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2011.02.21

【Cases & Trends】追跡 マーキングトロール訴訟 – 訴訟洪水の門戸を開いたForest Group判決後の展開(後編)

 前編ではForest Group判決後の訴訟・判例動向や、多くの「マーキングトロール」の正体である特許弁護士達の動きについてご紹介しました。後編では、この問題に対する連邦議会の対応、訴訟における和解の実態、企業としての対応策などについてご紹介します。
[2010年特許訴訟件数]
 議会トピックの前に、前編配信後に明らかになった昨年の米国特許訴訟件数の正確な数字についてお知らせしておきます。紹介されていたのは、米ミズーリ大ロースクールのDennis Crouch助教授が運営する人気特許法ブログ Patently-O です(“Patent Suit Filings for 2010 Show a Slight Rise” Jan. 28, 2011 *この記事ではヒューストン大学法学センターが発表したものを紹介している)。それによると、米国特許訴訟の総(提訴)件数は、2009年の2,744件に対し、2010年は3,605件。861件の増加です。特許訴訟件数は2004年の3,075件をピークにその後は2,000件代を維持し、横ばい状態が続いていました。それが2010年に入り861件の急増とは、一体何が起こったのか……。まさに「マーキングトロール訴訟」が起こったのです。2010年に提起された虚偽表示訴訟の件数は752件、増加の9割近くがマーキングトロールによるものでした。

[議会対応]
 マーキングトロール問題が発生した2009年~2010年を会期とする米議会第111議会では、特許法第292条を改正してマーキングトロールによる濫訴を防止すべく、以下の法案が提出されていました(いずれも時間切れ廃案)。
・下院法案:
H.R. 4954 – 原告適格要件を厳しくし、現行法の「何人も」から、虚偽表示の結果「競争上の損害」を現実に被った者に限定する。また、罰金額の計算を、「かかる損害を補填するのに十分な」額とする。
H.R. 6352 – H.R. 4954と同様の内容であるが、さらに罰金額の上限を「虚偽表示の付された物品に関するすべての違法行為に対し、最高500ドルの単一の罰金」に限定する。
・上院法案:
S.515 – H.R. 4954と同様の内容。

現112議会(2011年~2012年)に提出されている法案
・下院法案:
H.R. 243 – 「2011年特許訴訟改革法」
本年1月7日提出。法案提出者は、前議会でH.R.6352を提出したロバート・ラッタ下院議員。内容もH.R.6352と同じ。
・上院法案:
S.23 – 「2011年特許改革法案」
「米国の先願主義移行」を含むお馴染みの包括法案。この中に(第2条(k))虚偽表示関連規定が含まれており、原告適格要件を次のように2種類に分けている: (1)一件の虚偽表示行為につき500ドルの罰金を科すための訴訟は合衆国政府のみ可能(競争上の損害を証明する必要なし)、(2)虚偽表示により競争上の損害を被った何人も、「かかる損害を補填するのに十分な賠償」を得るために訴訟を提起することができる。
* いずれの法案も、法制定時に係属中の訴訟にも適用されることを明記。

[和解をめぐる事実 – 和解額の相場は?]
 マーキングトロール(被告特許権者と競合関係にない原告、と定義しておきます)による訴訟の多くは早期の和解金獲得と見られていますが、一体いくらで和解しているのか。気になるところですが、通常は私人間の和解額について情報を引き出すことは困難です。しかし、皆様も既にご存知の通り、特許法第292条の訴訟は、私人が政府を代理して訴追することが可能な訴訟(qui tam action)であり、罰金は原告と政府が折半することになります。

 そこで、和解に関する額、日付、事件などの情報を連邦情報公開法(Freedom of Information Act)に基づき、政府に請求した法律事務所があります(Farella Braun & Martel LLP法律事務所、12/22/2010, “Exposure And Settlement Value In False Marking Claims”と題して法律専門サイトLaw 360.comで紹介)。同事務所が合衆国政府司法省から入手したリストによると、2010年5月から同年11月9日(情報公開請求に対する回答日)までに政府が292条事件における和解額として受領したのは1,703,237.11ドル(すなわち和解総額は倍の3,406,474.22ドル)。このリストの和解事例は57件であり、1件当たり和解額平均は59,762.21ドルであり、最高額は350,000ドル、最低額は2,500ドルとのことです。

[企業としての対応策]
 これまで見てきたように、裁判所は虚偽表示責任を認定するに当たり、「公衆を欺く意思」の立証ハードルをかなり高くして、マーキングトロールの濫訴に対応しているようです。しかし、公衆を欺く意思について明確な基準やガイドラインが示されているわけではないので、現実的には、訴えられれば「意思の欠如」を主張して論争せざるを得ず、争い自体を未然に防ぐことはできません。先にあげたような法改正が成立するのが一番だと思いますが、成立にはかなりの時間を要することが予想されます(まして、上院法案S.23のように特許改革法案に組み込まれては、いつ「日の目を見る」ことになるやらわかりません)。

 ストレートな対策としては、正確な特許表示の管理負担や訴訟リスクを勘案し、表示自体を付さないということも挙げられます。現に前編で紹介したSolo Cup事件のように、金型で特許番号を付すような物品の場合、過去分の損害賠償請求権の喪失を考慮したうえでなお、特許表示を付さないという企業も少なくないようです。

 しかし、過去の損害賠償請求権を確保することのみならず、特許を取得した以上、その技術優位性を特許表示によりアピールしたいという権利者も当然数多く存在します。そのような権利者にとっては、特に昨今のマーキングトロール訴訟を踏まえた虚偽表示リスクを最小限にしつつ、自社技術の優位性を消費者/取引先にアピールするための広範な特許表示ポリシーを策定・実行することが求められています。 今後は、特許対象品、パッケージのみならず、ブローシャー、ウェブサイトなど、様々なメディアにおける特許表示とその管理を含む、広範な技術優位性アピールの手法がますます重要になってくるのだと思います。具体的な手法については、さらに情報収集・考察を重ねた上で、別の機会に紹介させていただきたいと思います。

(渉外部/事業開発室 飯野)

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