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2010.01.14
クレーム間の相違点が、具体的なクレーム用語の意味を理解する際の有用なガイドとなることがあるが、従属クレームの存在によって、特別な限定事項を加えるとき、問題の限定事項は独立クレームに存在しない、という推定を提起する。
明細書は、発明に関する非常に特別な態様を記述することがあるが、クレームをそれらの態様に限定することには注意を要し、特に、ただ唯一の態様が記述される場合には、当該特許のクレームがその態様に限定されるものとして解釈されるべきであるという主張は明確に拒絶されなければならない。クレームが、特許権者の発明の境界と範囲、すなわち、特許保護の範囲を定義するであって、明細書の態様がではなく、特許権者は、そのクレームの全範囲を享受するのであって、好ましい態様に限定するようにしたり、明細書からクレームに限定事項を導入することはない。
本件発明は、郵便切手や航空券を印字しその真正を確認するシステムであって、事前に印字されたプレプリントの情報とセキュリティ認証を使って書面が真正かを確認する。セキュリティ認証が、事前設定データに含まれるキーの制御下において、作成され有効化される必要があるか否かが争点である。争点クレームは、事前設定データがキーを含んでいると記載しておらず、データが「information(情報)」を含んでいると記載しており、クレームの平易な文言は、セキュリティ認証が、「事前設定された媒体のデータに含まれる」情報によって、一部、作成されることを要しているから、プレプリントデータがキーを含んでいることを要件としておらず、セキュリティ認証が出来上がることによる暗号キーも求められていない。事前設定データは、クレームの要件として、セキュリティ認証を作成するのに使用される情報を単に含んでいるのであって、その情報は、セキュリティ認証を作成するものの一部となり、同様に、セキュリティ認証が次の時点で部分的に有効になるのは、事前設定された紙データに含まれるデータの制御下においてであるとしており、単に、事前設定された紙データに含まれるデータ(本件ではプレプリントのラベル上のシリアル番号)が、セキュリティ認証を有効にするために使用されなければならない対象の一部になるということである以上、事前設定された紙データ中のキーを要件とすることはない。
発明者がキーの使用を要件とするようクレームを制限することを望んでいる場合には、そのように明示するはずであり、対照的に、争点クレーム以外の独立クレームが、「暗号化キー」または「キーデータ」のいずれかを要件として、従属クレームが、争点クレームに限定事項を明示的に加えて、セキュリティ認証は、事前設定データの一部分に含まれるキー情報によって有効化されるとしている場合には、争点クレームは、プレプリントされた用紙上のキーの使用を要件としていないことを現していることになる。
明細書は、事前設定データに組み込まれたキーを繰返し論じており、特許の詳細な態様だけが、キーは、事前設定データに組み込まれているとしているが、特許権者の明らかに広めのクレームを限定しているとするには不十分であり、クレーム文言は、明細書の文脈において読み込まれるとき、キーが事前設定データに含まれていることを要件としていない。
クレーム解釈には、内部証拠とクレーム文言が第一優先の情報源であり、専門家証言のような外部証拠は、クレーム文言の法律上有効な意味を決定する際に、内部証拠より重要ではなく、有益ではあるものの、より説得力のある内部証拠を覆すことはできない。クレーム自体によって求められるクレーム解釈、記載事項、および審査経過、特許の記載された記録と明らかに相容れないような専門家証言は、裁判所が割り引いて考慮すべきものである。
事実概要
Kara Technology Incorporated(以下、Kara)は、米国特許第6,505,179号(以下、’179特許)と同第6,735,575号(以下、’575特許)を所有しており、Salim Karaは、唯一の発明者として両特許に記名されている。’179特許は、’575特許の一部継続であり、両特許は、郵便料金などの書類の真正を証明する装置と方法を対象にしており、その技術は、利用者が自宅で、事前に印刷されたラベルの用紙(プレプリントのラベル用紙)を使って、郵便切手や航空券などの証書を印刷することができるようにするものである。プレプリントのラベル用紙に含まれるデータは、正式書面の作成と、後にそれが真正なものであることを示すのに使用される。図1と2は、’179特許と’575特許の双方にあるもので、発明の一つの実施例を示している。
FIG.1の図面参照
FIG.2の図面参照
