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2005.09.05
地裁レベルの判決(略式判決:summary judgment)ではありますが、米国特許表示要件、さらには「現実の通告」や「擬制通告」といった概念との関係を整理・復習するのにちょうどいいと思います。
原告Soverain Software LLC(以下「SSL」)は、ネットワーク上での購入品選択、代金決済など、ネットワーク販売システムを対象とする3件の米国特許5,708,780号; 5,909,491号; 5,715,314号を保有している(Open Market, Inc.から取得したもので、「ショッピングカート特許」と呼ばれている)。SSLは、被告Amazon.com.Inc.(以下「アマゾン」)がこれら3件の特許を侵害していると主張して、テキサス東部地区連邦地裁に訴えを提起した。
アマゾンは、SSLによる特許表示要件不備を主張する一部略式判決(partial summary judgment)を申し立てた。アマゾンによれば、SSLは実際に侵害通告をアマゾンにしたわけでもなく、特許製品への特許表示による擬制通告(constructive notice)もしていないため、アマゾンは本件訴訟の提起により始めて侵害通告を受けたことになる。さらにアマゾンは、SSLおよび前特許権者(Open Market, Inc.)が同特許ライセンシーに特許表示要件を遵守させなかった、と主張した。
[判 旨]
特許表示要件
侵害に対する損害賠償を請求するためには、特許権者は法定の特許表示要件を遵守しなければならない(特許法287条(a))。
一般に、特許権者は、(1)特許法287条(a)に従って特許対象品に特許表示を付したとき、あるいは (2)侵害者に対し現実に侵害通告をしたとき、のいずれか早い時点を始点として損害賠償を請求することができる。
ただし、この表示要件は方法のクレーム(method claim)には適用されない — 通常、表示すべき物が存在しないため。方法のクレームと装置のクレーム(apparatus claim)をともに含む特許の場合は、「当該方法クレームに関する通告をするための表示が可能な有体物が存在する限り」、特許表示することが要求される(Am. Med. Sys., Inc. v. Med. Eng’g Corp., 6 F.3d 1523, 1537 (Fed. Cir. 1993))。
・現実の通告(actual notice)
特許権者が、特定の侵害被疑製品・装置による侵害の具体的な申立てを被疑侵害者に積極的に通知する場合に、特許権者が被疑侵害者に対して現実の侵害通告をしたといえる。具体的な侵害申立てという要件は、特許権者が訴訟の脅威を与えなければならないという意味ではない。特許権者は、ライセンス供与その他の方法により、侵害を排除する提案をすることができる。
要するに、現実の侵害通告において、特許権者は、単に特許権の存在やその保有者であることの通知ではなく、侵害を申し立てる内容を提示しなければならない。被告が特許の存在や自らの侵害について知っていたか否かは関係ない。侵害通告要件において問題となるのは、あくまで特許権者側の行為であって、被告側の認識・理解ではない……。
本件における特許表示(擬制通告)の要否
・特許対象「品」 – ライセンシーのウェブサイトへの表示義務
アマゾンは、ウェブサイトを運営しているSSLの32のライセンシーが自らのウェブサイトに特許表示をしておらず、したがって、特許法上の表示要件を充たしていないと主張する。これに対し、SSLは、ウェブサイトは特許表示要件の対象外となる無体物であると反論した。
方法クレームと装置クレームを含む特許の場合、特許表示要件を充たすために、表示の可能な有体物に特許表示を付すことが要求される(前出Am. Med. Sys., Inc. v. Med. Eng’g Corp.事件「当該方法クレームに関する通告をするための表示が可能な有体物が存在する限り」、特許表示することが要求される)。アマゾンは、特許表示を含むウェブサイトのスクリーンショット、さらにはOpen Market社(本件特許の前権利者)がライセンシーのウェブサイトにおけるリーガル・ノーティス部分に特許表示を含ませるよう要求していたことを示す証拠を提出した……。
SSLは、特許表示を付すことが可能か否かということよりも、「有体物」か「無体物」か、という特許対象アイテムの位置づけを求めている。これは、悪意のない侵害を避けること、当該アイテムが特許対象であることを公衆に告知することを特許権者に奨励し、公衆が特許対象品を認識することを支援することという、特許表示要件の目的に反する。方法と装置のクレームをもつ特許の場合、表示を付すことのできるアイテムが存在するのであれば、表示を付すことにより擬制通告をしなければならないのである。したがって、裁判所は、特許表示を付すことができるか否かに関係なく、特許対象アイテムが有体物か無体物であるかの位置づけだけを判断基準とするのではなく、「有体のアイテム」を(Am.Med.Sys., Inc.事件で用いられたごとく)表示を付すことのできるアイテムと定義し、「無体のアイテム」を表示を付すことのできないアイテムと定義するのである。
SSLは、ウェブサイトが特許表示を付すことが可能なものであること、また、全権利者であるOpen Market社と同様にライセンシーに対しウェブサイトに表示する要求ができたことについては争っていない。したがって、本争点については、略式判決を不適切とするような事実争点をSSLが提起しているとはいえない。
……よって、本争点に関するアマゾンの略式判決申立てを認容する。
(渉外部・飯野)