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2009.08.27
前回に引続き中国における権利行使の実態を取り上げますが、今回は視点を変えて、日本の企業が侵害事件において幾らの損害賠償を請求し、それに対していかほどの支払命令が下されているのか、北京の裁判所で出された直近の判決から検証してみたいと思います。
Step1:
まず情報源としては、北京法院網の判決検索機能を使います。事件当事者の国籍から検索する機能はないため、「株式会社」を名乗る当事者を日本企業と推定します。株式会社以外の法人や個人(自然人)は漏れますし、まれに韓国籍の企業が紛れ込んできたりしますが、小さいことは気にしません。
Step2:
次に『分類』から「知識産権文書」を選択して『標題』欄に「株式会社」と入力すると、2006年から2008年の3年間でざっと90件ほどの事件がヒットします。事件名から判断して、特許庁を相手取った行政訴訟や、民事訴訟であっても金額等の詳細が記載されない「裁定書」や「調解書」、更に商標/著作権/不正競争に関する事件を除外すると、専利(特許/実案/意匠)侵害事件28件の判決文が手元に残ります。
Step3:
こうして得られた判決文のうち、ここでは原審(一審)判決20件のみを報告の対象とします。控訴審(二審)8件の全てが一審判決を維持する決定を下していますので、報告から外しても結果に影響を及ぼすことがないためです。判決文の中ほどから原告の請求金額をピックアップし、末尾の主文に記載されている命令の内容と比較していきます・・・。
と、実に大雑把なやり方で日本企業が関与する侵害事件の請求額と支払命令額を比較した結果を、下記の表にてご報告します。20件中5件においては侵害が認められず、賠償も命じられていませんが、15件においては侵害品の製造停止と幾ばくかの損害賠償を命ずる判決が下されていることが判ります。いわば75%の“勝訴率”ですが(笑)、上海アメリカ商工会議所(The American Chamber of Commerce in Shanghai)が提供する資料では2007年の北京第一中級法院のトータル原告勝訴率は35%、第二中級法院のそれは56%と報告されています。こちらのデータには著作権や不正競争等、今回の調査で除外した案件も含まれていますので単純比較は出来ませんが、それでも、日本企業は健闘していると言えるのではないでしょうか。
一方で気になるのは請求額と命令額の乖離です。満額回答やそれに近い事件も散見されますが、なお多くの事件において、請求額に比して5%~40%とやや少なめの賠償額の支払命令しか下されていません。原告企業の方々はこの結果を不服に思っていらっしゃるのでしょうか?或いは他の侵害被疑者に判決文を提示して製造・販売の中止を求めたり、また同じ相手と他の国で争っている事件を有利な和解交渉に導いたり、2次的な活用をされているのでしょうか?この辺り、機会があれば各事件当事者の企業様にお目にかかって、是非ともお考えをお聞かせ頂きたいところであります。
なおNGB IP総研では、上記調査とは全く異なる、正確で詳細な判例調査や解析を承っておりますので、ご興味のある方はどうぞお問合せフォームよりご相談下さい。
(渉外部 柏原)