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2006.04.06
サンフランシスコのリッツカールトンホテルにおいて、特許出品者、入札者が一堂に会し、公開ライブ形式で行われるというこの特許オークションは、全米初の試みだという。キンバーリー・クラーク社、フリースケール・セミコンダクター社といったテキサス州法人のほか、フォードモーター社やイートン社といった大企業や発明家など25の出品者が、合計450件以上の特許を出品(78のロットに分けられている)している。
Texas Lawyer誌(Apr.3, 2006)によれば、このオークションに対する出品者の期待は高い。約5,300件の特許ポートフォリオを有しているというフリースケール・セミコンダクター社(モトローラ社から分社)は、積極的な特許ライセンシング・プログラムにより常に特許から収益を得ることを模索しており、今回の特許オークションを非常に興味深く、有効な手法になりうると考えている。出品者としては、ライブ・オークションによる迅速な取引(通常のライセンス交渉につきものの長い交渉の省略)や買取価格(落札価格)のつり上がりの可能性といったところが魅力となる。一方、購入者/入札者の立場としては、やはり匿名性が利点。代理人を通じての入札が可能なため、関心のある特許をライバル達に知られずにすむ。また、思わぬ掘り出し物をつかめる可能性もある。
ただ、この匿名性が企業を不安に陥れることがあるのも事実。記憶に新しいのが、「シリコンバレーの謎」事件。これは、サンフランシスコのカリフォルニア北部地区破産裁判所で2004年12月6日に行われたオークション(競売)のこと。競売の対象となったのは、XMLを利用したB2B(business to business)取引のフレームワーク他、インターネット上の商取引の標準技術を広く対象とする7件の特許および32件の特許出願。これらは、1990年代後半にB2Bソフトウェアの有力プロバイダーであったCommerce One Inc.が保有していたが、ドットコム・ブームの崩壊とともに同社は倒産。残った特許資産が競売の対象になったもの。多くは二束三文で買い叩かれる倒産ドットコム企業の特許と異なり、権利行使も可能な有力ポートフォリオとの評価がなされていただけに、100万ドルから始まった競売価格は、どんどんつり上がり、落札者は最後まで競り合った特許・知財投資会社2社のいずれかと見られていた。1490万ドルという最終価格を提示した1社の落札が決まったと見えたときに、沈黙を保っていたある無名企業の代理人(テキサス州弁護士)が1550万ドルを提示。一気に落札を決めるや、コメントを拒否して法廷から走り去ったのである。その後、多くの電子商取引関係者は、不安な日々を送ることになる。この重要特許ポートフォリオの新たな特許保有者が「パテント・トロール」であった場合、多くの関係者が特許侵害警告・訴訟の脅威にさらされることになり、電子商取引の発展に深刻な障害が立ちはだかることになる……。法律誌、専門誌はこの「シリコンバレーの謎」を一斉に書きたてた。その後、この特許の購入者の正体はノベル社であることが、同社自身の発表で判明。「あくまで防御目的(トロールに手渡さない)で購入したのであり、権利行使する意向はない」ことが表明されたため、一応の解決を見た。(『eコマース重要特許競売、謎の落札者はノベル社と判明 – ひとまず払拭された「パテント・トロール」の恐怖だが……』 19 IPR 242 [2005.5])。
いずれにせよ、特許売買、ライセンシング・ビジネスとはそう簡単にゆくものではない。多くの努力と忍耐、様々なリソース、そしてとにかく経験が必要とされる。公開ライブ・オークションというこの試みも、今後の展開が注目される。なお、Ocean Tomo社は今秋にもニューヨーク市でのライブ・オークション第2弾を予定している。
(渉外部・飯野)