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2007.01.11

【Cases & Trends】間接侵害(侵害教唆)に関するCAFC 大法廷判決

日本の部品あるいは材料メーカーが日本の完成品メーカーに注文を受けた部品/材料を納める。完成品メーカーはこれを組み込んだ完成品を米国に輸出販売した。しばらくして、日本の部品/材料メーカー宛に、当該部品/材料について米国特許を保有するという権利者から侵害警告上が届く。部品/材料メーカーが「当社は日本国内において製造・販売行為を行っただけであって、貴社米国特許の実施には相当しない」と反論したところ、「あなた方は、完成品メーカーが米国へ輸出販売することを知りながら、侵害部品/材料を販売し、さらに米国への輸出を誘導した。これは米国特許法で規定する侵害教唆・幇助に該当する」といった返答が届く。・・・このような侵害教唆・幇助を主張する紛争が最近増えていると聞きます。やっかいなのは侵害教唆について規定する法(特許法第271 条(b)項) の文言が広く、予測が難しいということ。

昨年12 月、米CAFC はこの争点(正確には教唆の要件のひとつ)について、全判事で検討し、判断を示しました(DSU Medical Corp. v. JMS Co., Fed.Cir., 12/13/06) 。これによれば、米国外でのみ製造・販売行為を行った者に対する侵害認定のハードルは、やなりかなり高いようです。とはいえ、最終的には勝訴できるとしても、とにかく自社のコントロールを離れた製品に対して米国特許訴訟に巻き込まれる事態が生じうるというのが大きな問題。これは、なかなか回避することが難しい場合が少なくないと思います。

少なくとも、このような事態が生じた場合に、「思いもよらぬこと」とならぬよう、侵害教唆の理屈について情報武装しておいて損はないと思います。ということで、以下、最新の侵害教唆事例をご紹介いたします。

[事実背景]

原告DSU Medical Corpor ation(DSU)は、医療従事者が注射針を扱う際に生じた傷からAIDS やB 型肝炎などに感染する事故を防ぐための注射針ガードを対象とする特許(USP. 5,112,311) を保有している。.311 特許は、注射針ガードと注射針の組合せを対象としている。

被告ITL Corporation Pty Ltd .は豪州法人であり、”Platypus ”(商標)注射針ガードを製造販売している。”Platypu s”ガード自体は、「スタンドアロン」製品、すなわち注射針が組み込まれていないプラスチック製品であり、開いた貝のような構造になっている(開殻配置(open-shell configuration) )。使用時には注射器・針が組み込まれた閉殻配置(close-shell config uration)になっている。ITLは、”Platypu s”ガードの製造をマレーシアとシンガポールで行われている。

被告JMS C o.,Ltd.は日本の大手医療機器サプライヤーであり、米市場でDSU と競合している。1999 年6 月以降、JMS はITL と供給契約を締結し、”Platypu s”ガードを全世界で販売している。同契約に基づき、JMSは、シンガポールとマレーシアで開殻配置の”Platypus” ガードを購入しており、通常は顧客に販売する前に注射針を組み込んだ閉殻配置としている。
DSU は、JMS およびJMS 米法人による.311 特許の侵害および寄与侵害、JMS によるJMS 米法人への侵害教唆、さらにITL による.311 特許の寄与侵害および侵害教唆を主張して、カリフォルニア北部地区連邦地裁に提訴した。

地裁は、クレーム解釈ヒアリング(マークマン・ヒアリング)を経て、”Platypus ”ガードが注射針セットを組み込んだ閉殻配置にされ、米国で販売された場合、.311 特許を文言どおり侵害することを認定する略式判決(summary judgment )を下した。その後陪審は、JMS およびJMS 米法人による直接侵害および寄与侵害、JMS による侵害教唆を認める評決を下したが、ITL による寄与侵害、侵害教唆ともになしする評決を下した。

DMS は、ITLの寄与侵害・侵害教唆を否認する評決に対する再審理を求める申立てを提出したが、地裁はこれを却下。DMS はこれを不服として控訴した。

[判決要旨]

1. 寄与侵害(contributory infringement)

DSU によれば、ITLがJMSに販売した”Platypus ”ガードには、非侵害となるような使用方法が実質的に存在しない。したがって、法律上の問題として、ITLは寄与侵害を行ったと判断できる。

これに対しITL は、”Platypu s”ガードの大部分は米国外で製造・販売した。また、”Platypus”が、米国において、侵害を構成する態様で使用されたことを示す証拠がないと反論する。

