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2007.07.12
以下、最高裁判決の要約部をご紹介します。
ブランド品メーカーである上告人(Leegin)は、同社の小売価格方針に従わずに、同社指定小売価格より安い価格でLeegin のブランド品を販売する被上告人(PSKS) に対し、製品供給を停止した。そこでPSKS は、Leegin が、最低再販価格を設定する垂直的契約を締結したことにより反トラスト法に違反したと主張してLeegin を提訴。地裁は、Dr.Miles Medical Co. v. John D. Park & Sons Co.事件の最高裁判決(220 U.S. 3 73)により、メーカーと販売店がメーカーの製品に対し設定できる最低価格について取り決めすることは、それ自体シャーマン法第1 条違反になる、として、Leegin の価格方針が競争促進効果を有することを説明しようとする専門家証人の証言を認めなかった。公判後、陪審はPSKS 勝訴の評決を下した。Leegin の控訴を受けた連邦第5 巡回区控訴裁判所も、Leegin の垂直的価格固定取決めの判断において合理の原則(rule of reas on)を適用することはせず、Dr. Miles 判決の「それ自体違法ルール(per se rul e)」によりLeegin の価格方針が競争促進効果を有するか否かの個別判断は不要になるとして、地裁判決を確認した。
判決: Dr. Miles 判決を覆す。垂直的価格制限は合理の原則に従い判断されるべき。
(a)ある取引慣行がシャーマン法第1 条に違反する取引制限に当たるか否かは、合理の法則に基づき判断される。合理の原則とは、事実認定者が「あらゆる状況」を考慮することであり、これには「関連事業に関する特定情報」「当該制限の歴史、性質および効果」などが含まれる。この原則は、消費者に害をなす反競争的効果をもつ制限と、消費者の利益に最も資する競争促進効果をもつ制限との間を区別するものである。しかしながら、ある制限が「それ自体違法」とみなされる場合、現実の市場環境に鑑みた個々の制限の合理性を検討する必要性は排除される。「それ自体違法」の原則が適用されるのは、「常に、あるいはほぼ常に競争を制限し生産活動を減少させる傾向を持つであろう」制限行為に限定される。したがって、「それ自体違法」の原則は、問題とされている制限行為タイプについて裁判所がかなりの経験を経て、当該制限が合理の原則に照らしてもすべてまたはほぼすべての場合に違反となることを、裁判所が自信をもって予測できるようになった後に初めて、適切に適用されるものとなる。
(b)Dr. Miles 判決が依拠した理由は、「それ自体違法」の原則を正当化するものではないため、ここではまず、最低再販価格を固定する垂直的契約の経済効果を検証し、それでもなお、「それ自体違法」の原則が適切か否かを決定しなければならない……。
(1)経済論文を見れば、メーカーによる再販価格維持の利用が競争促進効果を有するという正当化がいくらでもある。最近のいくつかの研究では、かかる慣行に対する「それ自体違法」の原則適用に疑問を投げかけている。垂直的価格固定に対する正当化は、他の垂直的制限に対する正当化と類似している。最低再販価格維持は、同一ブランドを販売する小売店間のブランド内(イントラブランド)競争を減じることにより、同種製品を異なるブランドで販売するメーカーのブランド間(インターブランド) 競争を刺激する。反トラスト法の「主要な目的は、…異なるブランド間の競争を保護すること」にあるため、これは重要である。…… 再販価格維持はまた、消費者に、低価格・低サービスブランド、高価格・高サービスブランド、これらの中間ブランドといった、さらなる選択をもたらす。垂直的価格制限がなかったならば、高サービスを提供し、このサービスによって生み出される需要を獲得する小売店に、ディスカウント店がただ乗りする可能性もあるため、異なるブランド間競争を高める小売サービスが十分提供されないことになるかもしれない……。
(2)最低小売価格を設定する行為は反競争的効果をもたらす場合もある。また、独占の利益を得ることのみを目的とした違法な価格固定は、これまでも存在してきた。例えば、再販価格維持は、メーカーのカルテルを助長し、あるいは小売カルテルの構築に利用されうる。したがって、垂直的価格制限の反競争的効果の可能性もまた、無視、過小評価されてはならない。
(3)違法行為のリスクにもかかわらず、小売価格維持が「常にあるいはほぼ常に競争を制限し生産活動を減少させる」と自信をもっていえない場合がる。垂直的小売価格取決めは、それが形成される状況により、競争促進効果をもつ場合もあれば、競争制限効果をもつ場合もある…… 。管理上の便宜のみを理由に「それ自体違法」の原則を採用すべきではない。この原則は逆に、反トラスト法が促進すべき競争促進行為を禁ずることにより反トラスト制度のトータルコストを押し上げ、非生産的結果をもたらす可能性もある。また、さらなる反競争的行為の証拠がない限り、価格が高くなる可能性のみにより、「それ自体違法」の原則が正当化されるべきではない。反トラスト法は、基本的に異なるブランド間の競争を保護することを意図しており、それにより、最終的には低価格が導かれることになるのである。…… 「合理の原則」は、取引が反競争的か、競争促進的かを検証するために利用される。この基準は、垂直的価格制限に適用される。裁判所が、判決の過程で「合理の原則」を適用することによりかかる制限に対する経験を蓄積してゆくにつれ、適用される原則が市場から反競争的制限を排除し、事業活動にさらなる指針を与えるように作用することを確実にするような訴訟構造を確立することができるのである。
(c) 先例拘束の原則(stare decisis)によって、引き続き「それ自体違法」の原則へ固着しなければならないというものでもない。シャーマン法はコモンローに基づく制定法として扱われるため、同法による「取引制限」の禁止は、現代経済状況のダイナミクスに沿って進展するものである。「合理の原則」によるケースバイケースの裁定は、このようなコモンロー的アプローチを実行するものといえる。現在、経済学の権威達は、「それ自体違法」の原則が適切でないことを示唆しており、司法省と連邦取引委員会(FT C)も、「それ自体違法」の原則を「合理の原則」に置き換えることを推奨している。……当裁判所がDr. Miles 判決からの決別を決定したことは驚くにあたらない。なぜなら、同判決はシャーマン法制定後間もなく下されたものであり、当裁判所としても反トラスト法分析の経験をほとんど積んでいなかったのである……。
以上の理由により、原判決を破棄し、差し戻す。
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->判決全文 http://www.supremecourtus.gov/opinions/06pdf/06-480.pdf
(渉外部・飯野)