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2011.03.31

■特許/第281条/排他的ライセンシーの当事者適格とサブライセンス権保持者の存在

(WiAV Solutions LLC v. Motorola, Inc., et al., CAFC, 12/22/10)

 合衆国憲法第III章第2条は、連邦裁判所の管轄権に関して「事件性」または「係争性」によって限定しており、憲法上の当事者適格の法理は、紛争がこの広範なカテゴリーに該当して連邦裁判所で解決することができるのかを特定するのに資するものである。憲法上の当事者適格を証明しようとするならば、訴えようとする権利侵害等の行為により、「事実上の損害」を被ったこと、勝訴判決が得られれば当該損害が救済されることを示すよう求められる。訴えの根拠として適切に示されている制定法上の定めが、原告に対し司法上の救済を受ける権利を与える法源であり、1952年特許法こそが本件で争点となっている法律上保護される法益に関する法源である。
 特許法第281条にいう訴訟提起に関する権原を有する「特許権者」という用語には、特許の所有者のほかに、同第100条(d)により、当該特許上のあらゆる実質的権利を譲渡された譲受人も含まれ、その上、当該特許に対し特許法により保護される利益を有しており、侵害行為により法律上の損害を被ると言えるのであれば、その者は特許侵害を主張して訴訟を提起する権利を有する以上、そのような者を一般に「排他的ライセンシー」という。また、特許に伴う何らかの排他権を有するライセンシーは、当該特許の排他的ライセンシーということができ、当該ライセンスが許諾当時に存在していた権利にのみならず、被疑侵害者以外の者に対してのみ許諾される将来のライセンスにも服するという条件により、許諾された特許に基づく自己の権利を主張する憲法上の当事者適格を欠くことにはならない。他人が特許を実施するのを排除する権利を排他的ライセンシーが有する場合において、被疑侵害者がそれらの権利のライセンスを所有しておらず、他人から取得することも不可能であるならば、排他的ライセンシーの排他権は侵害されるから、憲法上の当事者適格に関する抗弁の根拠とする損害の要件は充たされる。
 本件被告に対する争点特許の侵害を原告が主張する当事者適格を有するか否かを決定するには、本件被告が主張するようなサードパーティを含むすべての他人による特許実施を排除する権利を有することについて原告自身が証明している否かではなく、本件被告が侵害とされる行為に従事することを当該特許に基づき排除する権利を有すること、すなわち、その権利が本件被告の行為により損なわれたことを原告が示している否かであり、原告はこの基準を充たしているものと認められる。

事実概要
 WiAV Solutions LLC(以下、WiAV)は、米国特許第6,539,205号(以下、’205特許および同第6,680,920号(以下、’920特許)の所有者であって、その上、排他的ライセンシーとして、Mindspeed Technologies, Inc.(以下、Mindspeed)が所有する以下7件の特許に関する特定の分野を使用することを許諾されている。当該特許は、米国特許第6,104,992号、同第6,256,606号、同第6,385,573号(以下、’573特許)、同第6,507,814号、同第6,633,841号、同第7,120,578号、および同第7,266,493号(以下、’493特許)であり、Mindspeed特許と総称される。 WiAVは、これら9件すべてに関する特許侵害を主張して、以下の社を被告として訴訟を提起した。すなわち、Motorola, Inc.、Nokia Corporation、Nokia Inc.、Palm, Inc.、Sony Ericsson Mobile Communications (USA), Inc.、Personal Communications Devices LLC、Personal Communications Devices Holdings, LLC、UTStarcom, Inc.(以上、本件被告と総称)、さらに、Sony Ericsson Mobile Communications ABである。上記本件被告の申立てにより、バージニア東部地区連邦地方裁判所は、Mindspeed特許に関するWiAVによる訴状のカウントに関して、憲法上の当事者適格を欠いているとして斥けた。WiAV Solutions LLC v. Motorola, Inc.事件(679 F. Supp. 2d 639 (E.D. Va. 2009))参照。地裁は、WiAVが本件被告に対してMindspeed特許に関する主張を行なう憲法上の当事者適格を欠いていると結論づけた理由は、何社かのサードパーティが、WiAVの主張する排他的な使用分野においては、当該特許をライセンス許諾する限定的な権利を有するからであるとした。
A. Mindspeed特許
 Mindspeed特許の関連分野は信号の伝送であり、データのコード化と復号化に関している。本件紛争の中心となるところは、6社のサードパーティによって保持されるMindspeed特許に関するライセンスがらみの権利関係であって、Conexant Systems, Inc.(以下、Conexant)、Rockwell Science Center, LLC(以下、Rockwell Science Center)、Skyworks Solutions, Inc.(以下、Skyworks)、Qualcomm Incorporated(以下、Qualcomm)、Mindspeed、およびSipro Lab Telecom(以下、Sipro)に関している。権利関係の由来するところは、一連の派生しているライセンス契約であって、1990年代に遡る。これらの関係について、WiAVに対してMindspeed特許の排他的ライセンスを与えた経緯とともに、以下に要約する。

