- 欧州
- 特許
2022.07.22
特許部 髙橋卓也
2022年7月前半、予想よりも準備が遅れていると感じていた欧州統一特許制度の最新状況を確認することを目的の一つとして、欧州を訪問してきました。本記事では、今回の欧州訪問で得られた情報をご紹介します。
最新ロードマップ
2022年7月14日、アムステルダムで開催されたUnitary Patent Package Conferenceに参加しました。カンファレンスでは、統一特許裁判所(Unified Patent Court: UPC)の準備を進めているUPC管理委員会のKarcher副委員長より、UPCの準備状況の説明とともに、2023年3月1日のUPC協定発効を目標とした最新ロードマップの紹介がありました。2023年3月1日にUPC協定が発効する場合、2022年12月1日にはサンライズ期間が開始し、UPCの管轄から除外するためのオプトアウトの事前申請が可能となります。
2023年3月1日のUPC協定発効が実現可能と考える背景として、2022年7月8日にルクセンブルグで開催されたUPC管理委員会のミーティングにて、侵害訴訟の第一審を扱う地方部及び地域部並びに調停・仲裁センターの設置都市の決定、UPC手続規則と裁判所の料金表の採択、UPC裁判官の最終候補の報告といった進展が確認できたことがあったようです。2022年7月8日のルクセンブルグでのミーティングの成果については、2022年7月14日に更新されたUPCのウェブサイトでLatest Newsとして報告されています。
UPC手続規則
UPC手続規則の起草委員会の委員長である Simmons & Simmons事務所のMooney弁護士からは、2022年7月8日に承認されたUPC手続規則について、2017年に作成された手続規則のドラフトに対する主な変更点として、以下の説明がありました。
・UPCへの書類提出及び書類への署名を原則電子形式とすること(規則4)
・オプトアウトの対象がUPC協定批准国に限られず、欧州特許に対してオプトアウトする場合には当該特許が付与されているすべての国、欧州特許出願に対してオプトアウトする場合には当該出願の指定国となっているすべての国が対象となること(規則5)
・無断で申請されたオプトアウトの登録を削除できること(規則5A)
・ビデオ会議による口頭審理が可能であること(規則112)
・UPCの判決及び命令は一般公開されるが、その他の訴答書類や証拠書類の閲覧には理由を伴う閲覧請求が必要であること(規則262)
中でも注目されていたのは、欧州の一般データ保護規則(GDPR)への対応として変更された規則262でした。新たに設立される裁判所として訴訟情報の透明性が期待される中、判決と命令以外の訴訟書類の公開が制限されるという結果になりました。
またオプトアウトを検討されている方にとっては、規則5に関する変更も重要です。カンファレンスでは、例えばUPC協定批准国における権利をA社が保有してる欧州特許に対してオプトアウトを申請する場合で、UPC協定批准国以外の国、例えばトルコの権利をB社が保有している場合、A社に加えてB社もオプトアウトの申請人になる必要がある、という説明がありました。
今回のUPC手続規則に対する変更は、制度開始前最後の変更であり、2022年9月1日に発効する予定です。変更内容については、UPCのウェブサイトにアップロードされています。
ルクセンブルグの様子
カンファレンスの前日、UPCの控訴裁判所が設置されるルクセンブルグのEuropean Convention Centerを訪問しました。控訴裁判所は、既存の行政裁判所と同じ法廷を利用する予定とのことで、現在は、行政裁判所の表示の下に、UPCを示す紙が貼ってあります。
ルクセンブルグでは、8人のITチームを中心に、裁判所に対する手続きのインターフェースとなるCase Management System(CMS)、ウェブサイト、人事や財務といった内部システムの準備が進められていました。Hemicycleと呼ばれる建物の1フロアに、法廷及び各部門の部屋が用意されていて、開始に向けて着々と準備が進んでいる様子がうかがえました。
欧州では、7月中旬から夏休みシーズン、街や空港では夏休みムードが高まっているのを感じました。次回の進展がみられるのはおそらく夏休みが空けた8月末以降と予想しています。