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2011.06.17
しかし、今回ばかりは言い訳のできない大きな動きが、「これでもか」とばかりに押し寄せてきました。標題の通り、いずれも実務戦略上、重要な判決のオンパレードです。それぞれの概要、意義、今後への影響など、筆者もまだまだ咀嚼できておりませんが、あくまで「速報」を旨として、とり急ぎご紹介いたします。
2011年5月~6月 米特許重要判決一覧
1) 5/25判決 CAFC大法廷 Therasense Inc. v. Becton, Dickinson & Co.
争点:
情報開示義務違反/不公正行為(inequitable conduct)判断基準
判決:
6対5 下級審判決(カリフォルニア北部地区連邦地裁)を破棄差し戻し。
不公正行為判断基準(欺く意思、不開示情報の重要性)を厳格化 ― 意思要件においては、出願人が当該先行技術の存在、その重要性を認識した上で、それを隠す決定をしたという「具体的意思」を必要とし、重要性要件においては、その先行技術を特許庁が知っていれば特許を認可していなかったであろうという “but for materiality”基準を採用。
さらに、欺く意思のレベルが低くとも、開示しなかった先行技術の重要性が高ければ、両者の「併せ技」で不公正行為を認定する方式を廃止。両要件はそれぞれ独立した要件とする。
*pro-/anti- ?:
プロパテント的判決
2) 5/31 判決 連邦最高裁 Global-Tech Appliance Inc. v. SEB S.A.
争点:
侵害教唆における認識要件(knowledge requirement)判断基準
判決:
8対1 被告(香港メーカー)の行為を侵害教唆とするCAFC判決を支持するものの、被告による侵害教唆意思の判断基準として用いた「故意の無関心(deliberate indifference」(直接的に問題特許の存在を知らなかったとしても、あえて知ろうとしなかったのは認識していたのと同じ)を否定。用いられるべき基準は「意図的な盲目(willful blindness)」であると判示。
「意図的な盲目」基準とは、連邦刑事法において採用されている基準であり、自らの行為が違法行為を引き起こすことを見ないようにする積極的行為を要件とする。
*pro-/anti- ?:
アンチパテント的判決 (しかし、「プロ・イノベーション」的判決?)
3) 6/6 判決 連邦最高裁 Stanford Junior Univ. v. Roche Molecular Systems, Inc.
争点:
Bayh-Dole法に基づく発明の権利帰属
判決:
7対2 連邦政府資金による研究の成果(発明)は自動的に大学に帰属するわけではない。発明者(大学研究者)が大学側と締結した“agree to assign”という契約よりも、企業と締結した“hereby assign”の方が優先される、としたCAFC判決を確認。
* pro-/anti- ?:
大学側には厳しい判決になったが、契約さえ抜け目なく結んでおけばよかった。「プロ契約」(pro-agreement)的判決?
4) 6/9 判決 連邦最高裁 Microsoft Corp. v. i4i Limited Partnership
争点:
特許無効を立証するための証明基準
判決:
8対0 特許の無効を立証するための基準は、「明確かつ説得力ある証拠(clear and convincing evidence)」ルールではなく、より緩やかな「証拠の優越(preponderance of evidence)」ルールを採用すべきだとするマイクロソフトの主張を退けたCAFC判決を確認。
* pro-/anti- ?:
CAFCが28年間採用している証拠基準を再確認。あえて「プロパテント」というべきものではない? マイクロソフトの代表的製品”Word”ソフトウェアの特許侵害に対する2億9千万ドルの賠償評決が維持されたことは、マイクロソフトにとってはあまりに「アンチ・イノベーション」的判決?(因みに i4iという社名は “infrastructures for infomation”の意味とのこと)
以上、本格的な事例紹介・分析はこれから多数出てくるはずです。それらを参照しつつ、改めて詳細を紹介させていただきます。
(渉外部/事業開発室 飯野)