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2009.05.01

【未分類特許の紹介】(2)

未分類特許の紹介(2)
前回に引き続き、普段あまり目にする機会がない未分類特許を紹介していきたい。前回は、未分類特許界の大巨人、「素粒子の帝王」ことK氏の特許について紹介したが、今回は未分類特許の公開件数第二位である、IK氏にスポットを当てていきたいと思う。

IK氏の未分類特許出願と言えば、『タイムマシン』に尽きる。特に、一般相対性理論に基づいた空間ワームホール型タイムマシンについての発明が多い。以下にIK氏のタイムマシン関連出願の集大成とも言える、特開2006-288199号の内容を原文のまま紹介したい。尚、「ワームホール」、「キップ・ソーン」、「ウラシマ効果」、「カシミール効果」については、多くの方にとってあまり馴染みがない用語と思われたので、最後に用語解説を行った。

【発明の名称】完成版空間ワ-ムホ-ルタイムマシン5
【要約】
【課題】キップ・ソーンらの空間ワームホールタイムマシンを完成版5として実現させる。
【解決手段】最初のワームホール建造時点より過去の時間に行くにはワームホールを揺すりその内部のウラシマ効果で過去に自然に出来たホワイトホールから大過去へ行く可能性もありそれは負のエネルギーやガンマ線バーストをそこで探す事で見つかり負のエネルギーはカシミール効果かレーザービームをニオブ酸リチウムの結晶と鏡を利用し負だけにし特異点の発生は冨松・佐藤解か定義多項式の変形によるものかブローアップで処理しその空間を時空の裏側に数学においての結び目や絡み目や組みひもや物理学においての世界線を編むという時空の組みひもで縫い合わせ従来の空間ワームホールタイムマシンの製造の難点四箇所をさらに詳しく解消して完成版5型に仕上げる

解決手段の最初の2行で、読み手のテンションは一気にレッドゾーンへと跳ね上げられてしまう。さらりと書かれたこの2行には、少なくともノーベル物理学賞3個程度の発見が凝縮されているからだ。ワームホールは、理論的には存在の可能性が指摘されてはいるものの、まだ確認されたものではない。しかし、本発明では、そのワームホールが、事もあろうに『建造』できることになっている。しかも、建造したワームホールは、何と『揺する』ことが可能であり、さらに揺することで『ウラシマ効果』が得られ、得られたウラシマ効果により『過去のホワイトホールを呼び出す』ことができ、さらにそのホワイトホールで『大過去へ行ける可能性』が示唆されているのである。まさに超絶的な大発見の殺人的フルコースである。本文を読み進めると、このワームホールは(1)大きな質量の物を一筒所に集めて空間を折り曲げくぼみを作り、(2)それを「時空の組みひも」を利用して縫い合わせることで作るとしているが、どの程度の質量のものをどの程度の空間に集めるのか、『時空の組みひも』とはどのようなもので、どのように縫い合わせるのかについては、残念ながら詳細には記述はされていない。また、最も気になる『揺する』という行為の詳細も不明のままである。

タイトルにある数字『5』と、解決手段の最後の部分にある『この発明にて完成版5型に仕上げる』という箇所に、少々の違和感とそれを上回る期待感を持たれた方も多いのではないだろうか。そう、その感覚は全く正しい。IK氏により「完成版空間ワ-ムホ-ルタイムマシン1~4」までは、既に出願され公開されているのである(最初のタイトルには「1」の数字は付いていない)。これら1~4型は、最終的な完成版ではないのに、何故か毎回タイトルの始まりが「完成版」からであるのは、IK氏特有のレトリック表現、良い意味で読者を裏切る独特の手法と受け止めたい。尚、これら「完成版空間ワ-ムホ-ルタイムマシン1~5」は、最初の1型が出願されてから約7ヶ月という極めて短期間に出願されたものであるが、2006年10月19日に公開された「5型」を最後に、IK氏からのワームホール型タイムマシン関連のものは発見されていない。もちろん、IPCが付与された特許も存在しない。このことが、この「5型こそがIK氏のタイムマシンの最終型である」と判断する1つの根拠となっている。既に試作機は完成しているのではないか。そんな可能性を強く感じさせる。

