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2004.10.27

【Cases & Trends】クレーム解釈におけるCAFCアプローチの揺らぎ- 混乱解消を目指すPhillips v. AWH大法廷審理の行方は?

クレーム解釈は、陪審ではなく裁判官の専権事項たる法律上の問題、としたマークマン最高裁判決(Markman v. Westview Instruments, Inc., 517 U.S. 370 (1996))から8年。最近になり、下級審におけるクレーム解釈手法をめぐり混乱が生じています。特に、特許事件の専門裁判所たる連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)における混乱は看過できないものとなり、本年7月4日、CAFCは、クレーム用語の解釈をめぐり争っていたPhillips v. AWH Corp.事件において一度パネル(3人判事の合議体)が下していた判決を破棄し、CAFC全判事で再審理することを決定しています(Phillips v. AWH Corp., Fed. Cir., No.03-1269, 7/21/04)。
【混乱を招く2つのアプローチ】

混乱の原因とされているのが、マークマン判決以降、特に最近になって表面化してきたクレーム解釈手法の以下2つの流れ。すなわち、争点となっているクレーム文言の意味を判定する際に、

(1) まず内部証拠(”intrinsic evidence”特許明細書、審査経過、クレーム自体)を参照すること。これらを検討した後、なお不明瞭な点が残る場合、裁判所は外部証拠(”extrinsic evidence”辞書、技術論文、専門家証言)を参照する。

(2) まず外部証拠を参照してクレーム文言の「通常の意味(ordinary meaning)」を決定する。内部証拠については、辞書に基づく通常の意味を特に否定/放棄するものがあるか否かについて参照するにとどめる。

という、主に2つのアプローチのいずれかがCAFCパネルによってとられているのです。この辺りの混乱については、最近下されたAstrazeneka AB v. Mutual Pharmaceutical Co.事件のCAFC判決にもよく表れています(Astrazeneka AB. V. Mutual Pharmaceutical Co., Fed. Cir., 9/30/04)。この事件は、血圧降下剤について特許を有するAstrazeneka社が、Mutual Pharmaceutical社による侵害を主張して提訴したもので、争点のひとつとなったのが特許クレーム中の”solubilizer”という語の解釈。

以下、マイケル・M・ベイルソン判事が書いた意見書の一部を紹介します。

「……”solubilizer”に対する当業者一般の理解、および”solubilizer”と”solubility”に対する一般的な辞書の定義に依拠して、地裁は、”solubilizer”の『通常の意味』は前記3種類の化学物質を包含すると判断した。ここで地裁は、本件特許の内部証拠によってこの通常の意味が狭められるものではないと述べている。……地裁によって注意深く書かれた長文の意見書は、当裁判所の最近の判例に依拠しているが、残念ながらその判例は複雑かつ一貫性に欠けるものである。

……当裁判所の多くの判例が、特許の内部証拠(とりわけ明細書)がクレームの意味を判定する上での主たる拠り所になることを示している……。例えば、Bell Atl. Network Servs., Inc. v. Covad Communications Group, Inc.(Fed. Cir 2001); Vitronics Corp. 1
NGB Sales & Marketing Dept. S.Iino, Oct 27, 2004
v. Conceptronic, Inc.(Fed.Cir. 1996)参照。事実、このアプローチは、古くから特許法において受け入れられた法理となっている。例えば、Autogiro Co. of Am. v. United States(Ct.Cl. 1967); Musher Found., Inc. v. Alba Trading Co.(2d Cir. 1945)参照。……一方、当裁判所による最近の事例のいくつかにおいて、内部証拠(クレームを除く)は、当業者にとっての通常の意味が決定された後に初めて参照されるべきもの、とする表現が使われている。例えば、Tex. Digital Sys., Inc. v. Telegenix, Inc.(Fed. Cir. 2002)参照。このような判例においては、通常の意味を決定する際の技術辞書や一般辞書の利用を強調する表現が用いられている。このアプローチのもとでは、クレームの通常の意味が明らかである場合、例えば明細書における発明の詳細な説明は、それが通常の意味を否定したり、他の定義づけ機能を有することが明確な場合にのみ関連性をもってくる。

このような背景の下、本件においても、”solubilizer”という語の解釈に際し、内部証拠を優先させるのか、あるいは(明確な否定や他の定義づけを有する内部証拠がない限り)論文や辞書に基づき決定された通常の意味に従うのかが問題となる。

