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2009.04.13
本稿では注目企業としてホンハイ・プレシジョンに焦点を当て、特許出願傾向の分析を行った。
米国Wolters Kluwer Healthの特許データベース部門であるIFI Patent Intelligenceの発表によると、「鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry Co. Ltd.)」(以下ホンハイ)が米国登録特許件数で2008年に初めてTop35に入った。ホンハイは製造業のアウトソース化が進む中、急成長を遂げたEMS(Electronics Manufacturing Service; 電子機器の受託製造サービス)の有力企業である。その件数を見てみると、ホンハイは719件、ホンハイの通称である“Foxconn inc.”, 中国の子会社である”Hongfujin Prec.”名義での出願も加えると1008件もの登録実績を残している。これはホンハイへの委託元あるAppleが254件、Motorolaが402件、Nokiaが608件という実績と比較しても、ホンハイの知的財産権への意識の高さを示している。
本稿ではデータベースDWPIを用いて、EMS企業の特許出願動向にフォーカスを当てる。中でも、特許出願件数が他社に対して圧倒的(後述、図1参照)であり、上述のように注目されているホンハイについて分析を行う(注1)。
図1は2007年の売上高上位のEMS企業であるホンハイおよびFlextronics、Jabil、Quanta、Asustekの過去10年の特許出願件数を比較したものである。2001年以降から各社とも出願件数が増加しているが、その中でもホンハイが件数および増加率ともに他社を圧倒していることがわかる。
図2はホンハイの日本・米国・欧州・中国・台湾での出願推移である(注2)。ここでのポイントは2点である。
a)2000年以前は米国の出願が主
b)2001年以降中国での出願数が急激に増加
a)、b)のポイントより、90年代後半からまずは米国での権利取得を進め、近年その範囲を中国に広げているということがわかる。
図3は、ホンハイが出願した特許の優先権主張国分布である。本社を台湾におく企業であるにも関わらず、全世界的な”ホンハイ”や中国の”Hongfujin Prec.”, 米国の“Foxconn inc.”など進出先や製品によって名義を使い分けており、本社で集約せずにそれぞれの拠点で研究開発を行い、特許出願および権利取得を推し進めていることが分かる。
図4は優先権国別のIPC付与率を示したものである。中国では付与分類割合の偏りは小さく、G06F(データ処理)がわずかに多くなっている。これに対して、米国では6割以上にH01R(導電接続; 例えばコネクタ部品等)が付与されており、ある製品の製造のために特許出願を行っているということや国ごとに出願している技術分野の傾向が異なっていることが明らかになった。
これまで、中国・台湾企業が特許出願数で上位にくることは少なかったが、近年、ホンハイやHuaweiなど技術力が高く、知的財産権に対する意識も高い企業が現れてきた。欧米企業のみならず、中国・台湾企業も要注意な存在となりつつあるといることは明らかである。
(IP総研 技術グループ 研究員 伊藤寿)
[参考文献・記事]
1)Wolters Kluwer Health Press Release, “IFI Patent Intelligence Analysis of 2008’s Top U.S. – Patent Recipients Suggests America May be Losing Dominance”
2)iSuppli Corp., “Top 10 EMS of 2007 Annual Revenue”
[注意事項]
注1)本調査では、中国での子会社の名義である”Hongfujin Prec.”や ホンハイの通称である“Foxconn inc.”の件数もホンハイに含めている。
注2)現在、WPIにおいて台湾特許の収録は完全ではない。例えばホンハイの2006年の台湾への特許出願件数は、台湾特許庁のデータによると1404件であるが、WPIでは153件となっている。本稿では、これらWPIに未収録の出願は考慮していない。