さて、実はIK氏は、未分類特許よりも、IPCが付与された従来型の特許の出願件数が圧倒的に多い。未分類特許が12件なのに対し、IPC付与特許は3倍以上の39件であり、IPC付与特許には登録となったものすら存在する。そのIPC付与特許にて、IK氏が最近最も力を入れているのが、日本が世界に誇る、『iPS細胞』の用途発明であり、不老不死技術に関するものである。IK氏は以前より、「体外離脱応用不老不死装置」(特開2006-21053号)などの不老不死関連発明を出願し公開されてきているが、2008年には遂にiPS細胞を使った不老不死装置関連の公報4件が公開された。2008年12月31日までのところ、日本特許公報におけるiPS細胞関連の公開特許件数、トータル請求項数では、本家の京都大学山中教授ではなく、何とIK氏が第一位なのである。

しかも、山中教授によるiPS細胞の基本特許は、2008年11月19日に発行された登録特許第4183742号であるのだが(早期審査により特開2008-283972号, 2008年11月27日公開より登録公報の発行が早い)、何と驚くことに、この基本特許が公開される以前に、IK氏によって出願されたiPS細胞関連公報4件は全て公開されていたという驚愕の事実が判明したのだ。本家の基本特許公報、それも早期審査で公開公報よりも早く登録公報が発行された特許よりも、IK氏の用途特許が早く公開されていたのである。まさか・・・。そう、誰しもが、その「まさか」の可能性を想起せずにはいられない。ひょっとするとIK氏は、完成した5型タイムマシンに乗ってワームホールを『揺すり』、山中教授がiPS細胞の基本特許を出願した日よりも前までに遡ったのではないか。そしてこれら4件の用途特許を出願してしまったのではないだろうか・・・。しかし、公報をよく見ると、IK氏の4件の出願日は、いずれも2008年2月以降であり、山中教授の優先権主張日2005年12月よりもかなり後であったので、山中教授は事なきを得たという次第であった。しかし、ワームホールの『揺すられ』方によっては、先願主義を取る我が国の特許制度の根幹が『揺すられる』ような事態に発展するかもしれない。

用語解説

『ワームホール』
 アインシュタイン-ローゼンブリッジとも呼ばれる。時空構造をトポロジーとして考えた場合に、時空のある一点から別の離れた一点へと直結するトンネルのような抜け道と考えられている。ワームホールを通過すると光よりも早く移動できるため、瞬間移動や未来へのタイムトラベルが可能になる。ただ、IK氏の発明では、過去のホワイトホールを呼び出し大過去へ行く可能性も指摘されている。

『キップ・ソーン』
 Kip S Thorne氏。カリフォルニア工科大学理論物理学教授。著書に「ブラックホールと時空の歪み」(白楊社 1997年)や、スティーヴン・ホーキング氏(ケンブリッジ大学ルーカス講座教授)らとの共著「時空の歩き方 ― 時間論・宇宙論の最前線」(早川書房 2004年)などがある。

『ウラシマ効果』
 特殊相対性理論における「時間の遅れ」を指す用語。時間と空間を合わせて座標変換をしないと、電磁気学の法則に現れる光速cの意味が説明できないという理論的な要請から導かれたローレンツ変換による帰結である。浦島太郎が竜宮城から帰った時の状況に似ていることから命名された。恐らくIK氏は、強力な重力場では時間の進み方が遅れるという、一般相対性理論における時間の遅れを述べるために使用したものと思われる。

『カシミール効果』
 カシミール効果と呼ばれるものには2種類存在するが、二枚の金属板を振動させると光子が生じるという動的カシミール効果として使用したものと思われる。

(IP総研 技術グループ 主任研究員 吉田秀一)

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