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2009.11.16
特許侵害の損害賠償を請求する者は、当事者適格がなければならない。当事者が特許に基づく実質的な一切の権利を認められている場合には、当事者が権利を移転した取引経緯をどのように位置付けるかにかかわらず、かかる当事者は、法律上の権原、すなわち当事者適格を有するものと考えられる。特許権の譲渡は、連邦特許法が要件とするところでは、書面によらなければならない。
控訴人は、本件特許を移転したとする書面が存在しないから、被控訴人は、法律上の権原を取得しておらず、当事者適格を有していないとする。しかしながら、譲渡証による譲渡が、特許の所有権移転の手段として、唯一の方式とはならず、先例は、書面のない法律の運用による特許所有権の移転を認めている。本件特許は、マサチューセッツ統一商事法典の規定に従い、担保権の実行が行なわれて、担保権実行後、有償の譲受人は、担保物に関する債務者の権利を包括的に受け取るため、特許の所有権は承継されるものと認められる。
控訴人は、先例は正当であるが本件に拘束力はないとして、先例における法律の運用による所有権を承継する自然人の類は、特許法第154条の相続人であって、相続人または承継人は、本件においては存在しないと主張している。第154条は、特許の所有権を上記三つのカテゴリーの個人に限定しているわけではなく、この文言は、特許の所有権移転について具体的に言及していない以上、この議論は説得力がない。
マサチューセッツ法が特許の所有権移転に書面を要しないというのであれば、連邦法による先占が特許法第261条に基づいて生じる旨、控訴人は主張しているが、第261条は、特許の譲渡に関してのみ規定している。連邦法で特許所有権の包括的な移転に書面を要するものは存在しない。ゆえに、法律の運用による特許所有権の移転に関して、マサチューセッツUCCによる担保権実行条項の使用に先占する連邦法はない以上、先占の議論は有効ではない。
事実概要
Jeffrey Conklin(以下、Conklin)は、TradeAccess, Inc.(以下、TradeAccess)を1996年に創立した。Conklinは、その他の発明者とともに、本件の主題となる特許のポートフォリオを取得した。対象特許は、米国特許第6,141,653号、同第6,336,105号、同第6,338,050号、同第7,162,458号、および同第7,149,724号である。Conklinとその他の発明者は、「かかる発明と発見に関する一切の権利、権原、及び権益、並びにすべての受益権及び特権」をTradeAccessに譲渡した。これらの移転は、米国特許商標庁(PTO)に登録された。TradeAccessは、後に、その名称をOzro, Inc.(以下、Ozro)と変更した。
2001年4月2日、譲与者Ozroは、Silicon Valley Bank(以下、SVB)とIntellectual Property Security Agreement(SVB Agreement)を締結し、SVBに対して、「担保に関して現在存在しまたは将来取得する譲与者の一切の権利、権原、及び権益に関する担保権」を認めた。担保は、前記特許を含んでいる。特に、SVB Agreementは、SVBに対して、「発明、特許出願権、特許、特許出願、及び前記特許と特許出願に限定されない全世界の一切の譲与者の権利、権原、及び権益に関して、第一順位の先取特権」を譲与した。SVB Agreementは、2001年4月2日、PTOに提出された。2001年4月3日、Ozroは、Cross Atlantic Capital Partners, Inc.(以下、XACP)と同様に担保権設定契約(以下、XACP Agreement)をXACP Entitiesのために締結した。尚、XACPは、常に、Cross Atlantic Technology Fund, L.P.、The Co-Investment 2000 Fund, L.P.、及び3i Technology Partners L.P.の代理として行為している。XACP Agreementにおいて、これらの当事者は、「XACP Entities」として言及されている。XACP Agreementにある文言は、SVB Agreementのものと実質的に同一である。Ozroは、両者の契約を利用して資金を獲得し、Ozroの責めにより債務不履行となったときには、両当事者は、「マサチューセッツ統一商事法典に基づく債務不履行による担保権者としての一切の救済措置を行使する権利」を有する。そこに含まれる権利は、以下の通りである。
(中略)
さらに、債務不履行の場合に、Ozroが要求されることは、「知的財産担保物と全ての有体物財産を整理統合することであり、その中にSVBまたはXACPが有する担保権を自ら実行可能にする」ことになる。XACP Agreementは、特別な条項を含んでおり、債務不履行が生じたときには、公の競売または私的な販売による知的財産担保物の処分を規定して、XACPが希望する場合には、担保物を公の競売にかけることを認めている。
