- 知財情報
- アーカイブ
2006.06.08
判決の対象となった特許再審委員会の無効審決とは、ファイザーの特許成立を受けて、2002年に中国の医薬メーカー12社が同特許の進歩性欠如、明細書における開示不十分を根拠に提起した申立てを認めたもの。中国医薬メーカーがこのような正規の法的手続きをとって特許に対抗したのは初のケースだということです。
判決の理由はいまだ明らかになっていないようですが、ファイザーはいうまでもなく他の外国医薬メーカーも、本件を中国の医薬発明保護姿勢、さらには中国における特許の価値を評価するテストケースとして注目していただけに、本判決を今後の中国投資へ向けた好材料として歓迎しています。というより、むしろ今回の判決の背景には好材料を作り出すという意図が働いたものという見方もあります。判決前の5月には英医薬大手アストラゼネカが中国における1億ドルのR&D投資計画を発表。その際、R&D投資においては適切な知的財産保護環境が前提要件、との姿勢を示していました。さらに前月の4月28日には、米通商代表部(USTR)が2006年版「スペシャル301条」リポートを発表。前年に引き続き、中国を「優先監視国」にリストアップし、ソフトウェアとともに模倣医薬品を深刻な問題として指摘しているのです。
もうひとつ、本判決に先立ち、重要な動きがありました。「スペシャル301条」リポート発表前の4月25日から27日にかけ、「北京国際医薬化学知財フォーラム(Beijing International Pharmaceutical & Chemical Intellectual Property Forum)」と題する大規模な公開討論会が北京で開催されました。中国知的財産学会、中国化学学会、中米化学学会、中国国際経済貿易仲裁委員会、アメリカ化学学会・化学と法部会(Division of Chemistry and Law of American Chemical Society)の共催による本フォーラムには、米国医薬メーカー、法律事務所、中国企業、中国政府から350名を超える関係者が参加し、活発な議論が行われたということです。
2010年には世界で5番目の巨大医薬市場になると見られている中国に確かな特許保護環境を根付かせたい米国側。かたや、ジェネリック医薬の販売に際して特許侵害リスクの回避を重視せざるを得なくなりつつある、さらにはジェネリック医薬から先発医薬メーカーとしての成長を目指す中国側。それぞれの目的をもった両国の専門家、関係者が参加した主な討論会のテーマは以下の通りです。
[全体会議]
グローバル経済における知的財産権およびその保護
1. 中国の医薬・化学分野における知財制度概観
2. 投資促進のための積極的知財文化創造
3. 米国特許制度および最近の傾向
4. 国際知財問題に対する多国籍企業の視点
注目事例ケーススタディ
1. 中国におけるファイザー社バイアグラ事件
2. アストラゼネカ社の”Losec”特許戦略
3. “Lipitor” ? 大いなる成功、巨大ターゲット
4. インド・ランバクシー社および同社が西側イノベーション企業に及ぼす影響
[個別会合]
セッション1 特許取得と権利行使
1. 米国医薬訴訟入門
2. 中国における特許取得と権利行使
3. クレーム解釈における法の現状
4. 特許侵害と均等論
5. 中国特許実務における医薬・化学出願のドラフティング要件
6. 医薬知財の特別取扱い - 米欧における訴訟および法運用
7. ビジネス面から見た中国医薬特許訴訟
8. 訴訟に耐えうる特許のドラフティング
9. 米国特許法の域外適用 - 中国内での行為に対する米国法のインパクト
10. 米ITC手続きおよび米特許法271条下の輸入概観
セッション2 知財アセットマネジメントと価値創造
1. 知財ポートフォリオに対する価値の付与
2. 米国へ輸出する場合の特許訴訟回避について
3. 米国市場でジェネリック医薬を販売する際の注意と戦略
4. 医薬・化学産業の輸出入・販売における知財問題
5. パイオニア医薬 ? 新市場参入およびマーケットシェア維持/医薬ライフサイクル管理戦略
6. 中国医薬知財保護
7. 出願前の検討事項およびポートフォリオ管理
8. 米国でドラフトされた出願の中国出願戦略
9. 医薬におけるチャレンジ
10. 抗体イノベーションに対する革新的特許戦略
なお、冒頭で紹介した中級人民法院判決は確定判決でなく、判決受領後15日以内に高級人民法院への控訴可能性が残されています。
(渉外部・飯野)