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2011.03.15
争点クレームが先行技術に照らして自明であるかの審理は法律問題として行ない、内在する事実認定を根拠とする。事実認定について、陪審の判断を実質的な証拠として審理する際、内在する事実についての審理対象は、(1)先行技術の範囲と内容、(2)先行技術と争点クレームとの相違点、(3)当業者の技術レベル、および(4)商業的成功、長年感じている未解決のニーズ、他人の不出来などの関連する二次的考慮が挙げられる。自明性の決定は、事件の事実関係についての考慮と別個に存在する厳格な定式に当てはめて行うものではない。自明とされる組み合わせがある一方で、なぜ、別の組み合わせは自明とみなされないのかについては、当業者の一般常識によって証明される。
本件の争点は、当業者の技術レベルや争点特許のクレーム範囲ではなく、先行技術がクレーム対象の具体的な要素を教示していたか、それらの要素を先行技術のシステムと組み合わせる動機が存在したか、二次的考慮が非自明性の認定を支持しているかに関している。
先行技術がファクシミリ機器を採用したのに対して、電子取引装置の使用を取り込むことは、そのような取引が当業者にとって一般的である時代においては特許の対象とならない改良であると認められている。データベースから情報を抽出するために電子取引装置を使用するなどの限定要素は、新技術を既存のシステムに応用するプロセスの一環として行われるお決まりの修正であり、ファクシミリ機器をデータベースに接続可能な電子取引装置と置き換える当業者であれば、必然的にデータベースから取引の詳細情報を抽出する方法を知っていたはずである以上、発明当時に当業者にとって自明なことであったと結論づけられる。また、関連特許で使用されているシステムをネットワーク化するにあたり、インターネット通信、TCP/IPプロトコルを使用することも、他の自明な要素に追加することであり、努力分野に対し何らの新規事項も追加するものではないと認められる。
事実概要
Western Union Company(以下、Western Union)が有する米国特許第6,488,203号(以下、’203特許)、同第6,502,747号(以下、’747特)、同第6,761,309号(以下、’309 特許)、および同第7,070,094号(以下、’094特許)は、送金実行に関するシステムを対象としている。’203特許、’747特許、および’309特許(併せて「送金特許」)は、特に、金融サービス機関(FSI)を通じて送金する方法に関している。’094特許は、送金を受領する方法をクレームしている。特許されたシステムは、送金サービスに関しており、Western Unionが提供するサービスは販売地を経由して行なわれるが、その場において顧客は、受領者を指定し、受領者に送金額を決済することができる。その送金サービスは、販売地から総額を集計し、顧客のために送金実行を完了する。従来の送金システムは、送金者が書式に、受領者情報や送金額といった処理情報の記入を要求していた。’203特許がクレームする方法は、書式不要の送金を実行するものであって、電子取引決済装置(ETFD)を使用する。’203特許の図1は、当該特許システムの実施例を示している。
本件特許システムにおいては、顧客が有する電話回線は金融機関の顧客サービス係(以下、CSR)に接続されており、そこに送金の詳細が渡され、顧客に対して送金段階を提示して、取引詳細はホストコンピュータ(18)に保存される。顧客としては、事後に販売地における取引を完了させることができるのであって、係は、取引情報をコンピュータ(18)からETFD(22)を経由して入手でき、必要額を顧客から受け取ることになる。クレーム1が本件特許発明を代表する。クレーム12は、クレーム1に従属しており、送金業務の従業者が取引特定コードを提示するという限定事項を追加している。クレーム16も、クレーム1に従属しており、追加している限定事項は、送金者からの金額集計、集計に関するデータベースへの通知、さらに取引完了の記録である。’203特許は、出願日が1999年10月26日であり、発行日は、2002年12月3日である。’747特許も出願は1999年であって、’309特許の出願は2004年であり、双方とも、’203特許の継続出願である。’309特許のクレーム範囲は、’203特許のものに類似しており、実質的に同一である。’747特許が主に追加している点は、インターネットによる通信の利用であって、インターネット・コミュニケーション・プロトコル(以下、TCP/IPプロトコル)を利用した送金システムへの通信であり、さらに、’203特許において利用されている「データベース」の代わりに、「第一コンピュータ」の利用をクレームしている。’747特許と’309特許の審査中、発明者はターミナル・ディスクレーマを提出して、それらの存続期間を限定することによって、’203特許の期間と調整しUSPTOによるダブルパテントの拒絶に応答した。
本件特許同様、Orlandi Valutaという別の送金サービス会社が有する先行技術のシステムも、その導入技術は、顧客が書式による送金を要求しない。以下の図は、Orlandi Valutaの資料にある「Red Phone」システムである。
Orlandi ValutaによるRed Phone技術の利用は、早くも1997年のことであって、その方式は、顧客が電話を利用して、Orlandi ValutaのCSRと取引を開始することになっていた。電話は、顧客が典型的に利用するタイプとしては、赤い色のものであって、小売店で利用でき自働的にカリフォルニア州ロスアンジェルスに所在するOrlandi ValutaのCSRに接続されるものであった。CSRが、顧客から受け取った情報をOrlandi Valutaのコンピュータシステムに入力すると、そのシステムは、顧客の販売地かまたは顧客が指定した場所に伝票をファックス送信する。Orlandi Valutaの顧客は、取引の確認番号を受け取ることはなく、ただ単に販売地において待機するよう求められるだけである。ファクスの受領によって、販売地の係は、顧客の名前を呼び出すと、その係に指定金額を決済できることになっていた。Western Unionは1997年にOrlandi Valutaを吸収したが、それは、書式不要の送金システムを開発した直後のことであった。
