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2007.02.14
今回のご質問は:
昨年1月から無料となったイタリア特許庁費用が、再び有料になりました。イタリアでは一体何が起こっていたのでしょうか?
さて、イタリアは何を目的として特許庁費用を無料化し、そして何故わずか一年で再び有料化したのでしょうか。この疑問について3ヶ所のイタリア代理人に見解を求めたところ、大きく2つの見方に立った回答が寄せられて来ました。
1.経済的側面(研究開発振興政策説)
90年代半ばより続く経済の低迷、及びそれに伴う財政赤字の問題は、現在のイタリアが解決すべき最優先課題とされている。国内企業の生産性向上及び国際競争力の強化のため、企業や研究機関の研究開発を促進する政策を求める声は強まる一方である。そうした中、研究開発への投資を促す趣旨から2006年財政法が制定され、中には特許庁費用の免除規定も盛り込まれた。他の先進諸国と比べてイタリア企業の特許保有件数は少なく、政府としては国内企業が特許制度を積極的に利用する様、後押しする意向であった。
しかしながら、かかる庁費用の免除は経済全体から見れば大きな影響を及ぼすものでもなく、期待された研究開発への投資振興もイタリア企業の特許出願件数の増加も確認出来なかった。更には特許庁の財源枯渇等、幾つかのデメリットをもたらすため、新しい2007年財政法によって特許庁費用の再導入が決定された。
協力:BUNGNION S.p.A -Industrial Property Consultants-
GREGORJ S.P.A -Intellectual Property Lawyers-
2.政治的側面(ワンマン首相強行説)
一連の混乱を正しく理解するためには、2つの財政法の成立に挟まれた一年の間にイタリア内閣の交代があったことに注目すべきだ。即ち、プローディ議員率いる中道左派連合が2006年春の総選挙で僅差ながら勝利し、特許庁費用の免除を決めた張本人であるベルルスコーニ中道右派内閣を退けたのだ。
それでは、ベルルスコーニ首相(当時)が特許庁費用を免除した理由は何だったのだろうか?実は、ベルルスコーニ内閣は自由主義経済の促進を政策に挙げ、いくつかの減税を有権者に公約していた。庁費用の免除は、この見地から、支持者(特にイタリア企業)に改革を印象付ける意図をもって為されたものと理解されるべきである。
しかしながら当時、特許庁費用を免除する提案はあらゆる関係団体から批判を受け、特許制度に及ぼす悪影響を理由に議会でも反対された。庁費用免除による不利益は次の様に明らかであった。即ち、イタリアにおける全ての特許・実用新案・意匠が法定権利期間いっぱい生き続けることになる上、外国人が欧州出願経由で権利化したイタリア特許を維持するため、イタリアは欧州特許庁へ支払うべき「上納金」を国庫で負担しなければならなくなる(「上納金」は、イタリア国内の年金賦課の有無に関わらず支払う義務がある)。欧州出願経由で権利化されたイタリア特許はその多くが非イタリア企業の所有であるため、年金納付の免除はイタリア企業ではなく、主に外国企業の利益となる。更にこの庁費用の無料化は、イタリア特許庁、ひいては財務省に財政難をもたらすであろう―――それでもなお、ベルルスコーニ内閣は本政策を突き進め、庁費用の免除を強行したのであった。
上述の問題点があるが故、幸いにもこの庁費用の免除規定は短命に終わった。2007年1月初頭、プローディ内閣は(一部大学等への優遇措置を除いて)全ての特許庁費用を再び有料化し、納付を義務付ける決定を行った。
協力:SOCIETA ITALIANA BREVETTI
上記の政権交代劇については、外務省HPでも紹介されています。
このように(恐らくは本人も知らないうちに)特許業界を騒がせたベルルスコーニ前首相ですが、一方では「メディア王」の異名をとる実業家でもあります。莫大な資金力を後ろ盾とした強硬な政治姿勢は時に批判の的ともなりましたが、混迷の続くイタリア政界において、戦後最長期間である5年半の間、首相を務めました。
さてベルルスコーニ氏。今度は特許業界ではありませんが、今月に入ってから、またちょっとした話題を振りまいています。お手元のブラウザで「ベルルスコーニ」「手紙」と検索してみて下さい。何件もの微笑ましい(?)記事がヒットすることと思います。
(渉外部 柏原)