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2008.11.27
「machine-or-transformation test」の適用
~特許法第101条に基づくプロセスクレームに関する特許性の判断基準~
2008年10月30日、米国連邦巡回区控訴裁判所は、In re Bilski事件において、BPAIの審決を維持し、コンピュータの使用を含まないプロセスクレームによるビジネス方法の特許性判断の基準として、最高裁判例を引用して「machine-or-transformation test(機械または変成の有無を検討するテスト)」を適用するのが妥当であるとの見解を示した。尚、41の法廷助言者による30の書面が提出された大法廷審理の結果、9名の判事による多数意見のほかに、3名の判事が反対意見を提示し、CAFC意見書は全体で132頁となっている。
以下、本判決の概要について、現地法律事務所の許しを得てその速報をご紹介する。
In re Bernard L. Bilski and Rand A. Warsaw (October 30, 2008)
FOLEY & LARDNER LLP [ www.foley.com ] Legal News Alert
ビジネス方法とその他の技術主題の分野に関連する特許訴訟および出願に重要な影響を与えると思われる決定において、2008年10月30日、連邦巡回区控訴裁判所は、その大法廷によって、In re Bilski事件(No. 2007-1130 (Fed. Cir. Oct. 30, 2008))の判断を示した。連邦巡回区は、連邦最高裁判所の先例に鑑み、プロセスに関する特許性に対する適切なテストは、「machine-or-transformation test(機械または変成の有無を検討するテスト)」であると説示した。machine-or-transformationテストに基づいて、「あるクレームされたプロセスに、特許法第101条規定の特許性が確かに認められる場合とは、(1) 当該プロセスが特定の機械または装置を結びついているか、または、(2) ある特定の物品が異なる状態または物に変成する場合である」とした。Bilski事件意見書第10頁参照。
連邦巡回区大法廷は、最高裁先例を遵守して、技術主題がプロセスである場合の特許性をテストする方法を追究した。裁判所は、慎重に最高裁先例を検討して、ある特定の出願に保護を与えることが、基本原則の使用を完全に先取りすることになるか、あるいは、その基本原則に関する特定の出願を単に排除することになるのかに関して、核心となる原則を中心に展開されるテストであると確信できるものを採用した。裁判所は明示して、ビジネス方法特許やソフトウェア特許は、machine-or-transformationテストを充たすときに特許性を有するとした。Bilski事件意見書第21頁参照。重要なこととして、裁判所は、あるプロセスと機械との結びつきについて、単なるコンピュータの使用を挙げている場合には、考慮の余地を残している。
基本的なMachine-or-Transformationのテスト
裁判所は、その適用しうる法に関する審理の冒頭において、最高裁が、そのBenson事件とDiehr事件の判決において、自然現象、精神的なプロセス、および抽象的な着想に関する「基本原則」に特許付与することを禁じたことに着目した。裁判所の説示によると、内在する問題は、上記の事件に照らしてみると、出願人のクレームが基本原則を列挙しているかであって、是である場合には、当該クレームが認可された場合には、その基本原則のすべての使用を本質的に先取りすることになるかに関している。Bilski事件意見書第10頁参照。また、裁判所が付言したこととして、最高裁は、その多くの先例を通して、machine-or-transformationテストをこの問題点を検討するのに「確実なテスト」として定着させているとした。同第10頁参照。
裁判所は、その主となるテストに帰結するところを縷々説明して、ある物に関してある特定の機械または変成を利用することは、特許性に影響を与えるために、クレーム範囲に「重要な限定」を加えなければならないとした。Bilski事件意見書第24頁参照。裁判所は、列挙された機械または変成が、「重要ではない解決後の活動」となってはならないと説示した。同第16頁参照。さらに、裁判所によると、「単なる使用分野の限定事項は、ほかの特許性のないプロセスクレームに特許性があるようにするのには、一般的に不十分である」とした。同第15頁参照。これは、出願人が境界線のところで特許保護を求めるような挑戦に門戸を開くことにあるであろう。
このmachine-or-transformationテストが特許性に関する適切なテストであるとする際、裁判所は強調して、クレームの分析は、全体として行なわれなければならず、単にクレーム中の個別の限定事項としてであってはならないとし、「基本原則それ自体に特許性がないとしても、基本原則を導入したプロセスは特許性があるとされることがある」と付言した。Bilski事件意見書第17乃至18頁参照。
useful, concrete, and tangible resultのテストは有用であるが不十分
