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2008.04.17

【Cases & Trends】 米特許庁敗訴判決下される - 継続出願・クレーム新規則は無効

 4月2日に速報しましたとおり、告示された新規則の無効を主張して個人発明家と医薬メーカーが米特許庁を訴えていた事件で、新規則を無効とする判決が4月1日に下されました(GSK, Tafas v. PTO, EDVa., 4/1/2008)。

 記録的出願滞貨の解消を目的として、継続出願/RCE回数の制限、クレーム数の制限(特定数を超える場合の調査分析書提出義務)、関連出願の特定・報告義務を定めたこの規則は、2007年8月21日の終局規則告示後、個人発明家Tafas氏とグラクソ・スミスクラインによって提起された訴訟により、施行日前日(2007/10/31)にヴァージニア東部地区連邦地裁の仮差止め命令が下されました。その後の本訴手続きにおいて行われた本年2月8日の口頭弁論後、予想外に長引いて出てきたのが今回の判決です。以下、判決概要をご紹介します。

 今回の「判決」は、正確にいうと略式判決申立て(motion for summary judgment)に対する裁判所の命令(Order)および命令の理由(Memorandum Opinion)という形をとります。まずは、この命令の文言をご紹介します。

命 令 (Order)

「添付するMemorandum Opinionに述べた理由により、当裁判所は以下のとおり命ずる。

  1) 原告スミスクライン・ビーチャム(グラクソ・スミスクライン
    として営業している)他の略式判決申立てを認容する。
  2) 原告Triantafyllos Tafasの略式判決申立てを認容する。
  3) 被告ジョン・W・デュダスおよび米特許庁の略式判決申立てを否認
    する。
  4) (略)  * 開示手続き上の命令
  5) (略)  * 開示手続き上の命令
  6) 『継続審査出願、特許的に区別不能なクレームを含む特許出願、
    特許出願におけるクレームの審査のプラクティスに関する変更』
    と題する規則(72 Fed.Reg. 46, 716-843 (Aug. 21, 2007)
    「終局規則」)は、「(…その他) 法に沿っていない」および
    「法定の管轄および権限を超える」(5 USC §706 (2))ため、
    無効である。
  7) 被告ジョン・W・デュダスおよび米特許庁、その代理人、従業員は、
    前記第6項に記す終局規則を実施することが永久に禁じられる。
  8) 書記官はすべての訴訟代理人に本命令の写しを送付すること

2008年4月1日
James C. Cacheris 連邦地方裁判所裁判官
ヴァージニア東部地区連邦地方裁判所」
 
 新規則を無効とする理由については、原告が複数の根拠を提示したのに対し、裁判所は、同規則が特許法の実体的内容について定めるもの(substantive rule)であり、法により特許庁が付与されている規則制定権限を超えるもの、という一点に基づいています。以下、命令の理由(Memorandum Opinion)より関連部分を抜粋します。

命令の理由(Memorandum Opinion)
「I. 背 景
 原告スミスクライン・ビーチャム(グラクソ・スミスクラインとして営業している。以下「GSK」)とTafasは、行政手続法(APA)に基づき、被告ジョン・W・デュダスおよび米特許庁が『継続審査出願、特許的に区別不能なクレームを含む特許出願、特許出願におけるクレームの審査のプラクティスに関する変更』と題する規則(以下「終局規則」)を実施することを永久に禁ずることを求めて、本件訴訟を提起した。GSKとTafasは、米特許庁による特許審査について長年にわたり確立されているいくつかのルールに変更を加える本終局規則は、APA第706(2)条に基づく行政機関の違法行為であり、無効とされるべきであると主張している。……

 従前の制度では、出願人は継続、一部継続出願、RCEの回数やクレーム数に制限を課されることはなかった。本終局規則はいくつかの点においてこの制度を変更している。

 第1に、終局規則78条、114条(以下併せて「2+1ルール」)は、最初の出願後、出願人が二度の継続または一部継続出願、プラス一度のRCEを申請することを権利として認めている……。第2に終局規則75条(以下「5/25ルール」)は、出願人が、クレームについての追加情報提示なしに、合計5つの独立クレームまたは全体で25のクレームを提出することを認めている。いずれかの制限を超える場合、出願人は、当該クレーム発明に対する審査官の特許性判断をサポートする情報を含んだ「審査サポートドキュメント(ESD)」を提出することが要求される……。

