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特許出願から見た波力発電と潮力発電

2013/05/23 特許/実案 企業動向 技術動向

 地球表面の約7割は海洋で覆われている。海洋は太陽光に晒され、地球に働く太陽や月との引力の相互作用で、海洋の陸地沿岸には潮汐が生じる。地球の自転や太陽光エネルギー、潮汐などの複合作用が、海洋に波や潮流、海洋温度差などの再生可能なエネルギーを生じさせる。

 「海洋再生可能エネルギー発電」には、海水の流れそのものを利用する波力発電と潮力発電がある。潮力発電には、「潮流そのものを利用する潮流発電」と、「潮の干満差を利用する潮汐発電」とがある。その他にも、海水の温度差を利用する海流温度差発電、海水の塩分濃度勾配を利用する海洋濃度差発電、さらには海上に風車が設置される洋上風力発電(関連過去記事)などがある。

 ここでは「海水の動きそのものを利用する発電(波力発電・潮流発電・潮汐発電)」の技術開発動向と特許出願に注目する。


潮汐発電への取り組み
 
 海洋エネルギーの最初の本格的実用化の試みは、フランスのブルターニュ地方にあるランス潮汐発電所である。ランス川河口の潮の干満差を利用した潮汐発電所(発電量:240MW)であり、1966年に完成した。しかし、潮汐発電に適した河口は極めて限られるため、その後は大規模な潮汐発電所建設の試みは途絶えていた。(*1)

 「21世紀における、世界的な再生可能エネルギーへの注目」と「韓国電力事情の悪化」に後押しされ、2011年8月に韓国西海岸の始華湖潮汐発電所が発電を開始した。韓国が総事業費3551億ウォンを投入し、2004年12月着工から7年間を要しての発電開始となった。発電設備容量は254MW(10基合計)となり、1966年完成のランス潮汐発電所を上回る総発電量となっている。(*2)
 韓国では、始華湖潮力発電所の他にも、西海岸4カ所で、潮汐発電所の建設が推進されている。いずれも始華湖潮力発電所の設備容量と投資額を上回り、世界最大の潮力発電所が韓国西海岸に続々と誕生し、潮汐発電のメッカとなる。(*2)
 韓国西海岸で潮力発電所の建設が活発な理由は、海域の潮の干満差が8mに達するほど大きいことに起因する。(*3)

 また、現在のところ商用ベースの潮汐発電所が建設可能な国は、フランス、ロシア、カナダなど4~5カ国程度に限られている。(*4)


波力発電・潮流発電への取り組み

 潮の流れは世界中に広く分布しており、気象や天候の影響を比較的受けにくい。したがって、安定した発電量が期待できる潮流発電の実用化が有望視されている。
波力からエネルギーを得る技術は新しいものではなく、1799年にパリのMonsieur Girardとその息子が特許を取得している。(*4)

英国が海洋再生可能エネルギー先進国
 英国では、2004 年8月オークニー諸島の本島に、世界初の海洋エネルギー実証試験所である欧州海洋エネルギーセンター(European Marine Energy Center:EMEC)が開設された。EMECは英国貿易産業省 やスコットランドの関連組織などからの出資を受けて設立され、発電装置の開発企業などに対し、波力発電サイトや潮流発電サイトを設けて、実海域における長期実証試験の機会を与えている。その結果、欧州には各種の発電装置企業が台頭している。(*5)
 EMECでは、Atlantis Resources(英国、発祥:オーストラリア)の1MWの潮力タービン、AR1000導入も発表された(*6)。このタービンを使って、ペントランド海峡で2020年完成予定の400MW規模の潮力発電所MeyGenの建設計画があり、インドのグジャラート州では50MWの潮力発電所を設置し、将来的には250MW規模の発電所の建設を計画している。(*1)

波力発電と潮流発電の技術開発はベンチャー企業が牽引
 波力発電・潮流発電の技術開発では、英国のベンチャー企業が先行している。波力発電ではPelamis Wave Power Ltd.(スコットランド、エジンバラ)が2008年9月に(*7)、潮流発電ではMarine Current Turbines(ブリストル)が2008年に(*8)、それぞれ世界初の実用機を開発し、小規模な商業運転を開始している。(*5)
 2010年3月、英国で世界初の潮流・波力発電事業用の海面リース契約の落札企業が公表された。このプロジェクトは、U.K. Wave and Tidal Energy Leasing Round “Pentland Firth and Orkney Waters Round 1 Project” と称され、潮流発電と波力発電を対象とした、世界初の海洋再生可能エネルギー発電事業である。事業の内訳は、潮流発電所が4カ所(総発電量0.6GW)、波力発電所が6カ所(総発電量0.6GW) である。落札企業は、英国電力企業SSE(Scottish and Southern Energy)、ドイツのエネルギー供給企業E.ON等の電力事業をもつ企業に加え、OpenHydro(アイルランド)、Marine Current Turbines、Aquamarine Power(スコットランド、エジンバラ)といった潮流・波力発電装置企業である。

