IP NEWS知財ニュース

  • 知財情報
  • アーカイブ

2004.04.30

【Cases & Trends】米AIPLA、FTCの特許改革提言に対する見解を公表

アメリカ知的財産法協会(AIPLA)は4月21日、米連邦取引委員会(Federal Trade Commission: FTC)が昨年10月28日に公表した特許制度改革提言リポート(『イノベーション促進に向けて – 競争政策と特許政策の適切なバランスを図る(To Promote Innovation: The Proper Balance of Competition and Patent Law and Policy)』)に対する見解を公表しました。FTCのリポートは、競争政策/反トラスト法の観点(イノベーションを促進し、消費者の福利に寄与する競争の観点)から、現在の特許制度が抱える問題点を考察し、10項目の解決策を提言するもの。昨年末に本IPニューズでもご紹介したとおりです。
特許無効性の証明基準緩和等、「ちょっと無理があるかな」という提言も含まれており、案の定この提言に対しAIPLAは「否」の回答を出していますが、それでもかなり真剣に取り組み、詳細に根拠・背景を説明しています。

以下、前回ご紹介したFTCリポートの『結論と提言』部分にAIPLAの『回答』を挿入する形で、例によって骨子のみをご紹介しますので、詳細は以下のサイトでご確認ください。

-> http://www.aipla.org/
*トップページ の“NEWS AND FEATURES”欄から”AIPLA Response to the FTC Report”へアクセス

FTCリポートへのAIPLA見解 (April 21, 2004)

[結論と提言](FTCリポート)

I. 特許制度は大方適切に機能しているものの、競争政策と特許政策の適切なバランスを維持するためにいくつかの修正が必要

II. 問題のある特許により競争上の深刻な懸念が生じており、イノベーションを阻害する恐れも出ている

A. 問題のある特許はイノベーションを阻害し、イノベーションのコストを引き上げる恐れがある

B. イノベーション集約型産業において、問題のある特許は「防衛的特許取得」の増加とライセンシングの複雑化をもたらしかねない

C. 特許の質を改善し、特許制度の反競争的コストを最小限にするための提言

提言1:特許庁も提言する通り、特許付与後の見直しおよび異議申立てを可能にする新たな行政手続きを設置する法を制定する

=>AIPLA回答「提言に賛成。ただし、この手続きはあくまで特許付与後にすべきであり、異議申立人は(ダミーではなく)真の利害関係者が特定されるようにすること。手続きは、特許権者と真の利害関係者との間の、完全なる当事者系手続きで進める形態にすべき。迅速処理と費用対効果を旨とし、特許権者に対するハラスメント回避にも配慮する必要がある」

提言2:特許の有効性を覆すための証明基準を(現行の「明白かつ説得力ある証拠」基準より緩い)「証拠の優越」基準とする

⇒AIPLA回答「提言に反対。FTCリポートの証明基準緩和提言は、簡単に構築される一方で反証することがほぼ不可能な特許無効主張の試みを退けてきた先例を、台無しにしかねない。FTCは、「明白かつ説得力ある証拠」基準の範囲と意義を誤解しているようだ。はっきりと論拠の示されている先例では、『明白かつ説得力ある証拠によって証明されなければならないのは、有効性判断の根拠となる事実、すなわち先行技術の内容および当業者の知識/技量水準である』としており、その法的結論(例えば非自明)についてではない。……正しく適用されるならば、この証明基準は適切なものであり、特許有効性に対するチャレンジを不当に困難なものとしたり、論争の場を不公正に歪めるものとはならない。」

提言3:特許の「自明性」評価基準を厳しくする

a) 「商業上の成功」テストの適用に際しては、1) 商業上の成功が当該発明の非自明性を示す有効な要素となるか否かをケースバイケースで評価する、2) 当該発明と商業上の成功の因果関係を証明する責任を特許権者側に課す

b) 「示唆(suggestion)」テストの適用に際しては、当業者の特徴である創造性および課題解決能力と、先行技術引例を組み合わせ、またはそれに変更を加える能力との整合性をもたせる

⇒AIPLA回答「これらの提言が現行法の変更を要求するものでない限りにおいて、提言に異論なし」

a) 「商業上の成功テスト」について: 商標上の成功の証明および商業上の成功と発明の非自明性との因果関係の証明に関するルールに何ら変更を求めるものとは認められない。自明性は、商業上の成功のみに依拠しておらず、またそうあるべきものではない。

b) 「示唆テスト」について: 商業上の成功テストと同様、このテストについてもFTC提言は現行法の変更を要するものとは認められない。

提言4:特許庁に十分な予算を確保する

⇒AIPLA回答「提言を支持する。特許庁が2002年に構築した21世紀戦略プランを支援するために追加資金を投入すること、とくに現在の料金値上げ法案に異論はない。ただし、値上げ分が専ら特許庁の業務改善に向けられることが前提であり、特許庁以外で使用されることには反対する。」

