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2008.11.04
第5回は、フィリピンのHechanova Bugay & Vilchez事務所でパートナーをしておられるEditha R. Hechanova氏にインタビューを行いました。
今回は、商標にスポットをあてたインタビュー内容となっております。
太平洋に面したビコル地方のカタンドゥアネス州ヴィラク出身です。スキューバダイビングとスキーで人気の場所です。オフィスがあるのはメトロマニラ(マニラなどの都市群からなる国家首都地域)を構成する一つの市であるマカティ市です。
Q2. フィリピンの産業について簡単に教えてください。また今後期待される産業にはどのようなものがありますか?
主な産業は現在でも米、ココナッツ、コーンなどの農作物、観光、海外などに提供する労働力、そして土地開発などです。今後期待される産業としては、コールセンター、事務処理サービス、電気通信、電子通信、そして鉱業が挙げられます。
Q3. 学生時代は何を勉強されましたか?
私の専門は会計学でした。
Q4. 知的財産(商標)の仕事に携わるようになってからどのくらいになりますか?
1991年に弁護士になって以来、第2の人生としてこの業界に携わっています。公認会計士として働いていた時に人材管理を任され、労働組合と議論を交わしました。労働者のマネージメントに関わったことで触発され、法律に興味を持ち始めました。しかしながら、私は何か人と違うことをやりたかったので知的財産の道に進むことにしました。
Q5. 法科大学院はありますか?司法試験の合格率は?
はい。フィリピンには多くの法科大学院があります。そのため弁護士の数も多いです。 司法試験の合格率は20~40%です。
Q6. どういった方々が知的財産の道へと進みますか?
弁護士です。技術的な専門性を持った人々は法律事務所などで弁護士が技術的な内容を理解する手助けをします。
Q7. 知的財産の仕事は人気がありますか?
はい。知的財産に携わっている弁護士の数は多くありませんが、知的財産に対する弁護士の興味は日々増しています。最近では、フィリピン知的財産庁(IPPhil)が工学の講義を行い、工学の知識がない弁護士を後押ししています。
Q8. 女性でも働きやすい環境はありますか?また知的財産業界の男女の比率はどのようになっていますか?
知的財産業界では、弁護士の男女比が同じくらいで、女性にも働きやすい環境があります。
Q9. 商標に対する一般の方の意識はどうでしょうか?
フィリピン知的財産庁によるデータでは、海外からの出願よりも、国内からの出願が多くなっており、商標の重要性に対する認識が高まってきていることが見て取れます。一般の方の商標に対する認識はまちまちですが、著作権に関しては海賊版の音楽や映画が蔓延しており、海賊版は安く質も悪くないので購入されてしまいます。
Q10. 知的財産保護のための啓蒙活動は、教育分野などで積極的に行われていますか?
知的財産庁が定期的にビジネスマン、学生、一般大衆向けの啓蒙活動を行っています。また、興味のある人向けの特許や商標に関する一般的な講習会も開いています。
Q11. フィリピンに商標出願をすることのアドバンテージを教えて下さい。
フィリピンは先願主義を採用していますので、できるだけ早く出願されることをお勧め致します、さもなければ進取的なフィリピンの起業家が本来の権利者より先に出願を行い、本来の権利者は異議申立、無効審判、または不正競争防止法に基づいて商標を取り返す必要が出てきてしまい、出願していれば避けることができたはずの出費を強いられることになります。
異議申立や無効審判では、証拠に対して多くの形式的な要求がなされます。証拠資料はフィリピンの国外から持ち込まれることになりますので、それらは公証人に認証され、その後フィリピン大使館で領事認証される必要があり、煩わしい手続となります。
他の煩わしい点は、権利者が用意する必要のある証拠の量です。正当な権利者は、異議申立または無効審判に勝つために先使用と商標が国際的に著名であることを立証する必要があります。最高裁判所は、先使用はフィリピン国内でなくても構わないと判断しておりますが、知的財産庁法務局(BLA)によるほとんどの決定では、先使用はフィリピン国内でなくてはならないと判断されている現状があります。
これまで説明しましたとおり、先に出願をしていないと上記のような問題に直面することになります。他のアドバンテージは、税関に登録することが可能になり、フィリピンに模倣品が流通することを防ぐことができる点です。フィリピンはコモンロー法系の国ではありませんので、先使用だけでは商標の権利を主張できません。ですから、出願されることが重要なのです。
Q12. フィリピンへの商標出願が多い国はどの国ですか?
知的財産庁の過去3年間のデータでは、フィリピンへの出願トップ10は、上から米国、日本、スイス、ドイツ、フランス、中国、オランダ、英国、シンガポール、そしてイタリアとなっています。米国が毎年1900件ほどで断トツです。日本は毎年500件ほどの出願となっています。
Q13. どのような商品に関する商標出願が多くされていますか?
服飾と食料に関連する商標が多く出願されていると思います。理由は、ショッピングモールやデパートが多く、それらが人気なためです。
Q14. フィリピンへの特許出願が多い国はどの国ですか?