 最後に、終局規則78条は、特許出願人が関連特許出願を特定することを要求するとともに、特定の条件を満たす複数の出願については特許的に区別されないクレームを含むものであることが推定されることを規定しており、これにより、出願人が本来区別されない複数の出願を同時並行して出願することにより、「2+1 ルール」や「5/25ルール」の適用を回避する試みを阻止しようとしている……。」

 終局規則を無効とする理由としては、冒頭に記したとおり同規則が特許法の実体的内容について定めるもの(substantive rule)であり、法により特許庁が付与されている規則制定権限を超えるもの、という一点に基づいています。命令理由のなかでは、それぞれの規則についてなぜ実体的内容に当たるのか個別に分析していますが、すべての分析紹介は割愛させていただきます。ここではESD要件についての分析のみ抜粋いたします - 最初の段階から特許性判断に関る情報提供を出願人に課すという点で、別途米特許庁が検討しているIDS改正規則案の追加説明要件に通ずる部分があるからです。

 なお、本命令理由では、関連出願の特定(終局規則78条)についての判断が見当たりません。上記(「背景」最終段)のとおり、この規定を『「2+1 ルール」や「5/25 ルール」の適用を回避する試みを阻止する』ものと性質付けているため、あえて個別に判断していないのかもしれません。

「III. 分析
 ……特許庁は、終局規則75条、265条が、単に出願人が5つの独立クレームまたは合計25のクレームを提出できるための方法を定めているに過ぎず、ESD要件に従わない出願の放棄扱いは手続き上のステップにすぎない、と主張する。この主張は認められない。この規則は、単なる追加情報の要求を超えるものである。すなわち、ESD要件は審査の責任を特許庁から出願人側に転換することにより、現行法を変更し、現行の法枠組みに基づく出願人の権利に変更を加えるものである。

 終局規則265条は、出願人に対し、広範な特許、特許出願、文献の調査を行い、「それぞれの独立クレームがいかにして引用例を克服し特許性を有するか」の「詳細な説明」を出願人に要求している。72 Fed.Reg. 46842; 37 CFR 1.265(a) しかしながら、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、出願人には「先行技術調査を行う義務がなく」、「出願人が知りえたであろう技術を開示する義務もない」と述べている。Frazier v. Roessel Cine Photo Tech, Inc. 417 F.3d 1230 (Fed.Cir. 2005)(FMC Corp. v. Hennessy Indus.,Inc.836 F.2d 521 (Fed.Cir. 1987)を引用…)

 さらに、特許法第102条、103条は、クレーム対象発明が先行技術に照らし新規性を欠く、あるいは自明でない限り、特許を得る資格があることを定めており、同法第131条は、米特許庁が「出願に対し審査をなすべき」ことを定めている。CAFCは、これらの特許法規定に対し、審査の責任および特許性がないことの一応の証明をする立証責任を特許庁側に課すもの、と解釈してきた。In re Warner, 379 F.2d 1011(CCPA 1967) すなわち、特許庁側が、特許性がないことを示した後に初めて、これに反駁する責任が出願人側に転換されるのである。……したがって、GSKやTafasなどの出願人に対し先行技術調査を要求し、審査責任を特許庁から転換してしまうことにより、ESD要件は、明らかに現行法と、第102条、103条、131条に基づく出願人の権利を変更するものといえる。すなわち、出願人が5つの独立クレームまたは全体で25を超えるクレーム数を望む場合、新たな実体的責任を引き受けなければならないことになり、これは、制限のない(不当な多数は別だが)クレームを認めている特許法第112条に反することになる。以上の理由により、当裁判所は、終局規則75条および265条は実体内容について定める規則であると判断する。……」
 
 米特許庁が本判決を不服として控訴するか否かは、まだ明らかではありません。頼りの(?)議会も(特許改革法案には、今回問題にされた規則制定権限を特許庁に授与する規定が含まれているため、これが成立すれば一気に形勢は逆転する)法案審議が失速したままという現状では、大統領選後の新政権下でもう一度練り直し、といったことになるかもしれません。21世紀戦略プランのひとつとして提案された本規則ですが、まだまだ先は見えてこないようです。

(渉外部 飯野)

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