大手企業はベンチャー企業と提携し事業化を目指す
 このような状況下において、欧州の大手エンジニアリング企業は、海洋エネルギーの将来性とその成長に期待し、発電装置のベンチャー企業への出資や買収を開始している。
 Rolls-Royce plc(英国)は2009年に潮流発電装置企業Tidal Generation Ltd.(略称:TGL、スタッフォード)に一部出資し、その後、完全子会社化したが、2012年9月には、電力(発電インフラ・送電)事業を手がけるフランスのAlstomに売却することを発表している。(*10)
 TGLは、EMECの実証試験海域に容量500MWの潮力発電タービンを2011年に設置し、250MWhの電力を送電網に供給しており、EMECを拠点とする企業としては初めて、英政府から再生可能エネルギー義務証書(ROC)を交付されている。TGLを買収したAlstomは、フランス西部のナントで海洋エネルギーの研究開発に取り組んでおり、TGLの買収で再生可能エネルギー事業の拡充を目指すものと考えられる。(*11)
 この他、Alstomは2011年に、AWS Ocean Energy Ltd.(スコットランド)の株式40%を取得(*12)、Siemensは、潮流発電関連企業のMarine Current Turbinesの持ち株を45%に増やし、完全に傘下にいれるという計画を2012年初頭に発表した。(*13)
 スイスの重電エンジニアリング企業ABBは、2010年に持ち株を取得したAquamarine Powerと、そのオイスター波力発電技術への出資を増やし、2014年には商業化の予定である。(*14)

米国の海洋再生可能エネルギーへの取り組み
 米国では2006年以降、活発な海洋再生エネルギー開発が進められている。波力発電企業としては、Ocean Power Technologies(オアフ、ニュージャージ、オレゴン)、Finavera(オレゴン、ワシントン州、カリフォルニア)、Ocean Linx(マウイ、ロホーレ島)、潮流発電では、Verdant Power(イーストリバー/ニューヨーク、セントローレンス河、プゲットサウンド)、OceanRenewable Power Company(マリーン)といった企業が挙げられる。米国政府が支援や研究開発補助しているものとして、オレゴン州立大学の波力試験海域があり、大学の水力関係の研究開発に1000万ドルの支援を行っている。(*15)
 米国では、2012年初頭に、Verdant Power(米国)が潮力発電の商用利用を、全米で初めて認可された。この認可のもとで、Verdant Powerはルーズベルト島潮力発電(TIDE)プロジェクトと、ニューヨークのイースト川での実験的設置の計画を実施している。(*1)
 米国西海岸では、Ocean Power Technologies (略称:OPT、米国)がオレゴン州リーズスポートにおける50MWの波力パーク建設の準備として2基目のPB150PowerBuoyを設置する過程に入っている。(*1)


波力発電・潮力発電(潮流発電・潮汐発電)の特許出願状況

 波力発電・潮力発電関連の特許出願状況を大まかに把握するために、特許データベースPatBaseで検索を実施した(使用IPC:F03B13/12 波または潮のエネルギーを使うことを特徴とするもの※下位分類も含む、E02B9/08 潮力または波力発電所)。なお、PatBaseはファミリー単位のデータベースであり、件数はファミリーの数となっている。

 波力発電・潮力発電関連の特許出願は年々増加の傾向にあり、特に2003年頃から顕著な増加傾向に入っている(図1)。出願国としては、中国、韓国、米国、欧州、日本といった一般的に特許出願件数の多いとされる主要国に加え、カナダ、オーストラリアといった国への出願が多い。
 上位筆頭出願人ランキング(図2)では、欧米企業と中国・韓国の機関・企業が上位にランクしている。欧米企業は自国だけでなくカナダ、オーストラリア、中国、韓国等へも出願を行ない、海外展開を視野に入れた出願戦略をとっている。対して中国・韓国の機関・企業は自国を中心とした出願となっている点は対照的である。


図1. 波力発電・潮力発電の特許出願状況(縦軸:ファミリ数、横軸:最先優先年)


図2. 波力発電・潮力発電の上位出願人ランキング

技術開発を牽引するベンチャー系企業の特許出願状況
 
 次に、ここまで紹介した波力発電・潮力発電(潮流発電・潮汐発電)の技術開発を牽引しているベンチャー系企業の特許出願状況の俯瞰を試みる。ここでも、上記分析と同様のデータベース、IPCを使用し、各企業の出願状況を把握した(図3)。
 各企業の特許出願国の選択基準は、「1.各企業が拠点を置く国」、「2.各企業が狙いたい市場国/地域」の順になっていると考えられる。
 欧米に加え、オーストラリア、カナダを特許出願国としている企業が多いが、ATLANTIS RESOURCESや OpenHydroは中国・韓国・インドへの展開も視野に入れた出願戦略をとっている。