(中略)

B. 地裁審理の経緯
 2009年7月にWiAVが提出した訴状に主張されていることは、本件被告とSony Ericsson Mobile Communications ABが、’205特許と’920特許を侵害する無線通信装置を製造販売しており、WiAVが示唆するところによると、無線携帯電話機の分野におけるMindspeed特許を実施する排他的な権利も同様に侵害しているというものである。万全を期して当事者適格を満足させるために、訴状においても、Mindspeedの呼称について、Mindspeed特許の「特許所有者である被告」としている。本件被告は、彼らがMindspeed特許を侵害したと主張している訴状カウント(1乃至14)を斥けるよう申し立て、WiAVはMindspeed特許について主張する憲法上の当事者適格を欠いていると論じ、WiAVは当該特許の排他的ライセンシーではないとの理由を示している。本件被告は、Textile Productions, Inc. v. Mead Corp.事件(134 F.3d 1481 (Fed. Cir. 1998))における連邦巡回区控訴裁判所の判断を挙げており、一当事者が、ある特許の排他的ライセンシーではあり得ない場合があり、それは、あるサードパーティがその特許のライセンス許諾権を有する場合であるとした判断に関してである。本件被告は、WiAVがMindspeed特許の排他的ライセンシーではないのであって、本件の6社、Rockwell Science Center、Conexant、Skyworks、Mindspeed、Qualcomm、およびSiproの各社は、無線携帯電話機の分野における上記特許に関するライセンスを供与する権利を有すると主張した。
 地裁は、本件被告の申立てを認めた。裁判所は、連邦巡回区の先例によると、一当事者のライセンスが、既に存在し他人により保持されていた非排他的ライセンスに基づくものであるにもかかわらず、その当事者がある特許の排他的なライセンシーになりうることを認識していた。しかしながら、裁判所は、どのような場合にこの「新しい法律原則」を見なすよう認めるかについて控えた。この原則は、ある供与者がサブライセンスを許諾する限定的な権利を保持する場合に、排他権を破らないというものである。地裁は、連邦巡回区によるTextile Productions事件判決による本件被告に同意した。同事件においては、一当事者が、ある特許の排他的ライセンシーではあり得ない場合として、その他の当事者がその特許に基づくサブライセンスを供与する権利を有する場合であるとし、それらのサブライセンス許諾権が子会社および関連会社に限定されている場合であっても、そのように認められるとした。裁判所は、少なくともRockwell Science Center、Conex-ant、Mindspeed、およびQualcommの各社は、無線携帯電話機の分野におけるMindspeed特許をライセンス許諾する限定的な権利を保持していると結論づけたことにより、WiAVは、当該特許の排他的ライセンシーではなく、ゆえに憲法上の当事者適格を欠くと裁判所は判断した。地裁は、SkyworksとSiproによって保持されるライセンス許諾権は、WiAVの立場をさらに弱めていると説示したが、それらの権利が、単独にかまたは他社と共同して、WiAVから憲法上の当事者適格を取り上げるのに十分であるかを判断していない。WiAVの請求によって、地裁は、Mindspeed特許に関するその判決を連邦民事訴訟規則第54条(b)に基づいて証明した。WiAV Solutions LLC v. Motorola, Inc.事件(No. 3:09cv447, 2010 U.S. Dist. LEXIS 21508 (E.D. Va. Mar. 8, 2010))参照。WiAVは、適時、この判決に対して控訴した。
 連邦巡回区控訴裁判所は、裁判所および裁判手続に関する法律第1295条(a)(1)に基づいて、裁判管轄権を有する。

破棄、差戻し

判旨
 本控訴により提起されている唯一の争点は、WiAVが本件被告に対してMindspeed特許の権利侵害を主張する憲法上の当事者適格を有しているか否かである。この点は法律問題であり、当裁判所は、連邦巡回区先例を適用して新たにこの問題を審理する。Prima Tek II, L.L.C. v. A-Roo Co.事件(222 F.3d 1372, 1376 (Fed. Cir. 2000))参照。
 WiAVは控訴において、地裁が本件被告の強い要請を受け、Textile Productions事件判決に基づいて新しい法律上の規則を作り出したと主張する。WiAVによれば、Textile Productions事件判決は、争点となっているサードパーティライセンス権の種類について言及しておらず、ましてや、そのような権利の存在により誰かが特許の排他的ライセンシーとなることが妨げられるとは判示していない。WiAVの主張は、WiAVの所有する特許上の排他的権利を有する者が憲法上の当事者適格を欠くと当裁判所が結論づけたことは、たとえ当該権利が従前の非排他的ライセンスの対象であったとしても、一度もないというものである。WiAVは、当裁判所の先例に従うならば、特許において何らかの免責・排除を受ける権利を有している者がいれば、その者は排他的ライセンシーであり、よって、特許の権利侵害を主張する憲法上の当事者適格を有すると主張する。

以下、I.P.R.誌第25巻3号参照

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