- 知財情報
- アーカイブ
2011.10.27
そこでNGB特許部では、毎年実施している若手社員米国研修に際し、複数の米国法律事務所を訪問して、同改正法が日本のクライアントにもたらすメリット、デメリットに関するインタビューを実施致しました。
・ BANNER & WITCOFF, LTD.
・ DRINKER BIDDLE & REATH LLP
・ EDWARDS NEILS PLLC
・ MORGAN, LEWIS & BOCKIUS LLP
・ OLIFF & BERRIDGE,PLC
・ ROYLANCE, ABRAMS, BERDO & GOODMAN LLP
・ STUDEBAKER & BRACKETT, PC
・ SUGHRUE MION, PLLC
本記事におきましては、最初に、米国特許改正法の主要な改正点を施行日別にまとめます(§I)。
次に、インタビューに答えて下さったすべての弁護士が、メリットあるいはデメリットであるとして言及した“先願主義(First-to-File System)”について記述致します(§II)。
他の項目(登録後レビューなど)につきましては、来月号以降に掲載させていただきますので、そちらもご覧になっていただければ幸いです。
§I. 米国特許改正法の主要な改正点(施行日別)
通常の法案は制定から1年後に施行されます。しかしながら、今回の米国特許改正法の場合、施行日は下記の3ステージに分かれております。
● 第1ステージ: 2011年9月16日(制定日)施行
■ ベストモードは特許無効の原因にならず
■ マイクロ出願(特許出願が4件以下)の出願料金75%減
■ バーチャルマーキング:マーキングはインターネットのアドレスでの表示で代用可
■ 先使用権:ビジネスモデル特許以外にも範囲を拡大
※ 2011年9月26日(制定10日後)施行
■ 米国特許料金15%値上げ
※ 2011年11月15日(制定60日後)施行
■ 紙出願は400ドル追加金
● 第2ステージ: 2012年9月16日(制定一年後)施行
■ 発明者以外の出願可:サイン書類の簡素化
■ 当事者系レビュー:旧当事者系再審査の改訂版
■ 登録後レビュー:登録後9ヶ月の異議申立
■ 補充審査:登録後の特許性判断
■ 情報提供の緩和: 公開後6ヶ月・意見書提出可能
● 第3ステージ: 2013年3月16日(制定18ヶ月後)施行
■ 有効出願日は最先出願日: 優先権主張出願は優先日が有効出願日
■ 有効出願日に基づく先願主義: 但し、発表して1年以内に出願した場合、その間の他者の先願/開示/発表によっては拒絶されない。 施行日以降の有効出願日を有するクレームが含まれる新出願に適用。
■ インタフェアレンス廃止:但し、真性発表者決定手続(Derivation)を新たに導入
§II. 先願主義 (First-to-File System)に対する米国特許弁護士の声
■ メリット編
■ The patent reform legislation moves closer toward harmonizing the United States patent system with the patent laws of the rest of the world.
先願主義への移行によって「いつ発明を着想したか?」ではなく「いつ出願したか?」が問われるようになります。インタフェアレンス、ならびに、1.131宣誓書による先発明の主張は廃止されます。先願主義は、最先の出願人が勝者となる競争を招来するでしょう。これは、米国特許制度と他国の特許法の調和を図る上で、極めて重要なステップとなるでしょう。
――― Mr. Gary Fedorochko (知財キャリア20年以上、所属: BANNER & WITCOFF, LTD.)
■ It should provide harmony between U.S. patent law and the laws of other countries.
本改正法は、米国の特許形態を先発明主義から先願主義へと転換させるものです。これにより、米国特許法と他国の特許法の調和がもたらされるでしょう。
――― Mr. John G. Smith (知財キャリア20年以上、所属: DRINKER BIDDLE & REATH LLP)
■ Clients in Japanese may have an advantage, at least initially, in a new first-to-file system.
日本のクライアントは、少なくとも初期においては有利でしょう。日本企業は、すでに先願主義に慣れ親しんでおり、日本の優先日のような有効出願日を早期に取得してきたものと思います。一方、米国企業については、出願準備に時間を要し、有効出願日の確保が遅延するという事態が想定されます。
――― Mr. Paul F. Neils (知財キャリア28年、所属: EDWARDS NEILS PLLC)
■ First-to-file simplifies determining invention priority.