machine-or-transformationテストを特許性に関する適切なテストとして採用する際、連邦巡回区は、その先のState Street Bank事件判決において提示した「useful, concrete, and tangible result(有用で、具体的な、さらに有形の結果)」に関するテストを放棄した。Bilski事件意見書第19乃至20頁参照。裁判所は、「確かに、特定の機械と結びついたプロセス、もしくは、特定の物品を別の状態または物に変成させまたは還元することは、一般的に『具体的な有形の結果』をもたらす」と付言した。「有用で具体的な有形の結果」に着目することは、裁判所の説示によると、あるクレームが、基本原則となるかまたは実用的な利用となるかいずれかを分析するための事実上有用なツールとなりうる。Bilski事件意見書第20頁参照。しかしながら、裁判所は、「有用で具体的な有形の結果」に関するテストそれ自体としては、特許性を判断するには十分なものでないとした。
裁判所によるテストの詳細
裁判所は、machine-or-transformationテストをいかに適用するかの詳細を明確にするのを制限し、特に、そのような明確化を将来の事件に託した。その二部構成のテストの内、機械の部分に関して、意見書は、Bilskiのクレームが機械の実装を導入していないため、機械実装の適用についてそれ以上検討していない。Bilski事件意見書第24頁参照。上記のように、裁判所は、「コンピュータの記述が、プロセスクレームと特定の機械を結び付けるのに十分であるのか、または、それはどの段階でそうであるのか」の問題を明示的に未解決のままにした。同第24頁参照。
しかしながら、物の変成に関して、意見書は明確にしており、変成は、「クレームされたプロセスの目的の中心」とならなければならないとした。同第24頁参照。裁判所は、物理的な変成は十分であると確認した。同第25頁参照。また、裁判所は、データの変成として、さらに、例えば、骨や臓器を表示するスキャナー上に示されるデータのようなものは、十分であるといいうると説明した。同第26頁参照。
machine-or-transformationテストは、特許付与にとって望ましい技術主題をいくぶん制限するようにみえるが、裁判所は、新規な範疇の排除であって、ビジネス方法またはソフトウェアに対して排他的となるいかなるものも採用しないよう注意深く明示した。裁判所の説示によると、「いくつかの法廷助言もそう示しているが、当裁判所は、ソフトウェアや他の概念であって、最高裁によって説明された基本原則となるクレームの排除を超える技術主題に関するいかなるものも、広い排他的な採用を否定する」とした。同第21頁参照。
Bilski出願の活用と将来的な影響
Bilski特許に目を転じて、裁判所は、クレームの技術主題には特許性がないと認定した。Bilski事件意見書第28頁参照。意味深いことであり、また争いのないこととして、クレームは、機械の実装を要求しておらず、ゆえに、前記テストの「機械」の部分は充たされていない。同第28頁参照。裁判所の認定によると、クレームは、「いかなる物理的な対象または物質の変成も、もしくは、いかなる物理的な対象または物質の電子的な信号の表示も」導入していない。同第28頁参照。
裁判所は、第1クレームが、取引を完結させる解決後の段階を伴う純粋に精神的な過程を導入していると認めた。裁判所によると、「クレームされたプロセスは、プロセスのすべての段階が完全に人間の精神において実行されうるので、いかなる機械とも結び付けられていないことは明白であって、また、いかなる物品も異なる状態または物に変成することはない」のである。結果的には、それは、第101条に基づく特許性ではない。同第23頁参照。したがって、裁判所は、当該クレームに特許性があると認められるならば、ヘッジの基本的な概念とヘッジに内在する数学計算を先取りすることになると認め、クレームは特許性がないと宣言した。同第32頁参照。
とりわけ、二件の反対意見(Rader判事、Newman判事)は、裁判所が第101条の範囲に新たな限定事項を加えたと確信し、先の最高裁先例が、自然法則、自然現象、および抽象的な着想を第101条から排除し、さらに立法府の意図が第101条を広く解釈して、「いかなる」新規で有用なプロセスも対象とするとしたのとは、相反するものであるとした。その他の反対意見(Mayer判事)は、裁判所が特許制度からビジネス方法特許を取り除くのに十分ではないと確信し、また、連邦巡回区によって採用された第101条のテストは、容易に回避されるとした。要するに、これらの反対意見は、第101条の可能な範囲に関して、様々な考え方を示している。
Bilski事件において紹介されたmachine-or-transformationテストは、特許訴訟にも影響を与えるであろう。特に、専門家証言は、裁判所のテストによって生じる争点を完全に対象とする必要がありそうである。
例えば、裁判所は、明らかな定義のないプロセスに対して、第101条の特許性テストに関する機械の部をそのままにしている。意見書は、Benson事件の最高裁判決とその他の最高裁先例を調和させようとしている。あるクレームが機械を実装するプロセスに関して特許されうるとしても、特定の機械に関する記述は、「クレーム範囲に意味のある限定を課さなければならず」、「単に意味のない特別な解決の活動であってはならない」とした。裁判所は、テストの機械実装の部に関する争点を敷衍する作業について、将来の事件にとっておくことにした。将来の訴訟は、テストのこの点に関して、あるクレーム範囲が意味のある方法で限定されているか否かに関する専門家意見を思う存分利用することを含んでいることは、確実である。
同様に、訴訟において専門家の証言も必要とされる場合は、特許可能性がテストの変成に関する部の下に論じられる場合である。特に、専門家は、クレームされた変成のいかなるものも、重要なものに関しては、意見を求められるであろう。
本事件に関するご質問は、下記弁護士までご連絡くださいますと幸甚です。
Contact Person: Mr. KAMINSKI, Michael D. (MKaminski@foley.com)