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2010.03.25
2010年4月1日からヨーロッパ特許条約(EPC)におけるいくつかの規則が改正されます。もっとも重要な改正ポイントとなる新しい分割出願のための時期的要件を中心に内容を簡潔に説明させて頂きます。どうぞ宜しくお願いします。
1.分割出願に対する新しい時期的要件
○ 自発的な分割出願は、以下で説明する自発 分割期間(a)若しくは経過措置期間中に提出しなければなりません。保持しているEPC出願を調査し、分割出願の要否を確認することを推奨します。特に経過措置期間が自発的な分割出願の期限となりそうな案件に関しては、経過措置期間終了(2010年10月1日)のある程度前(例えば2010年8月1日)までには要否確認を終わらせた方が良いと思います。
○ 最近出願した案件や将来出願する案件に関しては、第1回審査報告書(例えば第1回EPO指令書)受領の際しっかりと要否検討するのが重要です。
従来のEPC出願において、分割出願を可能とする時期的要件は親出願が係属中であるというものでした。言い換えると、親出願の特許登録又は拒絶査定までは分割出願は可能でした。しかし新EPC規則によって更なる時期的要件が追加されます。それは出願が係属中であるという要件に加え、期間(a)又は(b)の少なくとも一方が満了していないことです。
期間(a) -通称-自発分割期間 (Rule36(1)(a))
自発的な分割出願を行なうための期間(a)は、ヨーロッパ特許庁審査部から出される最初の通知書から24ヶ月間です。この通知は(通常)第1回審査報告書又は認可通知書(Rule71(3))です。尚、EESR(拡張欧州サーチレポート)はヨーロッパ特許庁審査部により発行されていないため、自発分割期間のトリガーにはなりません。
期間(b) –通称-指令分割期間 (Rule 36(1)(b))
期間(b)は「単一性欠如」の拒絶を受けた場合のもので、審査部が「単一性欠如」を指摘した最初の通知から24ヶ月間です。この期間(b)は審査過程の遅い段階において初めて「単一性欠如」が指摘された場合や、分割出願提出後その分割出願自身において初めて「単一性欠如」が指摘された場合などです。
下図は新EPC規則による自発分割期間(a)及び指令分割期間(b)を例示しています。この図は分割出願(下線)が親出願(上線)から分割されたケースを示し、分割出願が可能な期間を太い実線、それ以外の期間を細い点線で表しています。
尚、この新規則は2010年4月1日から施行されますが、期間(a)及び(b)にかかわらず、少なくとも経過措置期間中(2010年10月1日まで)は分割出願をすることが出来ます。
2 サーチレポートに対する応答義務
○ ヨーロッパ特許庁にて国際調査を行なったPCT出願に関しては、少なくとも欧州段階移行時に応答準備を開始することを推奨します。また完全な応答が出来そうにない場合は期限を確保するために形式的な応答を提出するのが良いと思います。
すべてのEPC出願において、2010年4月1日以降に発行されるサーチレポート(EESR/補充調査)に対し、サーチレポートの結果がネガティブな場合には期限内での応答義務が課せられます。期限内に応答しない場合は出願が取り下げされたものと見なされます。その期限は6ヶ月です。
また、ヨーロッパ特許庁が国際調査を行なったPCT出願におけるサーチレポート(ISR)に対しても、サーチレポートの結果がネガティブな場合には応答義務が課せられます。期限は更に短く、具体的には欧州段階移行後ヨーロッパ特許庁から送達されるEPC規則161通知が発行されますが、この指令の応答期限は1ヶ月になります。EPC規則161通知は欧州段階移行手続き後1-2ヶ月程度で送達されます。従って上記のように、十分な応答ができるように少なくとも欧州段階移行時に応答準備を開始することを推奨します。
尚補足になりますが、自発補正の期限も上記サーチレポートの応答期限まで(ヨーロッパ特許庁にて国際調査を行なったPCT出願に関しては、EPC規則161通知への応答まで)となります。その後審査官の同意無しに自発補正は行なえなくなります。
3 同一カテゴリ内の1独立クレームのサーチ
○ EPC出願もしくは欧州段階移行時クレームをしっかりと見直すことが大事になります。この際、同一カテゴリに複数の独立クレームが存在する場合は択一的な表現を使って1つの独立クレームを作成することが一つのオプションと思います。
現在でも、同一カテゴリ(生産物、方法、装置又は用途)内の複数の独立クレームは原則ヨーロッパ特許庁により認められていませんが、2010年4月1日以降にサーチレポートが作成される案件は、サーチ着手前にヨーロッパ特許庁から補正命令が出され、同一カテゴリ内の複数独立クレームから1つの独立クレームを選択することが求められます。(Rule 62a)
そして選択されたクレームに対してのみサーチが行われ、サーチ対象外となった主題に関する審査については分割出願を必要とします。尚、同一カテゴリの複数独立クレームの例外が認められた場合(Rule 43(2))は、複数の独立クレームに対してサーチが行なわれます。(Rule43)
4 その他
詳細には触れませんが、他にも下記のようないくつかのポイントがあります。
– 2010年4月1日以降にサーチレポートが作成されるケースにおいて、審査官が調査に着手できない場合、サーチ着手前に発明の主題について書面を持ってそれを明確にすべく指令が出されます。(Rule 63)
– EPC 2010年4月1日以降、出願人は補正の明細書中における根拠を特定する義務が生じます。(Rule 137(4))
詳細は2010年度EPO審査ガイドラインドラフトをご参照下さい。
http://www.epo.org/patents/law/legal-texts/guidelines-2010
最後に
今回のEPC規則改正は残念ながら少なからず出願人の負荷を増大させるものです。しかしながら、近年の審査手続きを簡略化し費用効率を高くするトレンド(ロンドン協定等)を考慮するならば、この負担増はそれほど深刻なものではないと思います。
(担当 特許部 渡邊)
NGB・特許部ではEP規則改正に併せ、ご依頼頂いているEPC案件の確実な期限管理など鋭意改良を進めております。外国特許出願もNGBにお任せ下さい!