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2010.01.26
新中国専利法は2009年10月1日に施行されました。この新専利法は3回目となる法改正を受けて成立したものです。ちなみに、最初の中国専利法は1985年4月1日に施行され、第1回改正法は1993年1月1日に、第2回改正法は2001年7月1日に施行されています。以上のように、中国専利法は8年ごとに改正され、現在に至っています。
本改正前までに中国知識産権局(SIPO)にファイルされた特許出願の総数は、80万件に上っておりました。
中国知識産権局では2005年より、これまでの経験を総括し、国際特許システムのトレンドを学ぶことにより、中国専利法第3回改正を進めてまいりました。また、諸外国の関係機関や企業を含む公衆の提言を広く収集してまいりました。
(なお、新専利法は上記のごとく既に施行されていますが、実施条例につきましては未だ発行されておりません)
改正内容
今回の改正点は36項目に及びます。具体的には、7項目の追加、25項目の修正、2項目の統合(2項目とカウント)、1項目の2項目への分割(2項目とカウント)です。
上記改正のうち、重要と思われるポイントを以下に示します。
・特許要件の基準の引き上げ
・秘密保持審査の創設
・遺伝資源の保護に係る規定の追加
・出願人をどのように決定するか、特許権をどのように保護するか、あるいは、どのように行使するか等に関する幾つかの条項の改正
『特許要件の基準の引き上げ』により、特許・実用新案・意匠について、絶対新規性が導入されました。また、意匠につきましては創作性の概念も導入されました。
『秘密保持審査』は、中国で完成した発明又は実用新案であって外国に出願する前のものを対象にした審査を指しています。
『遺伝資源の保護に係る規定』は、文字通り遺伝資源を保護すべく追加されたものです。
その他の項目としては、並行輸入に関する条項の改正、侵害賠償に関する条項の改正、実用新案及び意匠の特許性評価報告に関する条項の改正等が上げられます。
日本の出願人にとって重要なポイント
以下の点が日本の出願人様にとって重要なポイントであると考えます。
I. 絶対新規性について
新中国専利法は、技術的解決法が中国国内または『外国』において公然知られ、あるいは、公然実施され、あるいは、『その他の方式』で公衆に知られた場合には、新規性を喪失する旨、規定しています(新中国専利法第22条をご参照下さい)。
ここで『その他の方式』とは公開出版物以外の方式を指しています。
旧法におきましては、技術的解決法がその出願前に『中国国内』において公然知られ、あるいは、公然実施され、あるいは、その他の方式で公衆に知られた場合に新規性を喪失する旨規定しておりました。しかしながら、新法下では、中国国内のみならず『外国』における公知公用またはその他の方式による公知も、新規性阻却事由となります。
例えば、旧法下では『外国』における公知公用またはその他の方式による公知は新規性阻却事由ではなかったため、出願対象の技術的解決法が外国において公開出版物によらずに発表されたような場合には、新規性喪失の例外等の猶予申請を行う必要はありませんでした(つまり、このようなケースは、新規性を喪失したものと見なされなかったわけです)。しかしながら、新法の下では、同様のケースであっても、6ヶ月以内に新規性喪失の例外規定の適用を受けるための猶予申請を行わなければなりません。
II. 秘密保持審査について
新中国専利法は、中国で完成した発明又は実用新案を外国に出願する場合には、当該発明又は実用新案は秘密保持審査のために中国知識産権局に提示されなければならない旨、規定しています(新中国専利法第20条をご参照下さい)。
例えば、外国企業が所有する発明が中国において完成するといった事は、よくある状況かと思います。具体的には、発明者が中国のスタッフであったり、当該発明が中国国内の研究所や開発センターで完成したりするような状況です。
このような場合、出願人は往々にして最初に中国出願を行い、その後、外国出願を行います。このケースでは、出願人は中国出願の出願時または出願後に秘密保持審査を請求できます。そして、中国知識産権局から承認を得た後、中国出願の優先権とともに外国出願を行うことができます。