知的財産庁は、現在デジタル化の最中ですので特許の出願件数に関するデータはまだ入手できませんが、公報を見る限りでは米国がトップで、その次に欧州共同体、そして日本、台湾という順番になっていると思われます。
Q15. フィリピンではコモンロー上の権利が発生しますか?
フィリピンはコモンロー法系の国ではありません。米国と似ているのは使用宣誓書を提出する必要がある点です。しかし、フィリピンではすべての出願に対して出願から3年以内に使用宣誓書を提出する必要がありますが、米国では本国登録ベース及び優先権ベースの場合には登録前の使用宣誓書を提出する必要がない点が異なります。
Q16.外国からのフィリピン語(タガログ語)の文字商標の出願は多いのでしょうか?また、フィリピン語の文字商標を出願する利点などがあれば教えてください。
フィリピン語の文字商標の出願は多くありません。また、特に利点も欠点もありません。
Q17. 今後、商標の保護客体が増えることはありますか?
米国を追従しているわけではありませんので、香りや音は近い将来に保護客体になることはありません。しかし、トレードドレスは明示的には記載されていませんが知的財産法典の下に保護可能です。トレードドレスは、商標法の保護客体であり、不正競争防止法でも保護できると思われます。明確かつ包括的なトレードドレスに関する記載が望まれています。
Q18. 使用による識別力は認められますか?
はい、知的財産法典は、記述的または色彩のみのために認可されない標章の場合、使用により識別力を証明できれば登録になると定めています。出願を行う前に商標を5年間独占的かつ継続的に使用することで使用による識別力が推定されることになります。ですから、特に何かを申請する必要はありません。通常の商標出願と同様に扱われます。出願をして、アクションがかけられた際に使用による識別力を証明する必要があるだけです。
Q19. 煩雑な異議申立手続が簡素化される可能性はありませんか?
特に簡素化されるとは思いません。しかし、認証された証拠資料の提出期限は延びると思われます。現在のように公告日から4ヶ月以内に要求された形式を満たした証拠を提出する代わりに、公告日から8~10ヶ月以内に行われるpreliminary conference(予備審問)まで提出することが可能になるかもしれません。 また、もしフィリピン議会がJPEPA(日本・フィリピン経済連携協定)を承認または批准すれば、証拠資料の認証要求は取り除かれ、証拠の提出がより早く簡単にできるようになります。
Q20. 近い将来、フィリピンがマドリットプロトコルに加盟する見込みはありますか?
知的財産庁長官はマドリットプロトコルに加盟したいとの意向を示しており、商標審査を促進するためのシステムをスタートさせました。現在では、登録証の発行はかなり遅れますが出願から18ヶ月以内に登録になる案件もあります。実務家や国内のビジネスマン、特に中小企業はおもしろくないようですが、2010年までにはマドリットプロトコルに加盟できると思っています。しかしながら、出願から18ヶ月以内に審査を終了させることは大変なことです。
Q21. 日本のブランドは人気ですか?
日本のブランドやキャラクターは車、おもちゃ、ゲームから、丸くて小さいケーキまで人気です。
Q22. お勧めの観光名所はありますか?
ボラカイ島やパラワンの地下湖がお勧めです。ボラカイ島のビーチはきれいで特に白い粉状の砂がすばらしいです。パラワンの地下湖は神秘的で、ビーチもとても美しいです。観光客が何を求めているのかにもよりますが、スキューバダイビングから山登りまでいろんなことを楽しめる場所があります。
Q23. 法律事務所の経営者の一人として苦労されていることはありますか?
良い人材の確保はやはり大変です。海外志向の有望な学生や、学校に良い教師が不足しているためかコミュニケーションスキルの低い大学院生などとの闘いがあります。
Q24. 今後はいろいろな面で日本との結びつきが強くなりそうですが、現在の状況をどのようにお考えですか?また、フィリピンの方と打ち解ける秘策などがありましたら教えて下さい。
フィリピンにとって必要なサポートを日本が提供している点などを考慮しても、日本とフィリピンの関係は近くなっていると思います。フィリピンで暮らしている日本人も多く、彼らはうまくフィリピン文化に馴染んでいると思います。私たちフィリピン人はオープンな性格なので簡単に打ち解けることができますし、英語を話す(理解する)人が多いので、少しでも英語が話せれば簡単に溶け込むことができますよ。
Q25. 読者の方にメッセージがありましたらお願いします。
私たちは模倣品をなくすために多大な努力をしています。特に、知的財産庁は積極的に啓蒙活動を行っており、準司法的な組織とアライアンスを構築して知的財産を含めた手続の促進を図るようにしたり、独立した知的財産の裁判所を創るために最高裁判所に陳情したり、判事に対して知的財産権の講義を行ったり、知的財産に関するセミナーやプレゼンテーションを開催するために民間団体と協定を結んだりしています。
また、最高裁判所は司法のイメージを向上させるために、不適任者やわいろを受け取ったものに対して断固たる処置を取るようにしています。これらの活動はすべて知的財産のイノベーションと保護を奨励するための環境づくりのために行っていることです。
(意匠商標部 草野)