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2005.06.06
「クレーム解釈アプローチで揺れるCAFC」と、その余波で混乱する事実審裁判所(連邦地裁)が主たるテーマになったわけですが、強く印象に残ったのは、「米国特許訴訟法廷の現状、それは”Battle of Dictionary”」という事実です。特許クレームの用語解釈について争いがある場合に利用される、外部証拠(extrinsic evidence)としての辞書の位置づけ(証拠としての優先度)がひとつの論争点となっているわけですが、とにかく証拠として利用可能である以上、各当事者は自らに有利な定義を持つ辞書を探し出し、法廷でぶつけ合うという壮絶な(?)Dictionary Battleが繰り広げられているといいます。カミンスキー、クロージン両弁護士自身が経験したDictionary Battleのひとつは次のようなものです。
クレーム中の“Intermediate”という語の意味が問題となりました。カミンスキー弁護士らは、この用語の意味は「A、Bふたつのポイントの間にある、いずれかのポイント」であると主張し、この定義を示す5辞書を提出。これに対し相手方は「A、Bふたつのポイントのちょうど真ん中」であると主張し、この定義を示す2種類の辞書を提出したといいます。法廷でのクレーム解釈ヒアリング(マークマン・ヒアリング)においては、専門家証人も呼び出し、結局、カミンスキー弁護士側の主張が認められました。しかし、この一見当たり前の用語解釈をめぐる争いだけで、多大の時間と費用がかかってしまったということです。因みにFoley & Lardner法律事務所では、このBattle of Dictionaryに対処すべく、3000種類の辞書が利用可能になっているそうです。
前置きが長くなってしまいましたが、今回ご紹介するのはクレーム解釈とは別事例。セミナー講師のひとりであるクロージン弁護士から提供を受けた、標題の最新CAFC判決2件の紹介記事です。これらは米特許法の域外適用を新たに認めるCAFC判決として注目されており、すでにご存知の方も少なくないと思いますが(NPT v. RIM事件については当社”I.P.R.”誌でも紹介済です。2005年1月号 [19 IPR 13])、コンパクトにまとめられていますので、ここでご紹介いたします。
ケネス・E・クロージン*
連邦巡回区控訴裁版所(CAFC)は、最近扱った2つの事件において、外国でなされた行為に対する米特許侵害責任の適用範囲を拡大した(これは問題となった外国での行為について同裁判所が検討した初のケース)。
1件目はEolas Technologies, Inc. v. Microsoft Corp.事件(2005 U.S.App. LEXIS 3476, Fed.Cir., March 2, 2005)。争点は、マイクロソフトによる「ゴールデン・マスター」ディスクの輸出行為が、米特許法第271条(f)項(1)に基づきEolasの特許侵害を構成するか否かというもの。マイクロソフトは、IE(Internet Explorer)付きのウインドウズOSのソフトウェアコードを含む「ゴールデン・マスター」ディスクの一定数を米国外のOEMメーカーに輸出していた。OEMメーカーは、このディスクを用いて同ソフトウェアコードを米国外で販売するコンピューターに搭載していた。Eolasは同社保有特許をIEが侵害していると主張して、合理的実施料相当額の損害賠償を求める訴訟を提起した。陪審はEolasの主張を認め、5億2000万ドル以上の損害賠償を認定した。この賠償額の算定根拠の一部となったのが、OEMメーカーによる米国外でのIE付きウインドウズの販売だった。
控訴を受けCAFCは、米国内で書かれ、その後国外へ輸出されたソフトウェアコードは、米特許法第271条(f)項(1)に基づく「特許発明のコンポーネント」といえるか否か、という争点を検討した。マイクロソフトは、271条(f)項(1)でいう「コンポーネント」は装置の物理的コンポーネントに限定されており、ゆえにウインドウズOSをOEMコンピューターのハードドライブにダウンロードするためだけに使用された「ゴールデン・マスター」ディスクは「コンポーネント」に該当しない、と主張した。CAFCは以下2つの理由でマイクロソフトの主張を斥けた。
第1に、271条(f)項(1)の明らかな文言は、特許発明のコンポーネントについて「有形物」であることを要件としていない。第2に、「ゴールデン・マスター」ディスクは「コンポーネント」であるばかりでなく、おそらく本件発明における主要部分を構成する。
ただし、CAFCは、マイクロソフトによる特許無効主張(新規性欠如、自明性、不公正行為の抗弁)について地裁がさらに検討すべきとして、地裁判決を破棄し、差し戻した。
2件目は、NTP, Inc. v. Research In Motion, Ltd.事件(392 F.3d 1336, Fed.Cir. Dec.14, 2004)。本件において原告NTPは、Research In Motion(RIM)のBlackBerry.無線電子メール・システムがNTPの特許を侵害すると主張した。このシステムは、BlackBerry.携帯ユニット、電子メール転送ソフトウェア、全国的ワイヤレスネットワークを利用するもの。すべての電子メールメッセージは、カナダにあるRIMの無線ネットワーク中継局を介して経路指定される。事実審において、陪審は、RIMのBlackBerry.システムによるNTP特許5件の侵害を認定し、合計5370万ドルの損害賠償を認めた。控訴を受けたCAFCはクレーム解釈における過誤を理由に事件を差し戻したが、地裁の特許法第271条(a)項に基づく侵害認定自体は誤っていないと判断した。
本件においてCAFCが検討した域外適用争点は、カナダというBlackBerry.中継局の場所ゆえに、271条(a)項に基づく侵害が排除されるのか否かということであった。CAFCは次のように説明して、NTPの主張(侵害)を認めた。
「特許の存続期間中の・・・米国内におけるいかなる特許発明の・・・”使用”・・・も、特許を侵害する」という271条(a)項の明らかな文言によれば、当該システムが米国内で「使用されている」限り、当該システムのコンポーネントが物理的に米国外に位置していたとしても、侵害認定を排除することはできない。「有効な利用、および全体的(BlackBerry.)システム・アセンブリの機能する場所が米国であることに議論の余地はない」。また、「RIMの顧客、彼らがコントロールを確立するBlackBerry.装置を購入する場所、およびBlackBerry.システムの有効な使用の場所が米国内であるという事実は、271条(a)項における”米国内”の要件を充足するものである」といえる。
2005年3月16日、RIMに対するNTPの訴訟は、RIMによる4億5000万ドルの損害賠償支払い(過去の侵害分)およびNTPによるRIMへのライセンス供与(サブライセンス権付き)という条件で、和解が成立した。
* Kenneth E. Krosin 弁護士, Foley & Lardner LLP パートナー