ここで、米国市場に入った”Platypus ”は、以下の3カテゴリーに分けられる:

(1)JMS が米国に輸入した約3000 万個の”Platypu s”ガード。これは、米国輸入前に注射針と組み合わせた閉殻(closed-shell)配置に組み立てられており、米国市場において販売された”Platypus” の大多数を占める。

(2)Fresenius USA Manufacturing, Inc.(JMS の顧客)が購入した約350 万個の”Platypus” ガード。これは、注射針が組み込まれていない開殻配置。出荷に際しITLはJMS宛てに請求したが、JMS の要請に応じFresenius 宛で米国に出荷した。最終的に、Fresenius は、注射針が組み込まれていないガードはFDA(米食品医薬品局)の要件に合わないと判断し、約300 万個を返品している。

(3)ITL が、JMS宛にサンフランシスコへ送った約15,000 個の開殻(ope n-shell)配置”Platypu s“ガード。このガードが米国において閉殻配置にされたという証拠は提出されていない。

なお、JSM の要請を受けて米国へ出荷する際、ITLはF .O.B.(本船渡し)条件で出荷していた。また、ITLが販売した”Platyp us”ガードはすべて開殻配置である。

寄与侵害について、米特許法第271 条(c) 項は以下の通り規定する。

『特許対象機械、製造物、組合せもしくは組成物の部品、または特許対象プロセスの実施に用いる物質もしくは装置であって、当該発明の重要部分を構成し、かつ実質的な非侵害使用に適する一般商品(staple article or commodity of commerce) でない物を、それが当該特許の侵害に用いられるために特に作られた、あるいは適合されたことを知りながら、米国において販売もしくは販売の申し出をする者、または米国へ輸入する者は、寄与侵害者としての責を負う』

また、Metro-Goldwiyn-Mayer Studios, Inc. v. Grokster, Ltd.(125 S.Ct. 2764 (200 5))事件において最高裁は、『特許対象の組合せにのみ使用される形で適合された物品を製造し、販売する者は、かかる行為の必然的結果を意図していたものと推定される』と判示している。

さらに特許権者には、間接侵害(寄与侵害、侵害教唆)それぞれについて直接侵害が存在することを証明する義務がある。

したがって、DSU は以下の事項を証明しなければならない。

  • ITL は”Platypus” ガードを製造、販売した。
  • “Platypus”ガードは、その閉殻配置において侵害とならないような使用が実質的に存在しない。
  • ITL は、他者の直接侵害に寄与する行為( 販売行為)に、米国内で従事した。
  • ITL が米国で行った販売に基づき、JMS が直接侵害を行った。

上記の法原則の適用において、地裁に誤りはなかったと判断できる。すなわち、地裁は以下の事実を認定している。

  • ITL は”Platypus” ガードを供給した。
  • “Platypus”ガードは、その閉殻配置において、侵害とならないような使用が実質的に存在しない。
  • 特許対象の組合せに使用されるべく設計された物品として、寄与侵害を構成する可能性をもたらす”Platypus” ガードの製造を、ITLは意図していた。

ただし、地裁は、「ITL による寄与侵害(と主張されている)行為が、特定の直接侵害行為と直接的な関連性を有することを示す証拠がない」と認定している。地裁によれば、ITL が直接JMS 米法人やエンドユーザーであるFresenius などの米国の顧客に数百個の「スタンドアロン」ガードを販売し、出荷したことは事実であるが、これらのガードが米国において閉殻配置にされ、直接侵害行為として使用されたことを示す直接的証拠は提出されなかった」ことを認めている。

当裁判所の判断:

ITL が米国において寄与したという直接侵害の証拠が存在しない。.311 特許の文言によれば、”Platypus” ガードによる侵害が成立するのは、閉殻配置の場合のみ。ITL は、米国ではなく、マレーシアにおいてのみ“Platypus” ガードを閉殻配置にすることに寄与した(前出カテゴリー(1))。特許法第271 条(c)項は、寄与侵害行為が米国においてなされたこととする地域限定要件をもつ。さらに当裁判所は、米国で販売された”Platypus ”ガード(前出カテゴリー(2), ( 3))が閉殻配置にされたという推測だけに基づいて陪審の非侵害評決を破棄することはできない。前出カテゴリー(2),(3 )において、直接侵害の証拠、すなわち、ITL によって輸入された開殻のPlatypus ガードが閉殻配置で販売もしくは使用された証拠は提出されていないのである。 ゆえに、ITL の寄与侵害に関する再審理申立てを地裁が却下したことは、裁量権の濫用とはいえない。

