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2005.12.08
今回、最高裁が上告請求を受理したのは、この永久差止め命令に関するCAFCの判断です。すなわち、「『例外的な事情(exceptional circumstances)が存在しない限り、地裁は、特許の侵害を認定した後に永久差止め命令を発令しなければならない』、という特許事件での一般原則を定めたことにおいて、CAFCに誤りがなかったのか否か」という問題について、検討することになりました。
本件争点に対するCAFCの判示事項は以下の通りです(Merc-Exchange LLC v. eBayInc. Fed. Cir. 3/16/05, http://www.ll.georgetown.edu/federal/judicial/fed/opinions/03opinions/03-1600.pdf)。
「『特許に認められた排他権とは、まさに財産権という概念の本質である』以上、ひとたび特許の侵害と有効性が認定されれば永久差止め命令を発することが一般原則であるといえる。一方で、『稀なケースにおいて、裁判所はその裁量により、公益を保護するため差止め救済を否認してきた』ことも確かである。したがって、当裁判所は、『特許権者がその特許発明を実施しないことにより、当該発明に対する重要な公共のニーズ(例えば、公衆衛生を守るために必要とされる場合)が満たされない』場合に、差止め救済を否認することができると述べてきた。Hite-Hite Corp. v. Kelley, inc. 56 F.3d 1547 (Fed. Cir.1995)参照。
本件において、地裁は、永久差止め命令の否認を正当化する「例外的事情」に本件が該当すると確信させるだけの説得力ある理由を示していない。事実審理後の命令において、地裁は、『ビジネス方法特許が次々と認可されることに対する懸念の高まり(それにより特許庁は二重の審査を実施せざるを得なくなり、議会ではこの種特許に対しては有効性推定を排除する法改正案が提出されるに到った)』といった事情に鑑みれば、本件において永久差止め救済を否認することは公益に適うものと述べている。しかしながら、そのようなビジネス方法特許に対する一般的懸念は、差止め救済の否認という異例の措置を正当化する重要な公共のニーズに該当するものとはいえない。
他に地裁は、以下の通り、永久差止め命令を否認した理由を挙げている。
1)両社ともに非常に強い議論を戦わせており、永久差止め命令が認められれば、被告は設計変更によって侵害回避を試みであろう。すると原告側は、当該変更は差止め命令に違反するものであるとして、法廷侮辱罪を主張する。挙句、設計変更なされるたびに法廷侮辱罪手続が繰り返されることになり、両当事者にとって莫大な訴訟費用負担がかかるだけでなく、多大な司法資源が費やされることになってしまう。
- これもまた同様に永久差止め命令を否認する十分な根拠とはいえない。この種の継続的紛争は、特許事件において異例なものではなく、また、差止め命令が認められていない事例においてさえ、被告の行為が引き続き自らの権利を侵害していると特許権者が信じれば、継続的な侵害訴訟という形で紛争が続行されることになる。
2)MercExchangeが自社特許についてライセンス供与意思があることを公表している事実は、永久差止め命令を否認する理由のひとつになる。
- このような表明をしているからといって、MercExchangeがもともと有している排他権を奪われることにはならない。差止め救済とは、他社にライセンス供与する者ではなく自ら特許を実施する特許権者のために備えられている、というものではない。この法定の排他権は、いずれの権利者に対しても平等に与えられている。もし差止め救済が特許権者に対しライセンシングにおける付加的な力を与えるというのであれば、それはあくまで特許の排他権がもたらす自然な結果であり、市場において侵害被疑者と戦おうとしない権利者に対する不当な報酬というべきものではない。
以上の理由により、当裁判所は、例外的な事情が存在しない限り特許侵害に対しては永久差止め命令を発令するという一般原則から離れる理由を見出すことはできない。よって、MercExchangeによる永久差止め命令申立てを却下した地裁命令を破棄する」
最初に述べた通り、特許侵害に対する差止め救済の扱いが議論になっているのは司法の場だけではありません。1952年法以来、最大規模の改正といわれる米特許改革法案(H.R.2795『2005年特許法』)にも盛り込まれている差止め救済要件の厳格化案は、「”パテント・トロール”の特許攻勢に苦慮する産業界にとって差止め救済の乱発は何とか抑制したい、一方で差止め救済を得るための要件を厳しくすることは、”正当な特許権者”にとってはまさに特許価値が下がることを意味する」というジレンマを抱え、米国内では法案提出当初から「先願主義移行」案よりも活発な議論の対象となっているのです。
(渉外部・飯野)