当裁判所は、法律上の問題として、いずれのアプローチが正しいものであるかを本件において決定する必要はない*3。たとえAstrazenecaが求めているアプローチ(外部証拠優先)を採用したとしても、地裁のクレーム解釈は破棄されなければならないからだ。本件で提示された内部証拠は、”solubilizer”に対し外部証拠が示す定義より狭い定義でAstrazenecaを縛り付けているのだ。 (*3: なお、この問題は間もなく解決されることになるものと思われる。Phillips v. AWH Corp.事件におけるCAFC大法廷再審理決定参照)……」

【混乱解消を目指すPhillips v. AWH大法廷審理】

今回、大法廷再審理を決定するに際し、CAFCは以下7項目の質問事項を提示して、各当事者の見解を提示するよう求めています。

1. 公衆への告知機能(public notice function)という特許クレームの役割は、主に技術辞書や一般辞書その他これに類するものを参照してクレーム用語を解釈することで、よりよく果たすことができるのか。それとも主に明細書に記載された特許権者の、当該用語に対する使い方を参照する方がいいのか。

2. クレーム解釈の主たる拠り所を辞書にすべきであるとした場合、(辞書によって定義された)クレーム文言の全範囲は、以下の場合にのみ制限されるべきなのか。すなわち、特許権者が自ら辞書編集者として行動した場合(明細書中で明確な定義づけをした場合)、あるいは明細書中にクレーム範囲の明確な放棄が反映されている場合。そうであるならば、明細書中のいかなる文言がこの条件を満たすのか。同一の用語に対し複数の定義が辞書に示されている場合、「通常の意味」の概念はどのように適用されるのか。辞書が適用可能な複数の定義を示している場合、どの定義を適用すべきかを決定するために明細書を参照することは適切か。

3. クレーム解釈の主たる拠り所を明細書にすべきであるとした場合、辞書はどのように利用されるべきか。例えば、ひとつの実施態様だけで他にクレーム範囲について示すようなものが開示されていない場合、クレーム文言における通常の意味の範囲は、明細書に開示された発明の範囲に限定されるべきなのか。

4. 本件において破棄されたパネル判決の多数意見と反対意見に示された2つのクレーム解釈手法を、それぞれ代替的な相反するアプローチとみるよりも、互いに補完しあう手法として扱うべきなのか。すなわち、クレームは二重に限定されるものであり、特許権者は、自ら求めるクレーム範囲を確立するために両方の限定手法を満たさなければならない、とすべきか。

5. クレーム文言が、例えば特許法102条、103条および112条に基づく無効回避のみを目的として狭く解釈されるべきなのは、どのような場合か(そのような場合があるとして)。

6. 争われているクレーム用語の意味を決定するに際し、審査経過や当業者による専門家証言は、いかなる役割を果たすべきか。

7. Markman v. Westview Instruments, Inc.事件における最高裁判決(517 U.S. 370 (1996))およびCybor Corp. v. FAS Technologies, Inc.事件における当裁判所の大法廷判決(138 F.3d 1448 (Fed. Cir. 1998))との整合性に鑑み、当裁判所が事実審(連邦地裁)のクレーム解釈のいかなる側面についても尊重することは適切か。
CAFCは、以上7項目について両当事者の見解提出を求めるとともに、法曹協会、業界団体、政府機関、その他利害関係者による意見書(amicus curiae brief)の提出を促し、特に特許庁については名指しで意見書提出を求めています。

特許法のいくつかの側面について、「事件を担当する判事(パネル)によって法の適用にズレが出る」、「CAFC設置前に特許事件を扱っていた各地区の控訴裁判所(regional circuit)と比較してCAFCの判断は予測可能性が低い」といった関係者の声に対しては賛否両論があるところですが、少なくともこのクレーム解釈問題については「予測可能性の低さ」で専門家の見解は大方一致しているようです。この意味で、Phillips v. AWH事件の大法廷審理の行方は広く注目されるところなのです。

* 大法廷再審理を決定した命令書の原文は以下のサイトで
->http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/03opinions/03-1269o.html
* Astrazeneka判決の原文は以下のサイトで
->http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/04opinions/04-1100.html

(渉外部・飯野)

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