TOPページ知財情報【Cases & Trends】  最新CAFC判決:契約中の広い文言に要注意 -- 侵害訴訟中の被告が突如、和解した別被告へのライセンス・免責対象に

【Cases & Trends】
 最新CAFC判決:契約中の広い文言に要注意
-- 侵害訴訟中の被告が突如、和解した別被告へのライセンス・免責対象に

2021/03/24 判決/事例紹介 米国

今回は契約解釈をめぐる最新CAFC判決を紹介します。
原告特許権者は侵害を主張して複数の被告を訴えていたところ、一部の被告と和解が成立。過去侵害分の免責と将来の実施に関するライセンスについて定めた和解契約を締結し、残る被告については侵害訴訟を続行しました。ところが係争中の被告が和解したばかりの被告を買収。「買収により自分も和解契約のライセンスおよび免責対象になった」と主張して、訴訟の却下を求めてきたという事件です。
「和解契約締結に際し、そんなことは意図していないし、そのような理解もなかった」と特許権者は反論しましたが、標題の通り、権利者にとっては不本意な結果となりました。一体どのようなことが行われ、どこに問題があったのか、CAFCが下した判決をもとに探ってみたいと思います。

Oyster Optics, LLC v. Infinera Corp.
Fed. Cir. 2/11/2021


事案の概要
控訴人Oyster Optics, LLC(「オイスター」)は、電気通信システムと方法に関する同社保有特許の侵害を主張して、2016年11月にCoriant (USA) Inc., Coriant North America Inc., Coriant Operations, Inc.(以下併せて「コリアント」)、Infinera Corporation(「インフィネラ」)、その他を訴えた。その後これらの訴訟は併合され、テキサス東部地区連邦地裁で手続きが進められた。
2018年6月27日、オイスターとコリアントは和解契約(Settlement Agreement)を締結した。これにより、オイスターはコリアントおよびコリアントの関係会社(Affiliates)に対し、複数の特許(本件対象特許を含む)のライセンスを供与した。オイスターはまた、コリアントとその関係会社に対し、和解契約の締結日までに米国内でなされた行為から生ずる本件特許関連の「あらゆる(any and all)」請求について、免責する(release)こととした。
コリアントとの和解前の2018年5月15日、オイスターは、インフィネラに対し追加の特許侵害を主張してテキサス東部地区連邦地裁に提訴した。(インフィネラに対する2016年の訴訟とこの追加訴訟は併合され、本件控訴対象となっている)
2018年10月1日、インフィネラはオイスターと和解したばかりのコリアントを買収した。インフィネラは自身がオイスターとコリアントの和解契約に基づくライセンスと免責の受益者であると主張して、テキサス東部地区地裁に対し、オイスターの訴えを却下する略式判決(summary judgment)を求める申立てを提出した。

2019年6月25日、地裁はインフィネラの申立てを認容し、略式判決を下した(Oyster Optics, LLC v. Infinera Corp., EDTx 6/25/2019)。 オイスターはこれを不服としてCAFCに控訴した。

判決要旨 -- 原判決確認(控訴棄却)
控訴人オイスターは、和解契約による免責をインフィネラにまで及ぼしたのは地裁の誤りであると主張する。また、ライセンスについても、インフィネラには適用されないか、少なくともインフィネラによるコリアント買収後の侵害のみが適用対象になる、と主張する。オイスターによれば、ライセンスとは通常将来に向けて適用されるもの(prospective)であり、本件和解契約の条項も、将来の行為に対してのみライセンスを供与する意思を示している。
しかし、以下に説明する通り、本件和解契約を検討すれば、(1)インフィネラは本件対象特許に対しライセンスを受けており、かつ(2)そのライセンスは遡及的(retroactive)なものであることが明らかである。

A.コリアントの「関係会社」であるインフィネラは、本件対象特許についてライセンスを得た

和解契約第4.1条は以下のように規定する。
本契約の条件に従い、オイスターは、被告コリアントおよびその関係会社(Affiliates)に対し、許諾特許(Licensed Patents)に基づき、契約地域において許諾製品(Licensed Product)を製造し、下請け製造させ、使用し、販売し、… 提供し、または処分する、非排他的、移転・譲渡不能、無償、取消し不能、サブライセンス権なしの、…支払い済みライセンスを供与する。

「関係会社」は、「現在または将来において、本契約当事者を支配する…いかなる人も含む」と定義されている(including “any Person, now or in the future” who “has Control of a Party hereto”)。また、「支配」は議決権の過半を所有していることと定義され、「人」は法人を含むと定義されている。
和解契約には「許諾特許」のリストが添付されており、そこには本件訴訟でインフィネラが侵害主張されている特許も含まれている。さらに「許諾製品」は、「被告コリアントおよびその関係会社またはそれぞれの前身企業により、それらのために、またはそれらを代理して、直接または間接に、何時であれ(at any time)、米国において製造され、下請け製造され、使用され、販売され … 提供され、または処分された、いかなる対象物(Subject Matter)」も含むと定義されている…。

