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2008.02.15

特許/第285条/瑕疵ある権原の調査懈怠による事件の例外性の認定

原告が、被疑侵害者に対して、根拠と準備の不十分な訴訟を提起したという明らかな確信を抱く証拠が存在する場合には、第285条に基づき事件が例外的であると見做すよう地裁に求める正当な理由となる。

侵害請求にかかる譲渡された特許の権原に瑕疵があることを十分調査せずに訴訟提起した場合であって、瑕疵に関して知っていたか、または知っているべきであったことに明らかな確信を抱く証拠が存在しない場合には、例外的な事件の認定を受けない。

譲渡された特許権移転の過程において、普通ではない一連の事実が認められ、通常の注意力によって発見できない瑕疵であることが、証拠が証明している以上、瑕疵の不知について、明らかな確信を抱く証拠が存在しない場合であると認められる。
(Digeo, Inc. v. Audible, Inc., CAFC, 11/01/07)

事実概要
Digeo, Inc.(以下、Digeo)は、2002年8月12日、Microtome, Inc.(以下、Microtome)に権利を有する承継人であるIPDN Corporationから、破産による財産売却に伴う米国特許第5,734,823号(以下、’823特許)をそのままの状態で購入した。’823特許の発明の名称は、「電子通信および情報記憶用システムおよび装置(Systems and Apparatus for Electronic Communication and Storage of Information)」(例えば、小型ビデオ読取機、video pocket readers)であり、Michael Saigh、Douglas Brockhouse、Edward Chang、およびHsiao-Shih Changを発明者として掲載している。Hsiao-Shih Changは、Edward Changの兄弟であり、通称をOliver Changとしている。

本件の事実を読むと小説のようであり、その中で、亡くなったと思われていた発明者が生き返ることになる。破産による財産売却より少し前に、Digeoは、’823特許の審査経過を入手したが、そこには、面白い事実が含まれている。委任状(POA)が米国特許商標庁(USPTO)に提出されたのは、1996年7月25日で、署名したとされるのは、Oliver Changであり、その死亡した兄弟であるEdward Changの遺産管理人である。1996年7月25日という日は、また、’823特許として発行されることになる米国特許出願第08/687,292号の出願日でもある。また、同日、別のPOAとして、Oliver Chang、Saigh、およびBrockhouseによるものが提出された。審査経過は、Edward Changが死亡したことを示す書面を一切含んでいない。

特許発行費用の納付日は1997年7月22日であり、’823特許が発行したのは1998年3月31日であって、Microtomeを譲受人として掲載しているが、破産管財人は、Microtomeに関する譲渡証の提出について、USPTOに対して2002年7月11日まで行なっていなかった。つまり、特許発行のずいぶん後のことである。ただ、1996年7月の譲渡証は存在しており、Microtomeに対する(1) Oliver Chang、Saigh、およびBrockhouseによるものと(2) Edward ChangのためのOliver Changによるものである。すべての譲渡証は1996年7月に公証されており、’823特許の発行日より前の日付で記載されているが、USPTOには、破産による財産売却の数週間前まで提出されていなかった。譲渡証の日付が出願日より前の日付で記載されているのに、なぜかPOAなる書面は、承継人ではなく発明者によって署名されている。

Digeoは、Audible, Inc.(以下、Audible)に対して、’823特許の侵害に関して、2005年3月23日、Digeoが特許を購入して二年半ほどして、ワシントン西部地区連邦地方裁判所に訴訟を提起した。その訴状において、Digeoは、’823特許に関するすべての権利、権原、利益の所有者であって、特許侵害訴訟に関する権利も含むと申し立てている。訴訟開始から一年ほどして、Audibleは、2006年5月19日、Chang兄弟について尋問し、Edward Changが生存しており、カリフォルニア州ロサンゼルスに居住していること、Oliver Changは、POAと譲渡証なる書面に署名していないこと、について突き止めた。また、Audibleは、Edward Changから’823特許に関するライセンスを発行日に遡って確保した。その結果、Audibleは、2006年5月25日、略式判決の申立て(MSJ)と選択的に却下の申立てを行ない、その根拠として、Digeoは’823特許に関する完全な所有権を保有しておらず、Audibleは’823特許のライセンスを有するから、Digeoは当事者適格を欠くことを挙げた。MSJにおいて、Audibleは、特許法第285条に基づく弁護士費用を求めた。

