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2009.10.26

【Cases & Trends】 米最新判例:M&Aに伴う契約の譲渡/ライセンス契約中の不争条項の拘束力

 日米企業などの間で再びM&A(合併・買収)の動きが活発になってきているようです。特に最近の特徴として、活発になっているのは、投資ファンド主導のM&Aから、本業強化を狙った事業会社主導のM&Aに移りつつあることが指摘されています。そこで、企業価値の過半を知的資産が占めるといわれる今日、買収先が保有する技術・知的資産を可能な限り正確に把握することがM&A成功の重要ポイントとなっています。「IPDD(知的財産デューデリジェンス)」と呼ばれる、買収先の知的資産の精査においては、買収先が保有する特許・知的財産自体だけでなく、他者権利侵害を主張されるリスク査定なども含まれます。
 そこで今回は、M&Aに際し留意すべき一側面を示す事例として、米連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の判決を紹介します(実際には、クレーム解釈やITCの限定排除命令適用範囲といった争点も論争対象となっていますが、ここではM&Aで引き継がれた契約の拘束力に関する争点に絞って紹介します)。
US Court of Appeals for the Federal Circuit
Epistar Corporation(控訴人)
v.
International Trade Commission(被控訴人)
Philips Lumileds Lighting Company, LLC.(参加人)
判決: 5/22/2009

事実概要
 参加人Philips Lumileds Lighting Company(「ルミレッズ」)は、米国特許5,008,718号(「導電性ウィンドウを有する発光ダイオード」)を保有している。

 1999年、ルミレッズは、’718特許の侵害を主張してUnited Epitaxy Company(UEC)をカリフォルニア北部地区連邦地裁に提訴した。2001年8月30日、両者は和解し、ライセンス契約を締結した。これにより、ルミレッズは、前払い金と経常実施料の支払いを条件とするライセンスをUECに供与した。この契約においてUECは、自社およびその承継人が、’718特許の有効性について争わないことを約束した。

 2003年1月から2004年7月にかけ、ルミレッズは 控訴人Epistar Corporation(「エピスター」)による’718特許侵害を主張して、カリフォルニア北部地区連邦地裁で争った。両者は和解し、ルミレッズはエピスターへ’718特許のライセンスを供与した。ライセンス料は一括払い(UECが支払った額の約2倍)で、経常実施料支払いの条件はない。エピスターは、ライセンス契約対象となった製品に関連して’718特許の有効性を争わないことを約束したが、将来ルミレッズがエピスターに侵害訴訟を提起した場合には’718特許の有効性を争う権利を保留した。この契約は、ライセンス対象外の製品については言及しないことにより、これらの製品に対して権利主張された場合、’718特許の有効性を争う法定の権利をエピスターが保留できるようにした。

 2005年11月4日、ルミレッズは、特定のLEDおよびLED製品の米国への輸入、輸入のための販売、およ輸入後の米国内での販売が ‘718特許を侵害すると主張して、米関税法337条に基づき米国際貿易委員会(ITC)に提訴した。訴状は、当初、UECとエピスターを被申立人としていたが、2005年12月30日にUECはエピスターと合併し、エピスターが存続会社となった。合併契約に基づき、エピスターは、UECの資産、負債、契約および特許関連の権利と義務をすべて引き受けた。合併後、エピスターはUECのライセンス契約対象品の製造を続けた。

 ルミレッズは、UECを吸収したことによりエピスターはUEC-ルミレッズ契約に拘束される、すなわち、UEC製品について’718特許の有効性を争うことが禁じられる、と主張した。ルミレッズはさらに、エピスターは自身の製品に関連して’718特許の有効性を争うことも、UECを吸収したことにより禁じられると主張した。

 2006年4月13日、ITCは、UEC-ルミレッズ契約により、エピスターは、いかなるUEC製品またはエピスター製品についても’718特許の有効性について争うことが禁じられる、とする仮決定を下した。この仮決定に対しては再審査を行わないことが決定されたため、同年5月15日に最終決定となった。