一方、当該発明を中国には出願しないけれども、外国には出願したいという状況もあるかと思います。このような場合であっても、将来的に当該発明を中国に出願する可能性があるならば、外国出願前に秘密保持審査を請求しておく必要があります。この場合も、中国知識産権局からの承認を得るまでは外国出願を行ってはなりません。
この秘密保持審査につきましては(将来的に発行される)実施条例にて詳述される予定です。
III. 意匠について
新中国専利法は、特許を付与される意匠は『新規性』ならびに『創作性』を備えていなければならない旨、規定しています(新中国専利法第23条をご参照下さい)。
意匠における『新規性』ならびに『創作性』は、特許や実用新案における新規性ならびに進歩性と類似の概念です。従いまして、本改正により、意匠についても特許要件の基準が引き上げられたと言えます。
とはいえ、意匠につきましては未だに実体審査がございませんので、今回の『新規性』『創作性』導入の影響は、今後おもに特許性評価報告や無効手続きに現れてくるものと思われます。
さらに、新中国専利法は、出願人は複数(10を超えてはならない)の類似意匠を一つの出願にできる旨、規定しています(新中国専利法第31条をご参照下さい)。
上記の制度を利用した場合、委託費用(代理人費用)は減少するでしょう。複数の類似意匠を包含する出願は一出願とはいえ、より多くの説明や図面を必要とします。ですから、単純な一出願よりも費用がかかることはご理解いただけるかと思います。ただし、それは費用の激増を意味しません。全体的に見れば、この改正により出願人様のご負担は軽減されることになるでしょう。
IV. 並行輸入について
新中国専利法では、並行輸入が認められています(新中国専利法第69条をご参照下さい)。
特許製品又は特許方法により直接得られる製品が特許権者またはその許諾を得た組織又は個人に販売された後に輸入される場合には、特許権の侵害とは見なされません。
この並行輸入につきましては、いかなる契約もこれを制限することはできません。例えば、売買契約等において特許製品の販売ならびに使用を日本に限定した場合や、このような制約事項を当該特許製品の本体に印字したような場合であっても、誰かが当該特許製品を日本で購入し、その後中国に輸入した場合には、この輸入行為は特許権の侵害とは見なされません。端的に言えば、中国専利法第69条における『侵害の例外』には、契約による制限が及ばないのです。
中国知識産権局の職員は、中国におけるこの規定はドイツのそれに近いものであると述べています。
V. 同一の発明創造について
中国専利法第9条によれば、同一の発明創造には1つの特許権のみが付与されることとなっています。もしも複数の出願人が同一の発明創造について出願した場合には、最先の出願に特許権が付与されます。
ただし、中国知識産権局は、これの例外規定も設けています。すなわち、同一の出願人が同日に同一の発明創造について実用新案と発明特許を出願する場合、先に取得した実用新案特許権が消滅しておらず、かつ、出願人が当該実用新案特許権を放棄するという意思表明を行えば、発明特許権を付与することができる旨、規定しています。この規定は、出願人様にとって有益なものであると考えます。実用新案特許権は発明特許権よりも早く付与されますので、同一の発明創造について実用新案と発明特許を出願していた場合には実用新案特許権を早期に行使することができます。さらに、審査を経て発明特許が認可状態になった段階で実用新案特許権を放棄すれば発明特許権を取得できますので、より安定した特許権を取得することができます。また、実用新案特許権から発明特許権への乗り換えも途切れなくスムーズに行うことができます。
最後に、新中国専利法第22条においては『同一発明又は実用新案がいかなる組織又は個人によっても出願日前に出願されていないこと』が新規性の要件のひとつとされています。旧法と新法の差異は、旧法において『他人により』とされていたものが『いかなる組織又は個人』に変更されている点です。つまり、同一出願人であっても、抵触出願による自己衝突に注意が必要です。
(記事担当: 特許部 石川)
NGB・特許部では、各国の法改正や重要判例による情勢の変化などに即応すべく、今後も継続的に情報発信させていただく事を予定しております。