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2007.11.14
いずれにせよ、特許と権利消尽論の問題は、消耗品のリサイクル業者/アフターマーケット・サプライヤーに対する純正品メーカーの戦略、特許製品の川下への流通過程に及ぼしうる特許コントロールの範囲(可否)などをめぐり、まだまだ(法廷内外での)議論の余地があるようです。今回米最高裁で検討されることになった事件の具体的争点は、先の我が国最高裁が扱った争点とは異なりますので、今月は米事件を少しおさらいしてみます。
Mallinckrodt事件において、特許権者は、特許対象の医療機器に「使用は一回限り(single use only)」という表示を付して病院に販売した。この医療装置は、実際には再利用可能であったが、多くの病院は使用後の機器を特許権者に返送した(特許権者はそれを再調整する)。ここでCAFCは、最高裁の示した権利消尽/ファーストセール・ドクトリンを、「無条件」販売か「条件付」販売かで区別すべきものであり、後者には必ずしも権利消尽論が及ばないと判断している・・・
上記の通り、特許品の販売について「条件付」販売か「無条件」販売で区別し、「条件付」販売については権利消尽論が適用されないとしたCAFCのMallinckrodt判決が、それまでの最高裁判例に反するのではないか、という問題が今回最高裁によって検討されることになったわけです。
実は、この問題点を示唆する判決はすでに2005年に米控訴裁で下されています。しかも、この事件ではプリンタ用インクカートリッジが対象製品となっているのです。(Arizona Cartridge Remanufacturers Association v. Lexmark International Inc., 9th Cir., 8/30/05)。同事件では、プリンタメーカーである米レックスマーク社が純正インクカートリッジを販売する際に行った「再利用制限」手法が問題とされました。この手法について論じる際に、第9巡回区控訴裁(本件は不正競争法という観点から争われたため、CAFCではなく第9巡回区が扱っています)は、CAFCのMallinckrodt判決の問題点を以下のように示唆しています。
A. 販売後の制限の法的強制力
1. 特許法
地裁は、レックスマークが、消費者による同社の特許対象プリベート・カートリッジの使用に条件をつけることができると認定した。この認定の根拠としたのが、連邦巡回控訴裁版所(CAFC)がMallinckrodt, Inc. v. Medipart, Inc.事件において示した原則、すなわち「特許認可の合理的範囲内、すなわち特許クレームの主題に関するものと認定される限り」、特許対象品に対する制限は許される、というものである(976 F.2d 708)。「特許権者が特許認可の枠を超えて、合理の原則に照らし正当化されない反競争効果をもつ行為に走った場合」、特許対象品に制限を課すことは許されない。Monsanto Co. v. McFarling事件(302 F.3d 1291 (Fed.Cir.2002)参照。特許対象種子を購入した農民に対する差止め命令 ? 「当該種子はワンシーズンのみの商用穀物収穫用に植える」という契約の違反を認定 – を支持)。また、B.Braun Med.,Inc. v. Abbott Laboratories事件(124 F.3d 1419 (Fed.Cir. 1997)参照。一般的に「制限を付すことなく特許対象装置を販売すれば、その後購入者による同装置の使用について支配する特許権者の権利は消尽したものとされる」が、当該物品の販売に際して特許権者が特に制限を課していた場合はその限りでない)
本件地裁は、Mallinckrodt判決の原則を適用し、レックスマークの特許権は消尽していないのだから、レックスマークがプリベート・カートリッジに課した条件は法的強制力があると判断した。本件控訴において、ACRAは、地裁がMallinckrodt判決へ依拠したことに対しても、また同判決自体の有効性についても争っていない*。事実、ACRAは、特許対象品の使用が制約される場合があることを認めている。ただし、そのためには、特許権者が当該特許対象品の購入者との間で有効な契約を有していなければならない、と主張しているのだ。
*[控訴裁注:The Electronic Frontier Foundationが、当裁判所へ提出した意見書(amicus brief)において、Mallinckrodt判決の過ちを主張し、同判決におけるCAFCの判断を明確に拒絶するよう当裁判所に求めている。しかしながら、ACRAが求めていない以上、当裁判所としては本件控訴事件解決のために、CAFCの同判決について判断する必要はない]
上記の通り、第9巡回区控訴裁は、Mallinckrodt判決見直しの必要性を示唆しながらも、当事者からそれを要請されていない、として判断を控えました。それから2年以上経過したいま、パソコン用コンポーネントを対象とするLG v. Quanta事件においてこの争点を最高裁が扱うことになったわけです。
(渉外部・飯野)