図1(FIG. 1参照)は、プレプリントのラベル用紙を描いており、バーコード16aとシリアルナンバー16bがある。本件特許は、このプレプリントされた情報のことを「preestablished data(事前設定データ)」として言及している。消費者は、プレプリント用紙に含まれている情報に通信する際、対象のプロセッサは、セキュリティ認証(security indicia)21(図2参照)を出す情報を使用する。そして、消費者は、正式な書面を自宅で印刷することができる。図2に示されたように、正式書面には、プレプリントされた情報とセキュリティ認証の両方がある。販売者(郵便局や航空会社)は、後に、プレプリントされた情報とセキュリティ認証の両方を使って書面が真正かを確認する。
Stamps.com, Inc.(以下、Stamps.com)は、インターネットによる発送業務と郵便サービスを提供している。2000年5月に、Stamps.comは、Karaと共同事業を試み、Karaのパソコンによる郵便技術を行なおうとした。2000年5月9日、二社は秘密保持契約(NDA)を結び、Stamps.comは、「秘密を守り、開示せず、・・また、自らの使用としてその行為範囲のいかなる場合にも、『秘密情報』のいかなるものも、かかる情報が開示されるための目的(例えば、『事業についての話合い』を促進する目的)以外のいかなる目的にも、使用しない」旨、求めている。さらに、そのNDAが特に規定している点として、Stamps.comは、「『秘密情報』を筆写によって、電子的に、または直接写真複写もしくは抜粋または要約することを」Karaから事前の書面による同意なく、行なうことは許されないとしている。
2000年7月には、Stamps.comは、Karaと事業関係を継続することに、もはや関心がない旨、提示した。2001年10月24日、Stamps.comは、米国郵政公社が、そのパソコンによる郵便関連の製品について、ベータテスト(上市前最終チェック)を承認したことを発表した。Pre-V5製品は、2002年7月17日に商用開始され、V5製品は、2005年6月28日に発売された。
Karaは、2004年10月22日、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に、Stamps.comに対する訴えを提起して、侵害と契約違反を主張した。結局、事件はカリフォルニア中部地区に移送されたが、Stamps.comは、特許無効と実施不可能に基づいて反訴請求し、Karaによる契約違反の請求について略式判決を求める申立てを行なった。地裁は、2006年8月23日、略式判決の申立てを認めて、契約違反に関する時効成立を認めた。さらに、仮に時効が成立していないとしてもとしながら、裁判所は、被疑のすべての「秘密」情報は、一般に公開されているものであると認めて、ゆえに、Stamps.comは、Karaとの事業上のやりとりの中で知りえた情報を複製し保有して、NDA違反を行なったことにはなりえないと認めた。
その後、Markmanヒアリングが行なわれ、地裁は、関連する特許用語を解釈して、2007年9月10日、Markman命令が登録された。Stamps.comは、その後、非侵害と無効性に関する略式判決を求める申立てを行なったが、裁判所によって否定された。’575特許のクレーム1、4、5、7、および42の侵害と、クレーム24、27乃至31、36乃至39、42、44、および54は、Stamps.comによる無効性の反訴請求同様に、陪審による事実審理が行なわれた。証拠開示の終了後、Karaは、法律問題としての判決(JMOL)を求める申立てを行ない、Stamps.comによるPre-V5製品は、’575特許のクレーム42と’179特許のクレーム36、38、および42を侵害しているとした。この申立てを拒絶して、裁判所は、陪審に侵害と無効性の争点を提示した。陪審は、Pre-V5もV5もその製品ラインは、被疑クレームを侵害するものはないと認定した。その理由によって、無効性の反訴請求のいかなるものも審理しなかった。
裁判所は、2008年7月16日、判決を登録して、Stamps.comは、勝訴当事者であるとした。それに続いて、Karaは、再度、JMOLを求める申立てを行ない、Stamps.comのPre-V5製品が’575特許のクレーム42と’179特許のクレーム36、38、および42を侵害しているとし、新たな事実審を求める申立てを行ない、Stamps.comが勝訴当事者であるとする7月16日判決の一部に反対する申立てを行ない、Stamps.comによる無効性と実施不可能の反訴請求を斥ける申立てを行なった。2008年9月10日、地裁は、新たな事実審を求める申立てを斥け、JMOLを改めたが、Stamps.comを勝訴当事者とする言及に反対する申立てを認めて、実施不可能に関する反訴請求についてKaraに有利な判決を登録し、無効性の反訴請求に関して確定力のない決定として斥けた。両当事者は、適時、控訴した。連邦巡回区控訴裁判所は、裁判所および裁判手続に関する法律第1295条(a)(1)に基づいて、裁判管轄権を有する。
一部取消し、一部破棄、差戻し
以下、I.P.R.誌23巻12号参照