図3. ベンチャー系企業の特許出願状況

海洋再生エネルギー発電の将来

 欧州海洋エネルギー協会(European Ocean Energy Association : EU-OEA)のロード・マップでは、2020年に発電量3.6GW、2050年には188GWに達するとの将来予測を示している。2050年には、EU電力需要の15%を海洋再生エネルギーで賄い、風力発電や太陽光発電と並ぶ、再生可能エネルギー発電の主要な柱に成長させることを狙っている。(*16)

発電コストの引き下げが必要
 海洋再生可能エネルギー発電は、再生可能エネルギーを用いる発電技術の中で、現在のところ最もコストが高い。1kW当たりの設備投資額は、波力発電が9000~12500米ドル、潮流発電でも8000~9500米ドルとされる。発電技術ごとの単位発電電力あたりの所要コストを比較した「共通基準エネルギー原価(Levelized Cost of Energy:LCOE)」は、波力発電が0.49米ドル/kWh、潮流発電が0.39米ドル/kWhである。洋上風力発電のLCOEが約0.23米ドル/kWhであることから、海洋再生可能エネルギー発電が価格競争力をもつためには、洋上風力発電と同程度のLCOEを実現する必要がある。(*17)
 今後の技術開発と装置量産化による、発電コストの引き下げが求められる。

日本では・・・
 日本では1988年に実海域における潮流発電に成功したが、その後の約10年間は事業化に向けた活発な動きには至らなかった。
 2008年3月に海洋エネルギー資源利用推進機構(Ocean Energy Association Japan:OEAJ)が設立、2012年4月に一般社団法人化された。2012年5月には、総理大臣が本部長となり、関係閣僚が委員を務める内閣官房総合海洋政策本部が「大規模な総合実証実験海域の整備により、我が国における海洋再生エネルギーの着実な実用化・事業可を目指す」ことを決定した。2013年度において、潮流発電・波力発電・海洋温度差発電の各3領域に適した場所で、日本版EMECがスタートする。(*18)

(IP総研 先端技術分析班)

(*1)自然エネルギー世界白書 2012 http://www.ren21.net/Portals/0/documents/Resources/GSR2012jp.pdf
(*2)世界最大・始華湖潮力発電所が発電開始(2011/08/05) http://www.toyo-keizai.co.jp/news/general/2011/post_4515.php
(*3)仁川湾に湖力発電所建設へ(2010/02/05) http://www.toyo-keizai.co.jp/news/topics/2010/post_3799.php
(*4)DP Energy http://www.dpenergy.com/information/wave.html
(*5)海洋権益と新たな資源開発の動向 三井物産戦略研究所(2010/12/24) http://mitsui.mgssi.com/issues/report/r1012j_oda.pdf
(*6)Atlantis moves tidal testing to Narec, UK http://www.atlantisresourcescorporation.com/media/news.html?start=6
(*7)pelamis社HP http://www.pelamiswave.com/history
(*8)Marine Current Turbines社HP http://www.marineturbines.com/About-Marine-Current-Turbines
(*9)英国の最新・再生可能エネルギー事情 日本経済研究センター(2012/04/04) http://www.jcer.or.jp/policy/pdf/pe(20120404hirasaki%EF%BC%89.pdf
(*10)Alstom intends to acquire Tidal Generation Ltd from Rolls-Royce
http://www.alstom.com/press-centre/2012/9/alstom-intends-to-acquire-tidal-generation-ltd-from-rolls-royce
(*11)EBSニュースメール2012年10月号 http://www.ebsukltd.com/newsletter/pdf/newsmail37.pdf
(*12)Ocean energy: Alstom broadens its involvement in marine energy by acquiring a 40% equity share in AWS Ocean Energy http://www.alstom.com/press-centre/2011/6/AWS220611/
(*13)Siemens strengthens its position in ocean power http://www.marineturbines.com/News/2012/02/16/siemens-strengthens-its-position-ocean-power
(*14)Aquamarine Power secures £7 million new funding and ongoing commitment from shareholders http://www.aquamarinepower.com/news/aquamarine-power-secures-£7-million-new-funding/
(*15)海洋エネルギーの利用 Civil Engineering Consultant VOL.251 April 2011 http://www.jcca.or.jp/kaishi/251/251_toku5.pdf
(*16)海洋エネルギー利用発電技術の現状と課題 電力中央研究所 http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/V10002.html
(*17)海洋エネルギー発電の先行きはコストで決まる http://www.news2u.net/releases/105485
(*18)海洋再生可能エネルギー利用促進に関する今後の取組方針(案) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/dai9/siryou1.pdf
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