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2008.08.22
これだけ読んでも何を意図しているのか戸惑うのですが、本文冒頭の一文、『米特許庁は、米国外に所在する多くの法律事務所やサービス会社が米国出願用の特許出願書類作成サービスの売り込みを米国弁護士らに行っている事実を耳にするようになった。…』を読み、数年前からよく耳にするようになった「インドへの米特許業務アウトソーシング」が思い浮かびました。米特許出願をする際に利用する米特許弁護士の高額請求に悲鳴をあげる米企業が、米出願用のドラフティング作業をインドの特許事務所やサービス会社に委託するケースが増えているというものです。その当時から、米国生まれの技術情報を米国外へ出す以上、たとえ米国出願用とは言え、技術情報・データに対する輸出管理法規の存在に留意すべきことが指摘されていました。
しかし、なぜ、いま特許庁がこのような注意喚起を行ったのか、明確な理由はわかりません。少なくとも、米特許弁護士達が運営する複数のブログでは、激しい論争が展開されています。「これは、いまや年間22億ドルの産業となったインドへの特許アウトソースの終わりを告げるものだ。……そもそも、先行技術調査であれ、出願明細書ドラフティングであれ、インドでなされたものは質が悪くて使い物にならない…」「いや、そのような質の問題がないことは、米大手企業が相当件数インドアウトソースを利用していることから明らかだ。また、輸出管理規則にしても、規制品目リストをチェックすれば、アウトソース対象となる技術の多くは、BISの個別許可を得る必要がない」「質の問題はある。米大企業がインドへのアウトソースを利用しているといっても、彼らは使い分けをしているのだ。すなわち、質重視の重要発明についてはインドへ出すことはせず、あくまで件数確保のための非重要案件のみアウトソースしているに過ぎない…」等々*1)。
米特許庁告示の背景には、軍事転用可能技術の国外流出懸念だけでなく、特許関連雇用の国外(インド)流出懸念もあるのかもしれません。以下、告示内容をご紹介します。
*1) 例えば、PLI(Practicing Law Institute)メンバーが運営しているブログ「Patent Briefs」 ”Some Insightful Commentary About India”など
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– 米特許庁告示 – Federal Register Vol. 73, No.142 (July 23, 2008)
外国出願許可の範囲について
『要約: 発明主題(subject matter)を米国外へ輸出することに関する米特許庁の許可(外国出願許可など)は、外国への特許出願に関する目的に限定されていることに、出願人と特許弁護士は留意されたい。米国に出願される特許出願書類の作成のために、主題を米国外へ輸出することを考えている出願人は、適切なクリアランスを受けるべく商務省・産業安全保障局(BIS)にコンタクトすべきである』
発効日: 2008年7月23日
米特許庁は、米国外に所在する多くの法律事務所やサービス会社が米国出願用の特許出願書類作成サービスの売り込みを米国弁護士らに行っている事実を耳にするようになった。発明主題(subject matter)を米国外へ輸出することに関する米特許庁の許可(外国出願許可など)は、外国への特許出願に関する目的に限定されていることに、出願人と特許弁護士は留意されたい。米国に出願される特許出願書類の作成のために、主題を米国外へ輸出することを考えている出願人は、適切なクリアランスを受けるべく商務省・産業安全保障局(BIS)にコンタクトすべきである。MPEP§140 (8th ed., Rev. 5, Aug. 2006)参照のこと。BISは、軍民両用の物資、ソフトウェアおよび技術(技術情報を含む)の輸出について規制する輸出管理規則(Export Administration Regulations: EAR)を公布している。15 CFR Parts 730-774 さらに、発明が米国でなされた場合、特許出願という形をとった技術データは、EARに従うか、米特許庁の外国出願許可手続きを経た上でのみ、出願書類作成、外国特許出願、出願審査手続きを目的として輸出することができる。37 CFR 5.11(c) 米特許庁による外国出願許可は、米国に出願される特許出願書類を作成することを目的として、主題を輸出することを許可するものではない。
米特許庁長官は外国への特許出願を目的とした技術の輸出を規制する権限を授与されている。15 CFR 734.3(b)(1)(v) and 734.10(b) and 35 USC 184 米特許庁は、特許庁規則に従い外国出願許可を与える。37 CFR Part 5 米特許庁が付与する外国出願許可の範囲は特許法施行規則5.15(37 CFR 5.15)に定められている。出願人や特許弁護士はまた、この外国出願許可は、米特許出願もしくは外国出願許可申請の一部として米特許庁に提出されていない技術の輸出を許可するものではないことに留意しなければならない。例えば、特許庁が外国出願許可の対象として、短い要約、PowerPoint(R)スライド、および発明の名称を受け取ったとする。通常、特許庁はそのような申請も処理するが、かかる簡略説明に対し特許法施行規則(37 CFR 5.15(a) or 5.15(b))に基づき付与された外国出願許可は、最終的に完成された特許出願を外国で出願することを許可するものでなく、また、当初の外国出願許可申請後に加えられた主題を許可するものでもない。米特許庁へ提出されなかった主題は、「第181条に基づく審査を必要とするような形で、当該発明の一般的性質」を変更したものとみなされる。35 USC 184 米特許庁は、Licensing and Review ウェブページを立ち上げ、外国出願許可やその関連事項に関するFAQなどを掲載している。
http://www.uspto.gov/web/offices/pac/dapp/opla/lr/licensing_review.htm
本告示は、現行法や規則を変更するものではない。したがって、本告示の発効日は2008年7月23日であるが、この日より前に生じた現行法規の不遵守の法的責任が、本告示の結果免じられたり何らかの影響を受けることはない。EARに関する情報は、BISウェブサイトから入手可。http://www.bis.doc.gov
Date: July 16, 2008
Jon W. Dudas,
Under Secretary of Commerce for Intellectual Property and Director of the United States Patent and Trademark Office
(渉外部 飯野)