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2005.10.08

【Cases & Trends】CAFCが確立した自明性判断基準の見直しを迫る最高裁上告請求事件

質に問題のある特許の認可、その結果存在する多くの不確定な権利、それに伴って生じる訴訟および訴訟コストの増大、あるいは「パテント・トロール」による特許制度濫用・・・IPニュースでもご紹介した米特許改革法案(『2005年特許法』H.R.2795)が提案した改正案の多くは、米産業界自身が悲鳴を上げているこのような深刻な問題に対処するためのものです。議会だけではなく、司法の場でも、「有用な技術の進歩」に真に貢献するための特許制度へ立ち戻るべく、具体的事例を通じて、権利範囲の判断基準や均等論の適用基準などの見直しが試みられています。

そしていま、特許の質に関するもうひとつの大きな問題が法廷で議論されています。これまで米国特許の質低下議論において、「特許性のハードルが低くなったこと、特にCAFCが確立してきた判例法により非自明性(non-obviousness)の判断基準が低くなったこと」がしばしば指摘されてきましたが、まさにこのCAFCによる自明性判断基準の見直しを求める事件が、連邦最高裁に持ち込まれようとしているのです(KSR International Co. v. Teleflex Inc., U.S., No.04-1350)。

この事件は、2002年に原告Teleflex Inc.が、自動車用の調整ペダルアセンブリに関する同社保有特許(6,237,565B1)の侵害を主張して、被告KSR International Co.をミシガン東部地区連邦地裁に提訴したもの。これに対しKSRは ’565特許の自明性と主張し、同特許を無効とする略式判決(summary judgment)を下すよう地裁に申し立てました。地裁は、問題の特許発明が調整ペダルアセンブリと位置センサーという2つの先行技術の自明な組み合わせに過ぎないと判断し、KSRの申立てを認容。しかし、Teleflexの控訴を受けたCAFCは、地裁が採用した自明性判断基準に誤りがあるとして原判決を取り消しました。CAFCは、自明性を理由とする特許無効判断を下すためには、「それぞれの先行技術中の教示事項を、当該特許においてクレームされた特定の方法で組み合わせるようにする『教示(teaching)、示唆(suggestion)、または動機付け(motivation)』が存在することを具体的に認定しなければならない」と指摘し、事件を地裁に差し戻したのです(2005年1月6日判決)。

KSRはCAFCの自明性判断基準に異論を唱え、最高裁に上告請求を提出しました(2005年4月6日)。その後、自明性判断基準に対するKSRの立場を支持する意見書(amicus brief)が、24人の米法学教授グループ、マイクロソフト社、あるいはデジタル革命が公共政策に及ぼす影響を研究し、政策提言するシンクタンク「the Progress & Freedom Foundation (PFF)」などから最高裁に提出されています。

最高裁はまだ、KSRの上告請求を受理するか否かを決定していないのですが、10月3日には、訴務長官(Solicitor General)に対し、この問題に対する政府の立場を説明する書面を提出するよう要請しました(連邦最高裁ホームページ ”Docket for 04-1350”より)。

最後に、24人の法学教授グループが提出した意見書の一節をご紹介します。

「・・・重要な知識の進歩をもたらす発明に対してのみ特許を付与するという特許政策の核を実行するために、議会はその基準を特許法第103条に具現化した。すなわち、『当該発明主題が全体として、その発明時において当業者にとり自明であったならば』特許保護を認めないこととした。しかるに、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)はこれと異なる、低い基準を構築してきた。当業者がいかなるものを自明とみるかに焦点を置くのではなく、CAFCは、『関連する先行技術の教示事項を当該特許でクレームされた方法により組み合わせることへの具体的な示唆、教示または動機付け』の証拠を提出できた場合にのみ特許性が否定される、という基準を作り上げたのである。このような『示唆テスト』は、特許法にも最高裁の関連判例にも見出すことができない。

・・・過去20年の間にCAFCは、『当該技術分野における通常の知識を有する者(当業者)』の観点に立って自明性を判断するという制定法の指令から離れる基準を発展させてきた。すなわちCAFCは、当時存在していた技術を組み合わせることへの『示唆やインセンティブ』『教示、示唆またはインセンティブ』あるいは『理由、示唆または動機付け』を示す先行技術の証拠を提出できる場合にのみ、自明性を理由とする特許無効を認めるようになってきた。ACS Hospital Systems, Inc. v. Montefiore Hospital, 732 F.2d 1572 (Fed.Cir. 1984); In re Geiger, 815 F.2de 686 (Fed.Cir. 1987); In re Oetiker, 977 F.2d 1443 (Fed.Cir. 1992); In re Raynes, 7 F.3d 1037 (Fed.Cir. 1993)

・・・本件は、強い批判を受けているCAFCの現行非自明性アプローチ — 制定法の文言に反し、最高裁の先例との整合性をもたず、特許制度の目標に反している — を覆す機会を最高裁にもたらすものである。ここで最高裁が関与しないならば、自明の技術を対象としている無数の特許出願、認可済み特許が、今後、特許商標庁、連邦裁判所、そして公衆全体に多大な負担を課し続けることになろう・・・」

->PFFのサイトからKSRの上告請求書(ミシガン地裁、CAFCの判決文も添付されています)、法学教授グループの意見書等を入手できます。
http://www.pff.org/news/news/2005/051305ksramicus.html

(渉外部・飯野)

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