提言5:いくつかの特許庁規則を改正し、特許庁の「21世紀戦略プラン」の一部を実施する

a) 現行特許庁規則を改正し、審査官の求めに応じ、出願人は先行技術引例の関連性に関する意見書を提出することとする

b) 規則105に基づく審査官による質問の利用を促すとともに、規則105を改訂し合理的フォローアップを認めるものとする。

c) 特定の分野に対する「第2の目」の追加審査を拡張するという「21世紀戦略プラン」に記された特許庁の提言を実施する

d) 特許庁は「知的財産における公益と、特許及び商標における各顧客(出願人/権利者)の利益のバランスを構築する」という認識を引き続き維持してゆく

⇒AIPLA回答「提言5(c),5(d)には賛成、5(a), 5(b)には反対」

a) かかる意見書の提出がほとんど、あるいは全く有用な結果につながらないことは過去の経験が物語っている。出願人がかかる意見書でどのようなことを述べても、後の訴訟において不利に利用されるであろうリスク、あるいはかかる意見書の作成自体に要する時間とコストを考えたとき、この提言によって審査官が見出すであろう便宜の比重は、かなり小さなものとならざるをえない。

b) これも、審査官との連絡を複雑化、長期化させるマイナスの効果の方が大きいと考えられる。

提言6:特許適格主題の範囲を広げる前に、競争を阻害する可能性について(その他の利益やコストの可能性と共に)検討する

⇒AIPLA回答「『自然現象、抽象的な知的概念、メンタルステップ、実質的な応用性のない数学的アルゴリズム、印刷物および(つい最近まで)ビジネス方法に対する伝統的なコモンロー上の非適格主題』に関するFTCの見解には同意する。すなわち、現行特許法下での特許適格主題に関する合衆国憲法の指令、議会の政策決定の範囲に対するFTCの認識には同意するものではあるが、その根拠、最近の裁判所判決によって生じた問題の存在と性質に対する評価に対しては同意できない。

現行特許法はすでに特許適格主題に関する議会の政策を実現するための十分な制定法上の基準を具現化している。FTCの努力は、さらなる政策論に向けるよりも、これら制定法上の基準(有用性、新規性、自明性、明細書記載要件)の一貫した適用の改善に焦点を当てることによって、より生産的なものとなろう」

III.競争上の懸念を生じさせる他の特許法および手続き

提言7:すべての特許出願について出願後18ヶ月に公開する法を制定する

⇒AIPLA回答「提言に賛成。(出願の18ヶ月公開について定めた)1999年アメリカ発明者保護法は、対応外国特許出願を提出しておらず、米国にのみ出願した者が、出願公開をしないよう請求することを認めている。出願の早期公開は、係属中の権利に関する不安定性を減じ、公衆に対する早期の技術伝播をもたらし、公開対象の出願を決定するという特許庁の管理手続き上の責務を減ずることに資する。・・・ただし、公開前に放棄した場合の非公開は確保されなければならない」

提言8:継続出願等において初めて導入されたクレームに基づく侵害請求への抗弁として、介在権または先使用権を設置する法を制定する

⇒AIPLA回答「提言が、個々の出願の有効出願日前に使用された製品またはプロセス(または使用の実質的な準備)について先使用権を付与するものである限りにおいて、提言を支持する。・・・AIPLAは、介在権(intervening rights)とプロセキューション・ラッチェスに関する現行法を支持するものであるが、公開された出願のクレームによってカバーされていない主題について継続使用することを可能とする介在権を認めると、意図しない結果を招くことがありうる。したがって、有効出願日を先使用の基準日とすべきであり、その後の日にすべきではないと考える。

現行の先使用権は、特許法第273条に定められている。これは、同条が適用される発明主題および他の側面について特定の制限を設けており、それゆえ先使用権の効果を減じている。すなわち、主題としては『ビジネスを行う方法』に限定されており、また先使用は当該特許出願の有効出願日の1年以上前に行われていなければならず、先使用の範囲に『実質的準備』が含まれていない。AIPLAは、これらの制限を除去するとともに、先使用行為に『実質的準備』を含める273条の改正を支持する」

提言9:故意侵害責任の成立要件として、1) 特許権者からの現実の侵害警告書、または2) 特許対象であることを知りながら特許権者の発明を故意にコピーしたことを要求する法を制定する

⇒AIPLA回答「提言を強く支持する。FTCが(本リポート作成に先立ち)開催したヒアリングにおいて、自社エンジニアが特許公報を読むことを禁じている企業についての証言があった。特許公報を読むことにより、権利者から故意侵害を主張されることを恐れるがゆえだという。このような恐怖が正当な根拠に基づくものであるか否かはともかく、故意侵害に関する現在の法が、『有用な技術の進歩…を促進する…』という合衆国憲法の目的を実質的に損ねていることを示している。」

提言10:特許法に関わる判断においては経済および競争上の影響についても配慮を及ぼすこと

⇒AIPLA回答「提言には疑問がある。反トラスト法と特許法を平行させることは適切でない。反トラスト法の適用においては『合理の原則(Rule of Reason)』がよく用いられるが、例えば自明性の判断などにおいては全く別のアプローチがとられている。有用性、新規性、記載要件はそれぞれ、『当然(違法)の原則(per se rule)』がとられる。……明確に定められた特許法基準の解釈や適用に経済理論を注入すれば、さらなる不安定性の増大を招くことになろう。AIPLAは、特許庁でも裁判所でもなく、議会こそ、経済理論と競走政策原理を検討するにもっとも適した機関であると考える。

(藤野仁三:現・東京理科大学大学院MIP教授)

関連記事

お役立ち資料
メールマガジン