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2006.02.08

【Cases & Trends】プリンタカートリッジをめぐるもうひとつの争い/特許製品の購入者に対する再使用制限の合法性(2)

控訴審判決

本件は特許法と契約法の重要な問題の検討を要するものではあるが、その核心部分において、レックスマークとACRA間の論争は、レックスマークの広告に関する不正競争と虚偽の取引慣行という州法下の請求に帰することができる。

ここにおける中心争点は、再使用制限のついたディスカウント価格での販売を宣伝広告するレックスマークの行為が消費者を欺くものであり、不正競争に該当するといえるか否かというもの。カリフォルニア州企業および専門職業法典(California Business and Professions Code)第17500条は、企業が「虚偽もしくはミスリードする表示であることを認識しながら」、かかる表示を宣伝広告する行為を、不正競争行為としている。

一方、同法典第17200条以下は、「不法、不公正もしくは詐欺的な取引行為や取引慣行、および不公正、詐欺的、虚偽もしくはミスリードする広告および第17500条で禁ずるいかなる行為」も禁じている。この法は、虚偽表示だけでなく、「あるレベルにおいて正確かもしれないが、ミスリードし、欺く傾向を有することになる…表示も対象とする。たとえば、関連情報を開示しないことにより消費者をミスリードまたは欺く可能性のある方法で表現された、完璧に真実の表示もまた、この法による訴追対象となりうる」(Day v. AT&T Corp., 74 Cal.Rptr.2d 55, 59 (Cal.Ct.App. 1998))。原告は、問題の広告が合理的消費者を欺き、ミスリードするものであることを立証する責任を負う。

第17200条に基づく「不正競争」とは、反トラスト法違反の初期段階、あるいは同法違反に匹敵するもしくは同一の影響をもたらす行為、その他競争を著しく脅かす、もしくは阻害する行為を意味する。第17200条は、ライバル企業のみをターゲットとした反競争的取引慣行だけでなく、詐欺的行為から保護される公衆の権利をも対象とする。虚偽広告条項に対する違反は、自動的に不正競争条項の違反となる。

本件において、ACRAは、プリベート・プログラムにおけるレックスマークの特定の表示 – 再使用が制限されたカートリッジについてはディスカウント価格で提供する – が同法典第17200条および17500条を違反すると主張する。

A. 販売後の制限の法的強制力

1. 特許法

地裁は、レックスマークが、消費者による同社の特許対象プリベート・カートリッジの使用に条件をつけることができると認定した。この認定の根拠としたのが、連邦巡回控訴裁版所(CAFC)がMallinckrodt, Inc. v. Medipart, Inc.事件において示した原則、すなわち「特許認可の合理的範囲内、すなわち特許クレームの主題に関するものと認定される限り」、特許対象品に対する制限は許される、というものである(976 F.2d 708)。「特許権者が特許認可の枠を超えて、合理の原則に照らし正当化されない反競争効果をもつ行為に走った場合」、特許対象品に制限を課すことは許されない。Monsanto Co. v. McFarling事件(302 F.3d 1291 (Fed.Cir.2002)参照。特許対象種子を購入した農民に対する差止め命令 – 「当該種子はワンシーズンのみの商用穀物収穫用に植える」という契約の違反を認定 – を支持)。また、B.Braun Med.,Inc. v. Abbott Laboratories事件(124 F.3d 1419 (Fed.Cir. 1997)参照。一般的に「制限を付すことなく特許対象装置を販売すれば、その後購入者による同装置の使用について支配する特許権者の権利は消尽したものとされる」が、当該物品の販売に際して特許権者が特に制限を課していた場合はその限りでない)

本件地裁は、Mallinckrodt判決の原則を適用し、レックスマークの特許権は消尽していないのだから、レックスマークがプリベート・カートリッジに課した条件は法的強制力があると判断した。本件控訴において、ACRAは、地裁がMallindcrodt判決へ依拠したことに対しても、また同判決自体の有効性についても争っていない*。事実、ACRAは、特許対象品の使用が制約される場合があることを認めている。ただし、そのためには、特許権者が当該特許対象品の購入者との間で有効な契約を有していなければならない、と主張しているのだ。

