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2005.05.07
今回の判決では、クレーム解釈において優先的に参照されるべきは明細書や審査経過(「内部証拠」)であり、辞書などの「外部証拠」はあくまで副次的なものとする、ということで12人のCAFC全判事中9人が一致しました。「要するに今回の判決は、クレーム解釈に関する法に実質的変更をもたらすものではないが、10年にわたるクレーム解釈判例法の有用かつ重要な要約、としての性質をもつ」といわれています(弊社主催フィリップス事件セミナー(2005年5月)講師の米Foley & Lardner法律事務所コメント)。いずれにせよ、これにより“Battle of the Dictionaries”(両当事者が自らに有利な定義を含む辞書をかき集め法廷へ提出し合う)という昨今の米国特許訴訟法廷の傾向が沈静化に向かうことが期待されます。
以下、判決文(多数意見部分、計38頁)より骨子を部分的に抜き出し、とり急ぎご紹介いたします(因みに、ローリー判事、ニューマン判事が一部補足意見・一部反対意見を提出、メイヤー判事、ニューマン判事が反対意見を提出しています)。本判決に関する専門家の見解や詳細については、弊社発行の”I.P.R.”誌にて順次ご紹介してゆく予定です。
クレーム解釈における明細書の役割 (*以下、ヘディングは筆者が適宜加えたものです)
本件が当裁判所に提起した主たる争点は、特許クレームの適切な範囲を判断するに当たり、特許明細書にどの程度依拠すべきか、ということである。
これは決して新しい問題ではない。クレーム解釈における明細書の役割は、ほぼ2世紀にわたり我が国の特許訴訟における争点となってきた。当裁判所は、Markman v. Westview Instrument, Inc.事件(52 F.3d 967(Fed. Cir. 1995))において、明細書とクレームの関係につきある程度の検討をした。さらにVitronics Corp. v. Conceptronic, Inc.事件(90 F.3d 1576 (Fed. Cir. 1996))において、また、より最近のものとしてはInnova/Pure Water, Inc. v. Safari Water Filtration Systems, Inc.事件(381 F.3d 1111 (Fed. Cir. 2005))において、当裁判所は再び適用可能な原則についてまとめた。
これらの事件を通じて当裁判所が述べてきたクレーム解釈の基本原則はいまなお適用可能であり、今日、当裁判所はこのことを改めて確認する。当裁判所はまた、クレーム解釈における辞書の使用についてもこれまでの事件で扱ってきた。これに関し当裁判所が述べてきたことについては、ここで明確にしておく必要がある。
「特許クレームは、特許権者が排他権を与えられた発明を定義する」というのは、特許法の「根本原則」である。この原則は少なくとも、発明者が「自らの発明または発見として主張するところの、一部、改良または組み合わせを具体的に特定すべき」部分を含む明細書を提出することを、議会が初めて要件とした1836年から認められている……。
・「通常の意味」
当裁判所はしばしば、クレームの用語は「一般に、その語がもつ、通常の、慣用的意味(ordinary and customary meaning)を有する」と述べてきた。さらにこの「通常の、慣用的意味」とは、発明時すなわち当該特許出願の有効な出願日の時点において、当業者に対してもちうる意味であることを明確にした……。当業者が当該クレーム用語をどのように理解するであろうかという問いは、クレーム解釈の出発点となる客観的基本線となる……。
重要なことは、当業者は、争われている用語が含まれる特定のクレームの文脈に照らしてのみクレーム用語を読むのではなく、明細書を含む特許全体の文脈に照らして読むものとみなされることだ……。
・「通常の意味」の決定方法
いくつかのケースにおいては、当業者によって理解されるクレーム用語の通常の意味は、技術に素人の裁判官にとってさえ明らかであり、そのような場合のクレーム解釈は、一般に理解されている用語の広く受け入れられた意味を適用する以上のものとはならない。そのような状況においては、一般辞書を参照することが有用である。
しかしながら、訴訟に至るような事例の多くでは、クレームの通常の意味を決定するために、当該技術分野における特定の意味を調べることが必要になる。当業者によって理解されるクレーム用語の意味は、すぐに明らかになるものではなく、かつ、特許権者はしばしば独自の用い方をするため、裁判所は「争われているクレーム用語の意味について当業者がどう理解するであろうかを示す、公衆に利用可能なソース」探るのである。このソースには「クレームの文言自体、明細書の他の部分、審査経過、さらに関連する科学原則、技術用語および技術水準に関する外部証拠」が含まれる……。
クレームは、「完全に一体化している特許文書」の一部を構成する。このため、クレームは「自らその一部である、明細書に照らして読まなければならない」 ……Vitronics事件において、当裁判所が述べた通り、明細書は「常にクレーム解釈分析と強い関連性をもっており、通常、決定的なものとなる。明細書こそ、争われている用語の意味を探る単一のものとしては最良のガイドなのである……」