当裁判所は、インフィネラはコリアントの「関係会社」であり、訴訟の対象となったインフィネラの製品は「許諾製品」であることに疑いがないと考える。コリアント株式の100%所有者、すなわちコリアントを支配する「人」として、インフィネラは「関係会社」の定義に完全に当てはまる。インフィネラが支配権を獲得したタイミングは重要ではない。関係会社とは「現在または将来において」コリアントを支配する者、とする明確な文言が和解契約中に存在するのだ。

この和解契約はその締結時点で関係会社だった者にのみ適用される、というオイスターの主張は、和解契約中の明確な文言に対峙すれば消し飛んでしまう …。実際、オイスターは、いまになって主張しているような形で「関係会社」の定義を限定することなく、すなわち、争っている他の被告を明確に除外することなく、コリアントと関係会社にライセンスを及ぼすことに同意したのである。ゆえに当裁判所は、和解契約に基づくライセンスがインフィネラにも適用されると結論する。

B.インフィネラのライセンスは遡及する

オイスターは、インフィネラがライセンシーであるとしても、そのライセンスは「制限のない時間枠」をもつものではないと主張する。一般に、免責は過去に遡及するもの(retroactive)であるが、ライセンスは将来に向けて適用されるもの(prospective)であり、本和解契約にもこの原則が適用されるべき、とオイスターは主張する。オイスターによれば、和解契約が免責とライセンスを明確に分けて規定しているという事実は、ライセンスが免責の発効日後の行為に対してのみ適用されることを意味し、インフィネラが関係会社になった後にのみ適用されることになる。

この主張もまた受け入れられない。
一般にラインセンスは将来の行為に向けたものというオイスターの主張は正しいが、この特定のライセンスに対し遡及効をもたせることとなった本和解契約の明確な文言をオイスターは無視している。特許ライセンスとは、契約当事者が明確な文言によってそれを遡及的なものにしない限り、将来に向けたものとなるのだが、本件当事者はまさにそのようにしたのだ。
前述の通り、「許諾製品」とは、「何時であれ(at any time)」コリアントおよびその関係会社によって製造、使用、または販売された製品を含む。この明確な文言ゆえに、本ライセンスは完全に遡及適用されることになる…。

以上の理由により、インフィネラは、コリアントの関係会社になった時点で、本件対象特許の遡及的ライセンスを取得したものと結論する。
よって、当裁判所は地裁判決を確認する。

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この控訴事件を担当したのはCAFCのニューマン判事、オマリー判事、タラント判事で構成される合議体(パネル)です。判決文を執筆したのはオマリー判事。この判決に対しては、ニューマン判事が「契約法に反し、商取引の公正性に反する判決」という強いことばで反対意見を述べています。以下、反対意見の一部を抽出します。

「有効な契約とは、共有する情報に基づいた両当事者の意思の合致を必要とするのであり、一方当事者のみが知る隠された情報に基づいてはならない。オイスターは、コリアントとの和解協議の間にコリアントが並行して秘密の買収協議をインフィネラと進めていることなど、ディスカバリで明らかにされるまで知らなかったという…。
契約法は(本契約の準拠法であるニューヨーク州契約法も含め)、契約に対する当事者相互の意思と理解に反するような解釈を支持しない。」

反対意見を読むと確かに今回の結論は理不尽な気もします。それでもなお、多数意見が繰り返し述べるように「契約文言自体が明確に示していること(plain meaning of the contract)」を覆すことは非常に難しいということなのでしょう。 (オイスターは並行してコリアントらに対する詐欺行為などの訴訟も提起しているとのことであり、本件がどう決着するかは予断を許しませんが)。
いずれにせよ、「関係会社」や「許諾製品」の定義など、契約中当たり前に出てくるような用語にも思わぬ落とし穴が潜んでいるということを注意喚起してくれるケースだと思います。

本判決を勉強材料として使いたい場合、CAFC判決と併せて一審判決(テキサス東部地区連邦地裁判決)を読んでみることをお勧めします。契約解釈の基本ルールが教科書的に説明されており(本件はニューヨーク州法が準拠法となっています)、問題となった和解契約の条文も、より具体的に引用されています。

・CAFC判決原文:http://www.cafc.uscourts.gov/node/27099
・テキサス東部地区地裁判決原文:裁判所その他公的機関から直接入手できるリンクがないため、ここではあえてURLを記載しませんが、Oyster Optics, LLC v. Infinera Corp., EDTxで検索すれば入手可能な民間サイトが複数でてきます。

(営業推進部 飯野)

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