*[控訴裁注:The Electronic Frontier Foundationが、当裁判所へ提出した意見書(amicus brief)において、Mallinckrodt判決の過ちを主張し、同判決におけるCAFCの判断を明確に拒絶するよう当裁判所に求めている。しかしながら、ACRAが求めていない以上、当裁判所としては本件控訴事件解決のために、CAFCの同判決について判断する必要はない]

2. 契約法

そこでACRAは、レックスマークは消費者との間に当該カートリッジの販売後の使用を制限するような有効な契約を有していなかった、と結論するよう当裁判所に求めた。

関連する統一商事法典(Uniform Commercial Code)条項を採用したカリフォルニア州法において、「物品の売買契約は、両当事者の合意を示すに足る態様でなされ、これには、かかる契約の存在を認識する両当事者の行為が含まれる」と定められている。Cal.Com.Code §2204(1) さらにカリフォルニア州法は、「売買契約を構成するに足る合意は、その成立の瞬間が決定できない場合にも見出すことは可能である」としている。同§2204(2)

当裁判所は、レックスマークが、カートリッジを購入し開封する消費者との間で有効な契約を有していたことを示す証拠を提出したと認める地裁の判断に同意する。特に、当該カートリッジの包装外側に付された表示文言は、消費者が購入した物品を使用することのできる条件を明示するものである。消費者は、包装箱に付された条件を読んでから、これを受け入れるか、制限なしのノン・プリベート・カートリッジを選ぶか決定することができるのである…。

消費者は、カートリッジの再使用制限を受け入れる代わりに、ディスカウント価格という見返りを受け取る(約因)ことになる。地裁は、「プリベートは、一回限りの使用という制限の交換条件として特別価格を申し出ている」ことを明示的に認定している。ACRAは、レックスマークが卸売業者を経て当該カートリッジを販売しているのだから、消費者が本当にディスカウントを受けたのか確認するすべがないと主張するが、この主張を裏付ける事実を提示していない。これに対しレックスマークは、市場の作用により、卸売業者はディスカウントを消費者に提供せざるを得ないことを示す証拠を提出している。ある小売店の地域マネジャーは、卸売業者がレックスマークから消費者へ与えられるディスカウントの一部を自らの利益としてくすねることは、不可能ではないにせよ、非常に困難である。「競争の激しい卸売販売マーケットには、あまりに多くの競業者がひしめきあっており、現実には、そのようなことはできない」と証言している。…ACRAはこれらの証拠に対し、反証を挙げて覆すことができなかった。

当裁判所は、消費者が(1)条件についての通知を受けていた、(2)その条件をもつ契約を拒否する機会が与えられていた、(3)カートリッジの再使用制限に対しディスカウント価格という見返りを受けていた、とする地裁の認定に基づき、当該契約が法的強制力を有すると捉えることができるものと判断する*。当該契約は、レックスマークが特許対象物品の再使用に対して制限を課すことを許すとともに、その制限の法的強制力を主張しうる法的根拠をレックスマークに与えるものといえる…。

* [控訴裁注: 当裁判所の判断は、顧客(ACRAとは異なり、本件契約の当事者である)が本件契約に対して異議を唱えることを排除するものではない]

B.(略)

C. ロックアウトチップの使用

ACRAは、レックスマークがロックアウトチップを使用して、プリベート・カートリッジ購入者が使用後のカートリッジを他社に再生させることを不可能にしたことは、アフターマーケット市場における競争を排除することを意図した反競争的行為だと主張する。

すでに論じた通り、地裁はCAFCのMallinckrodt判決に依拠して、レックスマークによる特許対象カートリッジの販売後使用制限を合法的と認めている。ACRAは、この地裁決定に対し異議を申し立てておらず、さらにはこのロックアウトチップの使用が特許認可の正当な範囲を超えて反競争的効果を生じさせていることを示そうともしなかった。

以上の理由により、地裁判決を確認する。

判決原文は以下のサイトで:
http://caselaw.lp.findlaw.com/data2/circs/9th/0316987p.pdf

(渉外部・飯野)

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