています。一方、上記(b)の診断方法では、「実体発明」において物理的特性を与える要素がないとしてクレームの主題は特許可能な主題とはならないと判断されています。

(2) 医薬用途発明への適用
 カナダでは人間・動物に対する治療方法は不登録事由となりますが、医薬用途(クレーム形式:the use of compound X to treat disease Y)は特許保護の対象です。なお、その用途において投与量範囲を決定するために専門家の技能や判断が必要とされる場合には、治療方法に関する発明であると解釈される可能性がある点に注意が必要です[3]。

 医薬用途発明に関しては、以下の二つのクレーム(1)(2)が例示されています:
(1)
 消化性潰瘍治療のための化合物Xの使用。
(2)
 化合物Xを初期投与量として6~8mg/日で約2~10週間投与し、最終投与量として16~24mg/日投与する、クレーム(1)に記載の使用。

 上記クレームにおける全ての要素が「重要な要素」として考慮されており、独立クレーム(1)については、化合物Xの使用が身体的状態に識別可能な効果や変化をもたらすことが明らかであるため、全ての要素が物理的性質を有する「実体発明」を構成すると判断されています。従属クレーム(2)については、その使用がクレーム(1)と同様に身体的状態に識別可能な効果や変化をもたらす場合には、全ての要素が物理的性質を有する「実体発明」を構成すると判断されています。

 その上で、上記独立クレーム(1)の「実体発明」におけるどの要素も治療方法を含んでおらず、また専門家の技能や判断を要求または制限等するものではないため、クレームの主題は特許可能な主題であると判断されています。一方で、上記従属クレーム(2)はクレームに定義する投与期間においてXの使用を制限する要素を含んでいる点で上記独立クレーム(1)とは異なり、定義された投与量や投与期間を調整するために医療専門家が個々の患者をモニタリングすることが予想されるとして、専門家の技能や判断を要求または制限等する要素を含むため、クレームの主題は特許可能な主題ではないと判断されています。

 医療専門家の技能や判断を要求または制限等するか否かという判断基準は、今回のガイドラインで新たに設けられたものではありませんが、特許可能な独立クレームに従属するクレームを特許不可とする知的財産局の判断に異論を唱える現地事務所もあり、本適用例の扱いについてはさらなる議論を生む可能性もあります。弊社でも引き続き状況を注視し、新たな情報が得られましたらご案内します。

(参考)
[1] 新ガイドライン:http://www.ic.gc.ca/eic/site/cipointernet-internetopic.nsf/eng/wr04860.html
[2] 適用例:http://www.ic.gc.ca/eic/site/cipointernet-internetopic.nsf/eng/wr04861.html
[3] Bereskin&Parr事務所2020年11月4日付記事
https://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=eca6728c-9d7b-4052-9d45-8bfe534893da

記事担当:特許第2部 西村

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