2002年12月、SVBは、その担保物権について、先にSVBによって所有された「一切の権利、権原、及び権益」をXACPに与えるノンリコース契約によりXACPに譲渡した。この移転は、PTOに登録された。すなわち、その時点において、XACPは、本件争点特許のすべてに関する担保物権を有していたことになる。
Ozroは、自らの貸付債務が不履行になり、XACPは、本件特許に担保権を行使した。2003年2月18日、XACPは、差押通知をOzroの債権者、発明者、および代理人のすべてに発送した。通知は、公の競売に出されるべきものとして、本件特許を特定した。
一方、Conklinは、Whitelight Technologyという新たな会社を始めており、これは、後にSky Technologies LLC(以下、Sky)として知られることになる。Conklinは、XACPとの交渉に入り、本件特許の所有権をSkyに移転しようとしていた。2003年6月4日、XACPとConklinは、合意契約(Settlement Agreement)に署名した。内容は、以下の通りである。
(中略)
XACPとConklin双方は、個人として、Settlement Agreementに署名した。また、Conklinは、Whitelight Technologyの責任者(Manager)として書面に署名した。尚、Settlement Agreementの条件は、以前は、条件に関する別紙(Term Sheet)に記載されていた。しかしながら、Term Sheetは、地裁に提示されておらず、ゆえに、控訴の記録として不適切なものである。連邦民事訴訟規則第10条(a)(1)参照(控訴の記録は、「地裁に提出された元の書類と添付書類」を含む)。Moore U.S.A., Inc. v. Standard Register Co.事件(229 F.3d 1091, 1116 (Fed. Cir. 2000))参照(控訴の記録は、一般的には、地裁に存在するものに限定される)。
2003年7月14日、XACPは、公の競売でその担保権を行使した。その担保権は、かつてSVBによって保持され、続いて、XACPに譲渡されたものであるが、一度、売却されたが、その後、XACPがその自らの担保権を実行した。XACPは、双方の売却の唯一の入札者であって、すべての資産を購入した。2003年7月22日、Settlement Agreementによって、XACPは、本件特許に関するその一切の権利、権原、及び権益をSkyに譲渡書面(Sky Assignment)によって譲渡した。担保権実行後のいかなる時点でも、Ozroは、特許に関するその一切の権利、権原、及び権益をXACPに譲渡する譲渡証を作成していない。
2006年10月17日、Skyは、特許侵害訴訟をSAP AGとSAP America, Inc.(以下、SAP)に対して、テキサス東部地区連邦地方裁判所に提起した。2008年1月4日、SAPは、当事者適格の欠如を根拠として、Skyの訴状の却下を求める申立てを行なった。2008年3月20日、地裁は、当事者から追加の書面を求めて、SVBとXACP双方の契約のみが実質的な権利を認めているか、または、担保権の合意は債務者の債務不履行に基づく権原を移転しているか、について審理するものとした。
2008年6月4日、地裁は、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)によるAkazawa v. Link New Technology International, Inc.事件(520 F.3d 1354 (Fed. Cir. 2008))判決に依拠して、本件特許のOzroからXACPへの移転は、2003年7月14日の担保権実行手続によって行なわれたと判断した。XACPは、マサチューセッツ統一商事法典(UCC)の担保権実行要件に適切に従い、担保物権としての特許を公の競売にかけており、Ozroに売買の通知を行なっているので、地裁は、権原の移転が2003年7月14日の担保権実行日に行なわれたと判断した。この理由によって、XACPが、Skyに本件特許を2003年7月22日に譲渡したときに、Skyは、当該特許に関する一切の権利、権原、および権益を譲与されたことになる。ゆえに、権原のチェーンは、OzroからSkyに解かれたのではなく、Skyが本件特許の正当な権原保持者であると公表されて、Skyに特許侵害訴訟提起の当事者適格が付与されたことになる。
SAPは、再考の申立てと抗告の質疑証明に関する申立てを2008年7月15日に提出した。地裁は、再考の申立てを拒絶して、SAPは、新たな議論を提起しておらず、さらに新たな証拠を提示していないとした。しかしながら、地裁の認定によると、「見解の相違に実質的な根拠が存在しており、譲渡証書のない法律行為による権原の移転が、相続または遺産に関する法に関与しない状況に適用することができるかの問題に関するものである」とした。地裁は、抗告の質疑証明を求めるSAPによる申立てを認めた。控訴は係属した。CAFCは、裁判所および裁判手続に関する法律第1292条(b)に基づいて、裁判管轄権を有する。
容認
以下、I.P.R.誌23巻10号参照