審査経過
明細書と同様、審査経過も、特許庁と発明者が当該特許をどのように理解しているかを示す証拠となる。さらに審査経過は、明細書と同様、特許権者が説明をし、特許を取得しようとして、特許権者が作り上げたものである。ただし、審査経過は、特許庁と出願人との間で展開されている交渉過程を示すものであり、交渉結果を示すものではないため、明細書よりは明確性に欠ける場合があり、したがって、クレーム解釈目的上は、明細書より有用性において劣る。……しかしながら、審査経過は、発明者が当該発明をどのように理解しているか、あるいは発明者が審査過程において発明の範囲を限定したか否かを示すことにより、クレーム文言の意味を示すことがしばしばある……。
クレーム解釈における外部証拠の役割
当裁判所はクレーム解釈における内部証拠の重要性について強調してきたが、一方で、地裁が外部証拠に依拠することも認めてきた。外部証拠とは、「特許およびその審査経過の外にあるすべての証拠をいい、これには専門家や発明者の証言、辞書、学術論文が含まれる……」
辞書、特に技術辞書はさまざまな科学技術分野で使用されている用語の、受け入れられている意味を収集する努力がなされているため、ある発明における当業者の観点に立った用語の意味を決定する際に、裁判所を支援する多くのツールの中でも適切なものとして認められてきた……。
専門家証言という外部証拠もまた、争点となっている技術の背景情報を提供する、発明の作用の仕方について説明する、あるいは当該特許の技術側面に対する裁判所の理解を当業者と一致させる、といった目的において裁判所にとり有用であると当裁判所は述べてきた。
ただし、外部証拠はいくつかの理由により、一般に内部証拠より信頼性が劣るといわざるを得ない。第1に、そもそも外部証拠はその性質上、特許の一部を構成するものではなく、特許の範囲と意味を説明する目的で特許出願審査時に作成された明細書と同じ能力をもっているとはいえない。第2に、クレームは当業者という仮想の人物を基準に解釈されるが、外部証拠である文献は当業者によって、または当業者のために書かれたものではないものもあるため、当該特許における当業者の理解を反映していない場合がある。第3に、専門家証言という外部証拠は、訴訟のときに訴訟を目的として作成されるため、内部証拠には存在しない偏見が含まれる可能性がある。第4に、クレーム解釈に多少なりとも関係のあるという理由で外部証拠として利用されうるものが際限なく広がってしまう。訴訟過程において、各当事者は必然的に、自らに有利な一片の外部証拠を利用しようとするため、裁判所は真に有用な外部証拠を選りだす作業に忙殺されることになる。最後に、過度に外部証拠に依拠すれば、「クレーム、明細書、審査経過からなる争いのない公的記録」に反してクレームの意味を変えるために利用され、特許の「公衆への告知機能」を損ねるリスクが生じることになる。
要するに、外部証拠は裁判所にとって役に立つものではあるが、あくまで内部証拠の文脈内で考慮しない限り、信頼おけるクレーム範囲解釈につながる可能性は低い。ただし……外部証拠のもつ有用な部分に鑑みれば、地裁が健全な裁量のもとにかかる証拠の使用を認めることは許される。かかる裁量権を行使するに際し、裁判所は各タイプの証拠に固有の欠点を忘れることなく、証拠としての評価をしなければならない。
過去の誤った判例 ‒ Texas Digital判決
以上に述べた原則はことあるごとに示してきたことであるが、当裁判所のいくつかの事例において、これと異なるクレーム解釈アプローチが示唆されたことも事実だ。すなわち、クレーム用語に対する辞書の定義により大きな重点を置き、明細書と審査経過の役割を低めたケースであり、その代表例がTexas Digital Systems, Inc. v. Telegenix, Inc.事件(308 F.3d 1193 (Fed. Cir. 2002))といえる。
……辞書の役割をそこまで高めてしまうことの主な問題点は、当該特許の文脈内におけるクレーム用語の意味よりも、用語の抽象的な意味に焦点が当てられてしまうことだ。正しい見方をするならば、クレーム用語の「通常の意味」とは、特許全体を読んだ後に通常の当業者が理解するであろう意味をいう……。
Texas Digital判決およびこれを踏襲する判例は、明細書中に放棄や再定義が明記されていない場合であっても、ある状況下では辞書による定義を狭くすることを認めているものの、実際は、明細書記載の文脈から完全に離れた辞書定義の採用を大目に見るために依拠される場合があまりにも多い。問題は、地裁があらゆるケースにおいて広い辞書定義から始め、この定義が明細書によってどのように黙示的に制限されるかを完全に理解しない場合だ。これにより、クレーム解釈を不等に広げるという誤りがシステマチックに生ずることになる。このシステマチックな拡大定義リスクは、裁判所が、最初に辞書ではなく、クレーム、明細書および審査経過において特許権者が当該クレーム用語をどのように用いたかに焦点を当てることにより減ずることができる……。
->判決原文は以下のサイトで:
http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/03opinions/03-1269.pdf
(渉外部・飯野)