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2009.02.02
■米国CAFC 速報(Order to transfer the case):In re TS Tech USA事件テキサス東部地区に提起された特許侵害事件をオハイオ南部地区にする被告申立認諾(In re TS Tech USA Corporation, et al., CAFC, 12/29/08)
2008年12月29日、米国連邦巡回区控訴裁判所は、In re TS Tech USA事件において、2008年9月30日に原審テキサス東部地区連邦地方裁判所が斥けた被告による裁判地移転の申立てに関して、非特許事件の先例を適用してその申立てを認めて、連結点に関する多因子テストによってテキサス東部地区からオハイオ南部地区に本件特許侵害事件を移送するのが適切であって、裁判地移転の申立てを拒絶したテキサス東部地区によるその裁量権の行使には明らかな濫用が認められると判断した。テキサス東部地区は、特許権者がその特許侵害訴訟の提起を最も望む法廷地として有名であるため、今般のCAFCによる命令が与える今後の影響が注目される。
以下、本件CAFC命令の概要について、現地法律事務所の許しを得てその速報をご紹介します。
FOLEY & LARDNER LLP (www.foley.com) Legal News Alert ***** January 5, 2009
~CAFC 決定に示された裁判地(テキサス東部地区)の適切性精査の必要性~
2008年12月29日、米国連邦巡回区控訴裁判所は、テキサス東部地区連邦地方裁判所に対して、特許侵害訴訟をオハイオ南部地区に移転(transfer)するよう命令した。その決定は、In re TS Tech USA事件(2008 WL 5397522 (Fed. Cir., Dec. 29, 2008))(以下、TS Tech事件)として、確実にテキサス東部地区において最も引用される特許事件の一つに挙げられることになり、また、同裁判所における特許侵害請求と同様に移転の申立てを増加させる引き金になるであろう。
テキサス東部地区は、国内でも特許侵害事件を提起するのに最も人気のある裁判所の内にはいる。同裁判所は、特許所有者に有利であるとの評価を受けており、また、事件を他の裁判地に移転するのに消極的であるとされている。結果として、原告は、同法廷地に対して連結点が希薄であっても、頻繁に侵害事件を同裁判所に提起する。
TS Tech事件は、特許所有者に対して、同地区に提起することを再考させることになるであろう。同事件において、連邦巡回区は、地裁が「TS Techによってなされた裁判所および裁判手続に関する法律、28 U.S.C. § 1404(a)に基づく裁判地移転の申立てを否定したのは、明らかにその裁量権の濫用」であると判断した。第1404条(a)の規定は、「当事者と証人の便宜のために、正義に関する利益に鑑み、地方裁判所は、いかなる民事訴訟をも他の地区または区部に移転することができる」としている。
連邦裁判所はテキサスにおいて、移転が適切であるかを決定する多因子テストを適用するよう求められている。「私益」の要因として含まれるものは、以下の通りである。すなわち、(1) 証明情報源にアクセスする容易さ、(2) 証人出廷を確実にするために強制的な手続の可能性、(3) 証人が自発的に出廷するための費用、(4) その他のあらゆる実際的な問題点として、事実審を容易にし、迅速化させ、経済的であることを確保するもの、が挙げられる。「公益」上の要因として含まれるものは、以下の通りである。すなわち、(1) 裁判所における訴訟多発によってもたらされる行政上の難題、(2) その地で決定される地方特有の争点に存在する利益、(3) 法廷地と事件に適用される法の親和性、(4) 抵触法または外国法の適用に関する不必要な問題の回避、が挙げられる。
TS Tech事件において、その訴訟事件は、実質的に、テキサス東部地区に関する連結点は存在しないといってもよいくらいである。いずれの当事者も、テキサスで法人設立を行っておらず、または、テキサス東部地区に営業所を有していない。すべての重要な証人と物理的な書面上の証拠の大部分は、本件においては、オハイオ、ミシガン、およびカナダにある。唯一の連結点として、本件訴訟事件とテキサス東部地区とに関係のあるものは、同地区において侵害製品のいくつかが販売されたことと、原告がその地で訴えを提起する決定をなしたことだけである。
連邦巡回区は、それらの事実を根拠として移転を否定するのは、裁量権の明らかな濫用であると認定した。連邦巡回区の見解によると、地裁は、原告による裁判地の選択に対して過分に重きを置いており、また、いくつかの侵害製品が同地区において販売された事実は関連性がない理由として、当該製品は米国中で販売されており、そのことは、すべての合衆国居住者に本件訴訟に関する等しい利害を付与しているからであるとした。連邦巡回区は、地裁が「隠蔽した事実として、単一ではない関連要因が原告の選択した裁判地を認めている」ことに言及した。
今般の連邦巡回区の判断は、第5巡回区控訴裁判所が2008年10月に下した類似の判断に続くものである。In re Volkswagen of America, Inc.事件(545 F.3d 304 (5th Cir. 2008))(以下、Volkswagen事件)において、第5巡回区は、テキサス東部地区に対して、製造物責任の事件をテキサスの別の地区に移転するよう命令した。「単一ではない関連要因が」、東部地区における事件を維持するよう認めていたからである。テキサス東部地区は、第5巡回区内に所在しているから、連邦巡回区は、Volkswagen事件判決の理由をTS Tech事件の判断に適用した。
TS Tech事件は、移転の申立て件数をテキサス東部地区において増加させることになるであろうし、また、同裁判所に提起される特許事件の数に影響を与えるであろう。しかしながら、どのくらい劇的なものになるか、その影響力は、今のところ分からない。特許所有者がテキサスに実質的に連結点のない訴訟を目論んでいても、他の場所に提起することを考慮することになるであろう。その他の法廷地として、テキサス東部地区から離れることによって白羽の矢が立つところは、ウィンスコンシン西部地区や米国国際貿易委員会といった迅速な審理を行なう場所が挙げられる。今日までの限られた証拠が示唆するところでは、TS Tech事件が、テキサス東部地区裁判官の思考に「海の変化」的大転換を惹き起こすことはなさそうである。Volkswagen事件判決以来、4件の先例となる決定が東部地区によって移転申立て関連に対してなされているが、それらすべての申立ては斥けられている。
それにもかかわらず、TS Tech事件は、テキサス東部地区から逃れようとする被告にいくばくかの希望を与えているようなものであり、特許所有者には、好ましい法廷地であるとみて漁るのに待ったをかけるものとなるであろう。
本事件に関するご質問は、下記弁護士までご連絡くださいますと幸甚です。
Contact Person:
Mr. KAMINSKI, Michael D. ***** (MKaminski@foley.com)