先願主義は、優先権の決定を平易にします。これは、出願案件に係る手続き、ならびに、登録特許に係る訴訟の両方において、米国外の企業の勝利を容易にするものです。
――― Ms. Mary Jane Boswell (知財キャリア23年、所属: MORGAN, LEWIS & BOCKIUS LLP)
■ Switching to a first-to-file patent system.
メリットとして挙げられるのは、先願主義への転換です。先願主義は、米国特許制度と、日本を含む他国の特許制度の調和を目的としたものです。日本では先願主義を採用してきたので、本改正により、日本のクライアントは、より簡単に先行技術を特定することが可能になるでしょう。
――― Mr. Jesse Collier (知財キャリア9年、所属: OLIFF & BERRIDGE, PLC)
■ First-inventor-to-file (“FITF”) system.
メリットとして挙げられるのは、先願主義(FITF)です。先願主義は、先発明主義と比較して日本の特許制度に近く、より確実な優先日を提供するものです。これは、審査過程あるいは訴訟における費用の削減につながる可能性があります。また、この制度は、規模の大きな出願人(小規模出願人が出願手続きを終えるよりも早く特許出願できるプロセスを備えている出願人)にメリットをもたらす可能性があります。
――― Mr. Kevin M. Barner (知財キャリア15年、所属: ROYLANCE, ABRAMS, BERDO & GOODMAN LLP)
■ The first to file system permits use of clients’ US patents/applications as prior art as of their foreign (Japanese) priority date against later filed patents/applications.
先願主義により、後願に対抗する先行技術として、クライアントの米国特許/出願を他国(日本)の優先権と同様に利用することが可能となります。
――― Mr. Tim L. Brackett Jr. (知財キャリア23年、所属: STUDEBAKER & BRACKETT, PC)
■ First to invent is replaced by first to file.
先発明主義は先願主義へと替わります。これにより、米国特許商標庁は産業界と足並みを揃えることになるでしょう。インタフェアレンス手続きは、真の発明者を決定する手続きに置き換えられます。米国特許法135条に規定されているように、真の発明者を特定する手続きは、冒認出願に対してその最初の公開から1年以内に申請することができます。さらに、特許権者は米国特許法291条に規定されている民事訴訟(先の有効出願日を有する同一発明をクレームした特許の権利者による訴訟)を回避できるかもしれません。米国特許法291条に基づく提起は、最初の特許の発行から1年以内に行われなければならないからです。
――― Mr. Stuart S. Levy (知財キャリア30年以上、所属: SUGHRUE MION, PLLC)
■ デメリット編
■ First-to-file system could result in a loss of patent rights in some limited situations.
先願主義においては、ある限定的な状況で特許権を失う可能性があります。例えば、発明日より後であって出願日よりも前に公開された先行技術が存在したとしても、先願主義の下では、出願人は先の日付を提示することができません。従って、日本のクライアントにとっては、日本において出来るだけ早く有効出願日を確保するといった対応が重要になります。
――― Mr. Paul F. Neils (知財キャリア28年、所属: EDWARDS NEILS PLLC)
■ First-inventor-to-file (“FITF”) system results in wider scope of prior art.
先願主義(FITF)により、出願クレームの特許性を判断する際に、審査官はより多くの先行技術を利用可能になります。これは、クレームの保護範囲にあまり差異がみられないような深刻な競争に晒されているクライアントにとって、問題になるかもしれません。例えば、有効出願日前の公開(public disclosures)については、それが世界のいかなる場所におけるものであっても、先行技術とみなされます。また、これまで享受してきたような形での1年間の猶予期間は、もはや利用できません。
――― Mr. Kevin M. Barner (知財キャリア15年、所属: ROYLANCE, ABRAMS, BERDO & GOODMAN LLP)
■ A greater amount of effective prior art will be available for use against client’s claims.
先願主義が採用され、ヒルマー・ドクトリンが撤廃されたため、クライアントのクレームに対して多くの先行技術を適用可能になります。新制度においては、他者がクライアントの特許クレームに異議を申し立てる機会が多く与えられています。もっとも、同様に、クライアントにも、第三者に対して異議を申し立てることが可能になるという利点はあります。
――― Mr. Tim L. Brackett Jr. (知財キャリア23年、所属: STUDEBAKER & BRACKETT, PC)
今回は、特許弁護士の声を一部英文のまま使用しております。
やはり、先願主義への転換という点は、メリット/デメリットを語る上でもはずせないポイントであるようです。
(記事担当:特許部 石川)