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2009.11.10

職務発明制度と国際競争力

日本の職務発明制度については、2004年の特許法改正で35条4項が改正された上で、同5項が追加された。しかしながら、その後も対価の額の算定及びその合理性等について依然、議論が続いている。毎年、内閣府により策定される知的財産推進計画の本年度版「知的財産推進計画2009」の中にも職務発明については、運用の見直しを考慮してか下記のような計画が発表されている。

5. 職務発明制度の運用状況等の情報を収集し、これを評価する国際競争力の強化の観点から、諸外国の職務発明に関する制度や慣行、我が国の職務発明制度の運用状況等について、継続的に情報収集及び評価を行う。

又、上記の「知的財産推進計画2009」の策定に先立ち、企業側の意見として経団連からの提言の中にも下記のような問題提起が今年の3月にされている。

「特許法35条では、職務発明にかかる「相当の対価」について、使用者と従業者との間の協議に委ねられることとされている。これにより、研究者のインセンティブが向上することが期待されるものの、企業にとっては、依然として訴訟リスクを解消できない不安定な制度となっている。さらに企業の事業活動のグローバル化や、オープン・イノベーションの広がりにより、外国企業等との協業・提携が拡大する中、わが国と各国の職務発明の取り扱いの違いが、企業の事業活動、あるいは外国企業等がわが国に研究機関を置くことを阻害する要因ともなりかねない。
こうした産業政策、労働政策上の観点、そして企業経営を取り巻く環境の変化を踏まえ、過去の発明の取扱いを含め、職務発明規定のあり方について検証した上で、特許を受ける権利の法人帰属化など、制度の見直しに向けた検討を行うべきである。」

上記のような政府の計画や経団連の提言の中で、ポイントとなるのは国際競争力の強化という観点と思われる。以下では、その点を踏まえ、諸外国の制度・慣行では職務発明の帰属と対価算定の基準について、日本と比べてどのようになっているかを簡単にまとめてみた。

(米国)
米国での従業者発明は判例法では原則的に発明者に帰属するものとされている。その一方で、企業側には一定の条件で無償の実施権が与えられる。米国企業の殆どは、契約自由の原則により、従業者との間で職務発明の譲渡について契約を結んでいる。

(ドイツ)
ドイツでの従業者発明は、従業者発明法で職務発明は従業者に帰属し、企業は通常実施権を有する場合と、職務発明として企業側に権利が承継される場合とがある。補償金額は公的なガイドラインにより算定されるが、高額なものではない。

(英国)
従業者発明のうち一定条件のものは、原則的に企業側に帰属する。対象となる特許発明が企業側に著しい利益をもたらしている場合には、申請により従業者への補償金が裁判所又は特許庁の裁定により認められる。

(フランス)
職務発明は原則的に企業側に帰属する。従業者には契約により補償を受ける権利がある。

(中国)
中国では職務発明の特許を受ける権利は原則的には企業側に帰属する。よって、従業者から権利を承継する必要はない。中国特許法16条で、企業側は職務発明の発明者に奨励を行わなければならないと規定されており、その特許発明の経済的効果に応じて合理的な対価を与える事となっているが、企業により内容は異なる。

特許出願される発明の多くが特許法で言う従業者等(従業者、法人役員、公務員)による職務発明である事を考えると、その制度の規定・運用により国際競争力に影響があり、特に対価算定の合理性については、適切な運用が必要となる。職務発明の対価については、企業側にとっては、その発明に関わる事業の収益性を含めた対価の予測可能性が高い事が、一方で従業者側にとっては、発明評価の納得感を高める事で発明に対する研究開発意欲を高める事が重要とされている。又、上記の経団連の提言にあるように、そもそも職務発明の特許を受ける権利が企業側、従業者側のどちらに帰属するのかは、諸外国では企業側にある場合も多く、権利承継の対価というよりも企業側の発明奨励に重点が置かれている。

企業間のクロスライセンスや国際的なパテントプールにおいて、その対象となる特許群の中で、日本で発明された特許のみ予測できない対価が認められるとなると国際競争力という観点から問題があり、オープンイノベーションが叫ばれる中で、この問題は継続的に検討されるべきである。

尚、これらの問題点について、弊社で昨年に開催した「座談会」においても、職務発明の各国制度を踏まえた議論がされているので、ぜひ参照いただきたい。

座談会:「職務発明に対する対価・補償に関する制度の実態と問題点について」

                                        
(IP総研 澤田正彦)

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