2006年8月24日、地裁は、Digeoによる特許侵害の請求に関して、Audibleに有利な部分的略式判決を認めた。地裁は、譲渡証が偽造文書であるから、Digeoに法律上の権利は移転していないと結論づけた。地裁は、「偽造(forgery)」の用語を使用して、Oliver Changが書類に署名または作成する権原を示す証拠がないことを表現したが、裁判所は、誰かが文書偽造の犯罪に関与したかに関して見解を述べる趣旨ではないと説明している。また、事実審は、この判断に際して、部分的に根拠としている争いのない証言として、Hsiao-Shih Changによるものを挙げ、同氏は、譲渡証およびPOAなる書類に署名しておらず、また、公証人によると、自身は問題の譲渡証を公証していないと確信している。略式判決が、Audibleに部分的に有利なものとなっているのは、Digeoが、Edward Changの権利に関して、Microtomeに譲渡する信託上または明示的な契約上の義務に基づく特許に関する衡平法上の権原を有するか否かについて、重要な事実の争いが存在するからである。地裁は、また、Audibleによる第285条の申立てを斥けたが、それは、Digeoが、偽造文書について知っていたか、または知っているべきであったことの証拠が存在しないからであるとした。

2006年10月18日、Digeoは、自発的な申立てを行ない、訴状の確定力のある却下を求めた。一日後、Chang兄弟は、訴訟参加の申立てを行なった。Audibleは、却下の申立てに異議申立てを行ない、その第285条の申立てを改めて、また、第285条の請求を進める限定的な証拠開示を求めた。

2006年12月1日、地裁は、確定力のある訴状の却下を求める申立てを認め、訴訟参加の申立てを斥けた。事実審は、Audibleによる’823特許の無効および実施不能の確認を求める反訴に関して、権利を損なうことなく斥けた。地裁は、Audibleによる弁護士費用に関して改めてした申立てと証拠開示延長の求めを斥けた。地裁は、2006年12月1日、終局判決を登録した。
適時、控訴され、地裁による第285条の申立て却下と追加の証拠開示の請求が、正当か否かの争点に関して続審している。

確認

判旨
当裁判所は、連邦巡回区の先例を適用して、特許法独自の第285条の分析にあたる。Pharmacia & Upjohn Co. v. Mylan Pharms., Inc.事件(182 F.3d 1356, 1359 (Fed. Cir. 1999))参照。事件が例外的であるか否か、また、ゆえに、第285条の弁護士費用を受ける資格を有する正当であるかの決定は、地裁がなす二段階の審理である。すなわち、(1) 事件が例外的であるという明らかな確信を抱く証拠が存在するか否かを決定する。すなわち、明らかな誤りを審理する事実決定、および、(2) 肯定される場合には、その裁量において、弁護士費用が正当であるか否かを決定する。すなわち、当裁判所が審理する裁量権の濫用に関する決定である。Cybor Corp. v. FAS Techs.事件(138 F.3d 1448, 1460 (Fed. Cir. 1998) 大法廷)、特許法第285条参照。地裁は、第285条の申立てを斥ける際、事件が例外的ではないと認定したことのみに基づいているので、当裁判所は、単に、事実認定が明らかに誤っているか否かを分析する。認定が明らかに誤っている場合とは、支持する証拠が存在するが、すべての証拠に基づいて審理する裁判所が、過誤がなされたという明確な確固たる確信を有する場合である。United States v. United States Gypsum Co.事件(333 U.S. 364, 395 (1948))参照。

(…… 以下略)
*判決内容詳細については “I.P.R.”誌でご確認ください。

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