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　2021年9月21日、英国の控訴院は「人工知能（AI）は特許法上の発明者として認められない」として、高等法院が下していた第一審判決を支持する判決を下しました。現在、各国でAIが発明者として認められるか否かが議論されている中、控訴審レベルでの判決が下されたのは世界的にも初めてです。その一方で、2021年7月30日、オーストラリアの連邦裁判所はAIを発明者として認める判決を下しています。2021年7月28日には、南アフリカでAIを発明者とする初の特許が成立しました。

　本記事では、AIを発明者とする特許出願のこれまでの経緯と各国での現状をご紹介します。

［出願の経緯］
　英国サリー大学のRyan Abbott教授率いるチームは、「DABUS」と名付けられたAIを発明者とする2件の発明についての特許出願（以下、DABUS出願。出願日はそれぞれ2018年10月17日と2018年11月7日）を欧州および英国に行いました。その後、これらの出願に基づく優先権を主張して米国やドイツなどに出願するとともに、2件の欧州出願を基礎とするPCT出願を行い、日本を含む各国への移行手続きを行いました。

［各国での現状］
英国
　英国知的財産庁（UKIPO）は、発明者は自然人でなければならずAIは発明者として認められないとの判断を示し、この出願を却下しました。出願人は却下を不服として高等法院（High Court of Justice）に提訴しましたが、高等法院もUKIPOの判断を支持しました。これを受け、出願人はさらに控訴院（Court of Appeal）に上訴していましたが、2021年9月21日に控訴院が高等法院を支持する判決を下し、出願人の上訴を棄却しました*1。控訴審レベルでの判決が下されたのは世界的にも初めてです。

欧州
　欧州特許庁（EPO）も、英国知的財産庁と同様、AIは発明者として認められないとの判断を示しています。受理部門による出願却下の決定に対して出願人は審判請求を行っており、審判部での口頭審理が2021年12月21日に予定されています。

米国
　米国特許商標庁（USPTO）も、AIは発明者として認められないとの立場をとっています。USPTOの補正命令に対して出願人は請願書を提出したものの、USPTOはこれを認めませんでした。さらに出願人はUSPTOの判断を不服としてバージニア州東部地区連邦地裁に提訴しましたが、同地裁は2021年9月2日、AIは特許法上の発明者として認められないと判示し、USPTOの立場を支持しました*2。

ドイツ
　ドイツ特許商標庁（DPMA）も、AIは発明者として認められないとして出願を2020年3月25日に却下しました。出願人はDPMAの決定に対して不服を申し立てており、連邦特許裁判所（BpatG）による判決が待たれています。

日本
　DABUS出願に対する、日本国特許庁の判断はまだ出されていません。しかしながら、2021年7月、日本国特許庁は発明者等の表示に関してAI等を含む機械を発明者として記載することは認めていないことを明確に示したため、日本も上記の国と同様の立場を取っているようです。日本国特許庁の発表（下記リンク）に基づくと、日本のDABUS出願は方式審査において補正命令がなされることが予想されます。

南アフリカ
　各国がAIを発明者として認めない判断を出している一方で、2021年7月28日、南アフリカでDABUS出願に係る特許が発行され、世界で初めてAIを発明者とする特許が成立することとなりました。ただし、南アフリカは無審査登録制度を採用しており、実体的な審査は行われていません。

オーストラリア
　2021年7月30日、オーストラリアでは世界で初めて裁判所がAIを発明者として認める判断を下しました*3。オーストラリア特許庁長官はAIを発明者として認めないとの見解を示していましたが、出願人の不服申立を受けた連邦裁判所が特許庁長官の見解を覆す形となりました。
※裁判所の判断に対して、オーストラリア特許庁長官は上訴する旨を発表しています（2021年8月30日付庁発表、下記リンク）。

　オーストラリアを除けば、各国において次々とAIを発明者として認めないとする判断が下されています。しかしながら、AIを発明者として認めないとの判断を示したUKIPOが、AIと知的財産の関係に関するパブリックコメントを募集していたように、今後各国特許庁において、AIをめぐって新たに生じる問題に対してさらなる検討が進められることと予想されます。

*1　Thaler v. Comptroller General of Patents Trade Marks And Designs, Court of Appeal of UK, 9/21/2021
*2　Thaler v. Hirschfeld, EDVa, 9/2/2021
*3　Thaler v. Commissioner of Patents, Fed. Court of AU, 7/30/2021

（参考）
・The Artificial Inventor Project（Ryan Abbott教授による特設サイト）
https://artificialinventor.com/
・日本国特許庁の発表（2021年7月30日付）
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/hatsumei.html
・オーストラリア特許庁の発表（2021年8月30日付）
https://www.ipaustralia.gov.au/about-us/news-and-community/news/commissioner-appeal-court-decision-allowing-artificial-intelligence