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2006.10.10
GAT v. Luk (C-4/03) ECJ July 13, 2006
原告Gesellschaft fur Antriebstechnik mbH & Co. KG (以下’GAT’)と被告Lamellen und Kupplungsbau Beteiligungs KG (‘LuK’)はいずれもドイツ法人であり、自動車技術分野で競合している。GATが、ドイツの自動車メーカーに対し、ダンパー・スプリング供給契約を獲得すべく申し出をすると、Lukは、GATの当該スプリングがLukの保有する2件のフランス特許を侵害すると主張した。
これに対しGATは、特許非侵害判決を求めてデュッセルドルフ地裁に確認訴訟を提起した。GATは、自社製品はLukのフランス特許を侵害しておらず、また、同フランス特許は無効であることを主張した。地裁は、フランス特許の侵害および有効性について争う本件訴訟に対して管轄権を有すると判断し、GATの訴えを受理した。その後の審理を経て、地裁は当該特許が特許性要件を満たすとの判断に基づき、GATの確認判決請求を棄却した。
GATの控訴を受けたデュッセルドルフ高等裁判所は、手続きを停止し、以下の争点に対する判断を得るべく、事件を欧州司法裁判所に付託した。
「ブラッセル条約第16条(4)項は、特許の有効性に関するすべての事項について、その有効性争点がどのような形で提起されているかに関わりなく、特許を登録した国の裁判所が専属管轄権を有することを意味するものと解釈すべきか否か」
[判決要旨]
ブラッセル条約第16条(4)項は以下のように規定する。
第16条「以下の裁判所は、……所在地とは関係なしに専属管轄権を有するものとする:
~ 4. 特許、商標、意匠、その他登録を必要とする類似の権利の登録や有効性にかかわる手続きにおいて、当該権利の登録申請がなされた、登録がされた、あるいは国際条約の条件に基づき登録されたとみなされた(EU)加盟国の裁判所」
第16条4項にある「特許の登録や有効性にかかわる」手続きの概念は、すべての加盟国において統一的に適用されるべきことが意図された独立の概念とみなされなければならない(Case 288/82 Duijnstee [1983] ECR 3663)。そこで当裁判所は、特許の有効性、存在もしくは消滅、または先出願による優先権に関する手続きは、「特許の登録や有効性に関する」手続きとみなすべきものと判断してきた。
一方、紛争が、特許の有効性や登録の存在などに関するものでなく、当事者間で争われていない場合、かかる紛争は条約第16条(4)項の適用対象ではない(前出 Duijnstee)。特許の有効性自体は問題とされていない特許侵害訴訟などがこれに該当する。
しかし、現実問題として、特許の有効性問題は侵害訴訟の反訴においてしばしば提起され、被告はこれにより原告特許権者の権利を遡及的に退けようとする。有効性争点は他に、本件のごとく特許非侵害の確認訴訟を裏付ける要素として提起される。このような場合、第16条(4)項は、条約の目的と同条項の位置づけに照らして解釈しなければならない。第16条における専属管轄権の規定は、当該手続きの事実と法に密接な関係を有する裁判所に管轄権をもたせることを目的とする。……また、同条約の枠組みにおける第16条(4)項の位置づけおよびその目的に鑑みると、特許の有効性争点が提起されている手続きの形態に関係なく -訴状において提起されたのであれ、反訴において提起されたのであれ、あるいは提訴時に提起されたのであれ、手続きの後の段階で提起されたのであれ- 、同項の専属管轄権が適用される、という見解をとらなければならない……。
Lukおよびドイツ政府の主張、すなわち、ドイツ法下では、特許の有効性を間接的に判断する判決の効果は当該手続きの当事者に限定されている、という主張は、「特許を登録した国の裁判所以外の裁判所による判決によって、国ごとに相反する判決が出されるリスクが倍加する」という懸念に対する回答となっていない。かかる判決の効果は、各国の国内法によって決定されるわけであるが、加盟国によっては、特許無効判決は対世的効力を有している……。
以上に鑑みれば、当裁判所に付託された問題に対する回答は、「条約第16条(4)項が規定する専属管轄権は、特許の登録または有効性に関する争点が訴状において提起されたか反訴において提起されたかに関わらず、同争点に関するすべての手続きに適用されるものと解釈されなければならない」というものとなる。
欧州特許訴訟協定の交渉経過
1999年6月25日
パリ政府間協議において欧州特許機構締約国が「訴訟に関する作業部会」を設置:
作業部会への指令:
(1)欧州特許条約に対する選択議定書案(条約締約国に対し、統一訴訟手続きや共通上訴裁判所設置など統一的司法制度の採択を約束させる)を提出すること
(2)国内裁判所が有効性と侵害に関する訴訟について付託することのできる共通組織が設立される条件を策定すること
2000年10月17日
ロンドン政府間協議において同指令を承認。訴訟に関する作業部会は、欧州特許機構締約国に対し、欧州特許に関する訴訟解決のための選択的合意書を提出することが要請された。
2003年11月19日-20日
作業部会による5度目の会合において以下の提案が議論された。
・ 欧州特許裁判所の設置(第1審裁判所と上訴裁判所から構成される:欧州特許の侵害訴訟と無効訴訟に対する管轄権を有する)
・ 欧州特許上訴裁判所に、侵害および無効訴訟を扱う国内裁判所の要請があった場合、欧州特許法あるいは調和された国内特許法の法律問題について拘束力のない見解を提示する作業を委託する
2005年9月25日
作業部会サブグループ会合が、欧州特許訴訟協定(EPLA)案を作業部会に提出
欧州特許庁主導で進められているEPLAの策定作業に対しては、当初、欧州共同体特許条約の実施を進める欧州委員会の努力に水をさすものとして警戒していた委員会も、賛同する姿勢を示しつつあるといいます。
最後に欧州特許庁が今年2月に発表したEPLAの評価リポート(目次)をご紹介しておきます。
「欧州特許訴訟協定(EPLA)が欧州特許の訴訟におよぼす影響の評価」
I. 欧州特許の訴訟:現行制度の欠点
II. 欧州特許訴訟協定案(条文)
III. 参加国、ユーザーおよび欧州特許制度が享受する利益
IV. 欧州特許訴訟に要する費用試算
付録1. 各国の国内裁判所における欧州特許訴訟に要する費用試算
付録2. 欧州特許裁判所における欧州特許訴訟に要する費用試算
⇒ http://www.european-patent-office.org/epo/epla/pdf/impact_assessment_2006_02_v1.pdf
(渉外部・飯野)