争点特許がクレームしている点は、Orlandi Valutaシステムの欠点を解決することである。発明者であるEarney SoutenburgとDean Seifertの双方は、Western Unionの従業員であり、Orlandi Valuta技術グループの責任者として、Western Unionによる吸収後もその職にあった。本件特許システムは、後にWestern Unionにより「Yellow Phone」システムとして商業化されるものであるが、その開発前に、彼ら発明者は、Orlandi Valutaの書式不要送金システムを評価して、Western Unionが、さらに多くの送金処理量を支えるためのより巨大な規模において実用化できるかを判断する目的とした。発明者によるクレームは、Orlandi ValutaシステムがWestern Unionにとって、書式不要に関する実行可能なオプションではないとした。
MoneyGram Payment Systems, Inc.(以下、MoneyGram)も送金サービス会社であって、Western Unionの直接的な競業者であり、その「FormFree」送金システムを2000年に開発し展開した。本件特許システム同様、MoneyGramシステムは顧客に確認番号を提示するが、顧客から販売店の係に提示されると、先に依頼された取引を完了させる。この確認番号は、依頼された送金額などのその他の情報とともに確認ファイル・データベースに保存される。2003年9月、MoneyGramが本件争点特許を知ることとなったとき、それらの特許クレームに関する侵害を回避するための次善策を展開した。再構築されたシステムは、進行中の取引について、確認ファイル・データベースに送信されるべき要求金額をもはや保存しないこととした。その代りに、顧客は、その情報を販売地の窓口に再度提示するよう求められ、そこで顧客は、入金して取引を完了させる。MoneyGramは、外部の代理人から、Western Union特許に関連して再構築されたそのシステムに関して、非侵害の公式鑑定書を取得した。
2007年5月、Western Unionは、本件訴訟をテキサス西部地区連邦地方裁判所に提起した。最終的に主張した侵害の対象特許クレームは、’203特許のクレーム1, 12, 16,および21、’747特許のクレーム20、’309特許のクレーム12および22、’094特許のクレーム2である。2008年12月、地裁は、4特許の争点クレームすべてを解釈した。Western Union Co. v. MoneyGram Int’l, Inc.事件(No. 1:07-cv-00372, 2008 WL 5731946 (W.D. Tex. Nov. 6, 2008))参照。2009年8月、地裁は、略式判決によって、MoneyGramによる再構築システムは、’094特許に関する主張クレームを侵害していないと認めた。Western Union Co. v. MoneyGram Int’l., Inc.事件(No. 1:07-cv-00372, Dkt. No. 353 (W.D. Tex. Aug. 21, 2009))参照。
事件は、2009年9月、事実審として陪審に付された。事実審において、Western Unionは、MoneyGramによる再構築システムに関して、’309特許の当該クレームと’203特許のクレーム21に関する被疑侵害請求を取り下げた。事実審に続いて、陪審は、MoneyGramの再構築システムが、’203特許のクレーム1, 12, および16、’747特許のクレーム20に関して均等論の法理によって、侵害していると認めた。その認定によると、MoneyGramの回避設計システム以前のものは、同一クレームについて、Western Unionが先のMoneyGramシステムに対してのみ主張したその他のクレーム同様、文言侵害となっているとした。すなわち、’203特許のクレーム21、’309特許のクレーム12と22である。先のシステムのみに対して主張された’094特許のクレーム2に関しても、陪審は、均等論の法理に基づく侵害を認定した。陪審は、主張特許クレームがOrlandi Valutaの先行技術システムに照らして自明であるというMoneyGramによる主張を拒絶した。陪審は、Western Unionに合理的なロイヤルティ損害として、総額16,529,501.81ドルを認めた。
事実審に続いて、MoneyGramは、Orlandi Valutaシステムを根拠とする主張特許クレームの自明性と、主張特許クレームの非侵害に関する、その法律問題としての判決を求める申立(JMOL)を補正した。Western Unionは、’747特許の文言侵害に関するそのJMOLを補正した。裁判所は、すべてのJMOLを拒絶した。MoneyGramによる自明性に関するJMOLの申立てを判断する際、裁判所は、MoneyGramが当該争点に関する自らの主張を放棄したと認定した。それにもかかわらず、裁判所は、MoneyGramに有利にその申立ての評価を進めて、陪審が法律的に十分な証拠の根拠をもって主張クレームが非自明であるとの結論に至ったと判断した。特に、Orlandi Valutaの先行技術システムは、裁判所認定によると、販売地にETFD端末を導入しておらず、コードを使用していない。裁判所は、当該技術の通常の技能を有する者にとって、Orlandi Valutaシステムに存在するこれら二つの要素を組み合わせるということが、自明ではないであろうと結論づけた。さらに、裁判所判断は、商業上の成功や、Orlandi Valutaシステムよりよいシステム構築に両当事者が行なった投資といった二次的考慮は、自明性認定に対して不利に衡量されるとした。ゆえに、地裁は、MoneyGramによるJMOLの申立てを拒絶した。最後に、裁判所は、MoneyGramに対する終局的差止命令を認めた。MoneyGramは、’203特許、’747特許、および’309特許に関するクレーム解釈、侵害、および無効性の裁判所判断について控訴した。Western Unionは、’747特許の文言侵害に関するJMOL申立ての裁判所拒絶に対して交差控訴した。
連邦巡回区控訴裁判所は、裁判所および裁判手続に関する法律第1295条(a)(1)に基づいて、裁判管轄権を有する。尚、Western Unionによる交差控訴は、不当であるとして却下された。
破棄
判旨
当裁判所はまず、自明性に基づく法律問題としての判決を求めるMoney-Gramの申立を斥けた地裁の判断から審理を始める。
以下、I.P.R.誌第25巻2号参照