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2009.06.12
発明者に既知の原則を提供する者、または技術の性質を説明する者が、クレームされた組合せの明確な着想を全体として有することがない場合には、共同発明者としての資格をもたない。真の発明者に技術の現状においてよく知られた着想を説明するにすぎない者も、共同発明者とはいえない。共同発明者は、ある重要な方法において、発明の着想または実施化に対して寄与しなければならず、また寄与が発明のすべての特徴と比較するときに、質の面で重要でないとはいえないクレーム発明に寄与しなければならない。
自動車シートの腰部支持体調節装置に関する争点の限定事項である拡張装置に関して、被疑発明者の寄与が重要でないか判断する際、争点の従属クレームにある発明のすべての特徴と比較して、単に先行技術に存在するからではなく、現存する自動車シートの一部であるとき、当該技術の通常の技能に関する単なる基本的な実施にすぎないのであって、その実施を当該技術の技能を有する者に予期させ、進歩性のある行為を伴わない場合には、共同発明者となることはない。
自動車シート調節システムは、標準またはオプション提供として、腰部支持体の位置センサが取り付けられて利用可能となるもので、マッサージモジュールを統合するための対象物であると開示されているから、制御モジュールが拡張装置を含む腰部支持体調節装置を有する自動車シートとともに機能する能力を有するものであるという示唆は、当該技術の通常の技能の実施を単に意味している。拡張装置に対する寄与に関して、争点クレームの発明に関するすべての次元と比較するとき、明細書とクレームが焦点を当てている対象が、主としてシート自体の構造にではなく、シートに作動する制御モジュールの構造と機能についてであるから、その寄与は重要なものではない。
争点の従属クレームの発明は、被疑発明者が寄与したとされる拡張装置ではなくして、従属する複数の親クレームに関するすべての特徴を含んでおり、親クレームの発明に寄与したかはいまだ判断されていないが、それらの発明をしていないとすれば、従属クレームの唯一の機能を提供することによって、共同発明者の地位を必然的に獲得することにはならない。
事実概要
Schukra U.S.A., Incorporated(以下、Schukra)は、自動車製造業者にシートの腰部保護システムを提供している。1996年、Schukraは、Nartron Corporation(以下、Nartron)と契約を結んで、Nartronが自動車シート用にマッサージ機能を提供する制御システムを設計するとした。Nartronは、そのシステムを設計した後、マッサージ機能を有する車両用シートの制御システムに関する特許を出願したが、その特許出願は、米国特許第6,049,748号(以下、’748特許)となった。
Borg Indak, Incorporated(以下、Borg Indak)は、電子部品をSchukraに供給している。2006年、Nartronは、Borg Indakに対して、’748特許のクレーム1と7に関する寄与侵害の訴えを提起した。Borg Indakは、略式判決を求める申立てを行ない、Schukraの従業者であるJoseph Benson(以下、Benson)は、’748特許のクレーム11に関する共同発明者であるから、訴訟参加が求められると主張した。SchukraもBensonも、これに同意せず訴訟参加しなかった。
クレーム11は、Bensonが共同発明者であるとされている従属クレームであって、クレーム6に従属しているが、従属関係は、クレーム5、クレーム1と遡る。クレーム11の重要な追加限定事項は、Bensonが貢献しているとされるものであるが、腰部支持体調節装置の拡張装置である。
明細書は、拡張装置に関して以下の記述のみを提示している。すなわち、第2モーター28は、腰部支持体拡張装置30を制御し、腰部支持体がシートバックから乗っている人の背柱湾曲に対して外側に拡張する度合いを調節するとしている。当該装置26と30は、シート装置16の腰部支持体32の位置に作用する。図によると、拡張装置30に関して、制御システムの回路図中に一つの箱として表示している。
’748特許に記載された発明者は、すべてNartronの従業者であって、推定によると、当該制御システムを発明したとされる。しかしながら、彼らは、クレーム11に列挙されている拡張装置を含む腰部支持体調節装置を発明していないと認めており、Nartronによる発明に対する寄与は、腰部支持体調節装置の拡張装置を既に含んでいる既存の自動車シート上で機能する制御モジュールであるからとしている。Bensonは、Nartronに腰部支持体調節装置の拡張装置に関する着想を提供したと主張しているが、同氏は、自動車シート上の腰部支持体調節装置用拡張装置に関する着想は、先行技術に存在すると認めている。
2008年3月、地裁は、却下の略式判決を求めるBorg Indakの申立てを認めた。裁判所は、Bensonが’748特許の共同発明者であると判断した際、同氏は、クレーム11の拡張装置の要素を考案し、共同発明者として、いかなる侵害訴訟にも原告として参加するよう求められるとした。裁判所の理由によると、Nartronの申立てに反して、’748特許は、制御モジュールとそのソフトウェアのみに基礎付けられているのではなく、機械的な拡張装置によるクレーム発明に対する寄与は、質的に重要ではないのは、Bensonが、マッサージ装置の部分を考案して、プロトタイプを開発したからであるとした。また、裁判所が、拡張装置を発明した者に関する重要な事実の真正な争点は存在しないと認定した際の理由は、記名された発明者は、拡張装置を発明していないと認めているし、Bensonは、マッサージ効果を提供する拡張装置として機能する腰部支持体フレームまたはバスケットに関する業務に従事していた証拠を提示したからであるとした。さらに、裁判所が依拠したところとして、Bensonが腰部支持体調節装置用の拡張装置を考案し発明の実施化を行なったことに関する同氏の証拠に対する反証をNartronが提示していないことが挙げられる。そこで、裁判所は、必要な原告の訴訟への参加がないとして事件を却下した。Bensonの使用者であるSchukraは、被告であるBorg Indakとの契約上の関係を維持した。ゆえに、却下の申立ての認可は、Borg Indakによる特許侵害から生ずる損害賠償をNartronが求償することを有効に妨げた。
Nartronは、ミシガン東部地区連邦地方裁判所の却下に対して、適時控訴した。連邦巡回区控訴裁判所は、裁判所および裁判手続に関する法律第1295条(a)(1)に基づいて、裁判管轄権を有する。
破棄、差戻し
以下、I.P.R.誌23巻5号参照