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2007.02.15
無償利用可能なオープンソースソフトウェアに関して、取引を抑制しないライセンス契約は、新しい派生著作物の作成を促す共同契約であり適法である。(Daniel Wallace v. International Business Machines Corporation, et al., 7th Cir., 11/9/06)
Free Software Foundation, Inc.(以下、Free Software Foundation)により設定されたライセンスに基づき、著作物を頒布する著作者は、著作権のみならず、派生する著作物の創作についても、また、派生著作物に対価を求めることを妨げるライセンスに権限を有する。何人も派生著作物を作成し頒布することができるのは、原著作物と同一のライセンス条件による場合のみである。よって、GNU General Public License(以下、GPL)は、ユーザー間に広まり、また、改変が重ねられ、原著作者も、改変され改良された版の創作者も、そのソフトウェアに関して、いかなる承継人も対価を求めることはできない。著作権法は、通常であれば、対価を徴収するために再製を制限する根拠となるが、オープンソースソフトウェアに関しては、無償であることを確保しており、派生著作物を販売するいかなる試みも、改良した者がGPLを受け入れないとしても、著作権法違反となる。Free Software Foundationは、これを「コピーレフト」(著作物を自由に複製・改変できるとする思想)とみなしている。
フリーソフトウェア、オープンソースソフトウェアとして著名な例であるLinuxのオペレーティングシステムは、1960年代におけるAT&TによるUnixのオペレーティングシステムの派生物であり、今日、無償で利用できる。(Unix?は、The Open Groupの商標であるが、AT&Tの著作物に関する多くの改良版に対するソースコードは、無償で利用できる。)Linuxは、GPLに規定されていないUnixに関する現代的な多くの派生物の一例である。ゆえに、Mac OS X オペレーティングシステムにその基盤として、UnixのBerkeley Software Distributionによる改良版を利用しているApple Computerは、そのソフトウェアの対価を得る権利を有する。もともとLinus Torvalds の著作物であるLinuxは、巨大なオープンソース・コミュニティによって維持されている。International Business Machines Corporation(以下、IBM)は、Linuxに多くのサーバーを提供しており、利用者は、Linuxを自らインストールできる。IBMは、Linux事業にコードを提供し、この派生著作物が誰にでも利益になるようにしている。Red Hat, Inc.(以下、Red Hat)は、DVDなどの媒体を販売しており、Linuxのインストールとメンテナンスを支援している。GPLは、ソフトウェアのみを対象にしており、誰でも物理的な媒体にあるコンテンツと利用ガイドは無償で得られる。紙媒体のマニュアル、専門家によるインストールサービスとサポートに要する時間は、Linux利用に際して、最も高価な部分となっている。
オペレーティングシステムに関する制作者であるDaniel Wallace(以下、Wallace)は、GPLに基づいて著作権保護されたソフトウェアに関する規定が、連邦反トラスト法に違反するかに関して、インディアナ南部地区連邦地方裁判所に訴訟提起した。
Wallaceは、Linuxと競おうとして、派生著作物を提供し、一からオペレーティングシステムを書いている。しかしながら、Linuxとその派生物が無償で利用できるのと同様にはサポートされていない。IBM、Red Hat、Novell Inc.(以下、Novell)三社とFree Software Foundationが共同して、価格の上で太刀打ちできないくらいにして、Linuxを利用させ、オペレーティングシステム市場における競争を排除していると主張する。ユーザーから改良者、さらにユーザーに渡すGPLによると、Linuxとそのいかなるソースコードをも使用するすべてのソフトウェアは、永遠に無償となり、競争をより効果的に妨げるいかなるものも存在しないとWallaceは主張する。GPLは、Wallaceの見方によると、共同謀議となるが、しかしながら、派生著作物の利用者と創作者が、潜在的ないかなる競合品の価格をも下げるためにする共同事業である。地裁判事は、請求を斥け、Wallaceは、反トラストに関する損害を被っておらず(Brunswick Corp. v. Pueblo Bowl-O-Mat, Inc.事件(429 U.S. 477 (1977))参照)、Wallaceは、自称制作者であり、消費者ではないと判断した。
Wallaceは、控訴した。
確認
判旨
侵奪的価格形成は、次の三段階からなる。低価格を設定し、利益度外視の生産者を退けることに追従し、独占価格に追従する。法が懸念するのは、生き残る者またはそれらのカルテルが、低価格設定期間に生じた損失を取り戻す最終段階である。ある生産者が上市を断念したとしても、撤退が生じない場合、または、損失補填ができそうもない場合には、反トラストの問題は生じない。そのように、最高裁は、Brooke Group事件とMatsushita事件において、判断している(R.J. Reynolds Tobacco Co. v. Cigarettes Cheaper!事件(462 F.3d 690 (7th Cir. 2006))、Schor v. Abbott Laboratories事件(457 F.3d 608 (7th Cir. 2006))参照)。いずれの価格も、能率的な生産を反映して消費者のメリットになるように、低く設定され、また、そうすることは、自己を阻むことになる。侵奪者が、後々得るよりも低い価格の期間に損をし、消費者が実質的に得をするためである。結果として、独占が生じない場合には、低価格の設定はそのままとなり、反トラスト法の目的は、消費者にメリットになるよう低価格を維持するために競争させることになる。
(…… 以下略)
*判決内容詳細については “I.P.R.”誌でご確認ください。