 この後、’718特許のクレーム解釈争点について手続きが進められ、2007年5月9日、特定のエピスター製品の輸入を禁ずる限定排除命令(LEO)が下された。
 エピスターはITCの命令を不服として、CAFCへ控訴した。
 …… 一部確認、一部破棄差戻し
 
判旨
 ルミレッズの主張は次のとおり。 …UECは’718特許の有効性を争わないことに同意しており、この条件を含む和解は承継人にも適用される。ゆえにUECが、合併によって、’718特許の有効性を争わないという合意から逃れることは許されるべきでない。

 当裁判所はこの主張に同意できない。自社製品に関連して’718特許の有効性を争えるというエピスターの権利は、別途エピスターがルミレッズと結んだ契約によって支配されるべきものだ。一方、UECの承継人としてのエピスターは、合併によって承継したUEC製品に関連して’718特許の有効性を争うことはできない。

 契約の譲渡というものは、義務を負う当事者を変更するのであって、義務の範囲まで変更するものではない、というのが契約法の基本原則だ。エピスターが個別に(ルミレッズとの)契約によって得た権利を保留することは、UECが自らの義務を逃れることを許すことにはならない。ルミレッズがエピスターと和解したとき和解契約が対象としていたのは、あくまでエピスターのライセンス対象製品であり、他の状況において’718特許の有効性を争うことができるエピスターの権利は保たれている。エピスターとの契約自体を妨げることのない合併を理由に、ルミレッズがエピスターとの契約の合意事項を回避することは許されない。言い換えれば、ルミレッズが、合併前にはエピスターに対して有していなかった権利を、(合併によって)思いがけず得るということはありえない。本件和解契約は、その通常の文言に従って両当事者に理解され、意図されたものとして、両当事者を拘束する。
 
 Medtronic AVE, Inc. v. Advanced Cardiovascular Systems, Inc., 事件では次のような判断が示されている。同事件において、C.R.Bard, Inc.(「バード」)とAmerican Cardiovascular Systems(「ACS」)は、和解によりライセンス契約が締結された当該特許について、後に紛争が生じた場合には仲裁に付すことで合意していた(247 F.3d 44, 49 (3d.Cir. 2001))。その後、Medtronic/Arterial Vascular Engineering, Inc. (AVE)がバードを買収し、バードの義務を引き受けた。その後、AVEはACSを特許侵害で訴えた。AVEの請求は自らの製品に関するものであり、バードの製品に関するものではなかった。控訴裁は、以下のように述べて、バードとの契約によりAVEは侵害請求を仲裁に付すべき、とするACSの主張を退けた。

「契約の譲渡により、譲受人は譲渡人が有していた権利を引き継ぐことになるが、その権利が拡大されることはない。「譲渡は、付随する契約の条件を変えるものではない。譲渡人の契約上の権利を移転し、相手方当事者に対し完全に効力をもたらすのは、譲渡人と譲受人との個別契約である」
(Citibank, N.A. v. Tele/Resources, Inc., 724 F.2d 266,269 (2d Cir. 1983)を引用)

 裁判所は、「根本原則」に従い、ACSが主張する義務の引継ぎを認めなかった。「AVEは1992年契約譲渡をバードから受け入れたとき、バードの後を引き継いだのは事実であるが……、仲裁に対する同意は、バードが保有することのなかったAVEの個別の利益に適用されることはない」。
 
 本件は、この判決理由と結果によく合致するケースといえる。UECの和解契約は、「UEC自身に対するのと同一範囲において」のみ、エピスターに対しても排除効/拘束力を有する。判決リステートメント(第2版)43条(1982年)参照のこと。この判決の排除効/拘束力は(そのような効力があるとしても)、エピスターに吸収される以前のUEC製品に限られる。
 ゆえに、当裁判所は、UEC-ルミレッズ和解契約対象とは別の、エピスター自身の製品に対して権利主張された場合に、’718特許の有効性を争うことが禁反言の法則により禁じられるとしたITCの最終決定を破棄する。

=> CAFC判決原文: http://www.cafc.uscourts.gov/opinions/07-1457.pdf

(渉外部/事業開発室 飯野)

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