2. 侵害教唆(inducement of infringement) -大法廷審理-

DSU は、JMSが米国で閉殻配置ガードを販売するよう誘導したITL の行為は、侵害教唆を構成すると主張する。地裁は、JMSによる直接侵害は存在するが、ITL にはJMS に侵害行為をさせる意図がなかったとして、DSU の再審理申立てを却下した。本件争点については、侵害教唆の要件のひとつについて相反する先例が存在するため、全判事で扱うものとする。

第271 条(b) 項は、『特許の侵害を積極的に教唆する者は、侵害者としての責を負う』と規定する。当裁判所は、侵害教唆について扱った事件において以下のように判示している。

「原告には、被告の行為が侵害行為を誘発したこと、かつ被告が自らの行為が現実の侵害(actual infringement) を誘発することを知っていた、もしくは知りうべきであったことを証明する責任がある」Manville Sales Corp. v. Paramount Systems, Inc.(917 F.2d 544, Fed.Cir. 1990); 「特許権者は、被告が特許について知った後に、”積極的かつ悪意で他者の直接侵害を教唆・幇助したこと”を証明しなければならない」Water Technologies Corp. v. Calco, Ltd.(850 F.2d 660, Fed.Cir. 1988) 。「侵害を構成することになる行為について認識しているだけでは不十分」Warner-Lambert Co. v. Apotex Corp. 316 F.3d 1348 (Fed.Cir. 2003) 「他者の行為が侵害となる可能性(possible infringement) について知っているだけでは、侵害教唆にはならない。侵害を教唆する具体的意思と行為が存在したことを証明しなければならない」(前出Manville)
本件地裁も、侵害教唆について、以下のとおりManville 事件に沿った説示を陪審に与えている。 「侵害教唆が成立するためには、最初に、直接侵害が存在すること、また、被告が直接侵害を行わせる意思をもって侵害を教唆したことの証拠がなければならない。被告は、直接侵害を構成する行為を生じさせることを意図しており、かつ自らの行為が直接侵害を生じさせるであろうこと知っている、もしくは知りうべきであったことが必要とされる」

これに対しDSU は、「侵害教唆が成立するためには、教唆者が、直接侵害を構成する第三者の行為を生じさせることを意図していただけで足りる」とするHewlett-Packard Co. v. Bausch & Lomb, Inc .事件(909 F.2d 1464, Fed.Cir. 1990 )を引用して、反論している。

著作権事件ではあるがMetro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. v. Grokster L td.事件(125 S.Ct. 2764 (2005) )において、最高裁が侵害教唆争点を扱っている。最高裁によれば、「直接侵害を誘導するためにとられた積極的行為の証拠、たとえば侵害となる使用法の広告や説明行為といった証拠は、被告製品が侵害のために使用されることを積極的に意図していたことを証明する。また、侵害が誘導されたことの証拠が存在すれば、”被告が合法的使用に適する商品を販売したに過ぎない場合には責任を追わせようとしない一般法原則”を覆すものとなる。・・・侵害教唆のルールとは、・・・意図的で、とがむべき表現と行為に対する責任を前提とするものである」

したがって、このGrokster 最高裁判決は、侵害教唆の成立要件として当裁判所が示した心理要件を有効たらしめるもの。すなわち、侵害教唆における意思の要件とは、直接侵害を構成する行為を生じさせる意思のみならず、直接侵害を生じさせる積極的意思の存在を必要とする。要するに侵害教唆が成立するためには、単に教唆者が直接侵害者の行為を知っていただけでなく、他者の侵害を促すことを意図した、とがむべき行為の証拠が必要となる。

3. 大法廷判断に基づく本件侵害教唆の成否

陪審には、以下の証拠が提示されている。

ITL は、”Platypu s”ガードが特許を侵害することはないと結論付けるオーストラリアの弁護士の見解を得ていた。さらにJMS とITL は、”Platypu s”ガードによる侵害を否定する米国特許弁護士の見解書も得ている。ITLには.311 特許を侵害する意思はなかったという証言も、”Platyp us”ガード設計者のひとりから取られている。したがって、本件記録に基づけば、ITL が意図的に、とがむべき方法でJMS による侵害を誘導したことはない、という陪審の結論は、十分関連法に沿ったものといえる。証拠が示すものは、ITL が”Platypus” ガードによる侵害はないと信じていたということである。

以上の理由により、ITLの侵害教唆に関する再審理申立てを地裁が却下したことは、裁量権の濫用とはいえない。

(渉外部・飯野)

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