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2012.01.10

【Cases & Trends】 番外編 = セミナー開催報告 = 中国で発生する職務発明の取り扱いおよびライセンシングの留意点

拡大する中国市場に対応すべく、生産だけでなく、研究開発の拠点を中国に設置するグローバル企業の動きに拍車がかかっています。「中国商務省が11月16日発表した1~10月の対内直接投資は950億ドル(約7兆3千億円)で前年同期比15.8%増。うち日本は65.5%増(57億ドル)だった。… 中国に研究開発拠点を置く動きも広がっており、日本の対中投資が再びブームになってきた。」(日本経済新聞 2011.11.17)
そこで企業知財・法務部門にとって急務となっているのが、中国で発生する研究開発成果の取り扱いや管理・活用法の確立です。無論、中国でのR&Dセンター設置自体は決していま始まったばかりの動きではなく、すでに主だった留意点などは議論され、明確になっていると思われます。しかしその一方で、ここ2,3年の急激な環境変化(2006年の中長期計画で打ち立てられた「自主創新政策」のさまざまな具体化の動き、国家目標としての権利保護強化/中国企業の特許武装化、その結果としての「訴訟社会化」など)に鑑みると、新たな留意点として検討すべき事項も少なくないのが現実です。
このような状況において弊社は、2011年11月30日に標題のセミナーを弊社東京本社にて開催しました。お招きした講師は、北京市天達律師事務所のパートナー、張 青華 弁護士です。
講師略歴: 中国政法大学卒業後、日本の一橋大学大学院法学修士、1996年に一橋大学大学院博士課程を修了。大学卒業後、中国全国人民代表大会常務委員会法制業務委員会に勤務。1994年弁護士活動開始。日本の法律事務所勤務、大学講師などを経て、2001年より現職
今回のセミナーでは、第1部として、外国企業の中国研究開発拠点において発生する研究開発成果の取り扱い、とりわけ従業員発明者による職務発明について以下の説明がなされました。
* 職務発明の定義
* 職務発明に関する法律規定
* 職務発明の約定方法
* 職務発明の帰属
* 職務発明の報奨
* その他
* まとめ

講演冒頭では、関連法の説明と併せ「日系企業を対象に行われた職務発明関連調査」(2010年後半に上海JETROが主に中国における日系企業を対象にして実施)が紹介されました。

質問1. 対象会社にR&D機能が設定されているか否か
回答: いる(45%) いない(55%)

質問2. R&D機能の設定されている会社に職務発明創造制度が制定されているか否か
回答: いる(58%) いない(42%)

質問3. 職務発明創造制度の制定されている会社における、職務発明創造の規定の仕方
回答:労働契約の関連条項(29%) 別途契約した職務発明創造契約(0%) 内部規則(直接に日本本社の規定を使用することを含む)(71%)

この調査結果において特に注意すべきは、R&D機能を有していると回答した企業の42%が「職務発明創造制度について定めていない」と回答していることです。関連する中国専利法と、同法第三次改正に伴って改正された専利法実施細則(2010年2月1日施行)の規定は以下の通りです。要するに、職務発明に対する報酬規定を企業が独自に定めることが認められているわけですが、逆に定めていない場合、実施細則第77条、78条で定めるかなり高額の奨励金や実施報酬を与えなければならなくなるということです。

専利法第16条
「専利権を付与された単位は、職務発明創造の発明者又は創作考案者に対し奨励を与えなければならない。発明創造専利の実施後、その普及・応用の範囲及び獲得した経済効果に応じて発明者または創作考案者に合理的な報酬を与える。」
専利法実施細則
第76条
「専利権を付与された単位は発明者、考案創作者と専利法第16条に定める奨励、報酬の方式及び金額を約定し、又は法に基づき制定した規則制度の中で規定することができる。……」
第77条
「専利権を付与された単位が発明者、考案創作者と専利法第16条に定める奨励方式及び金額を約定せず、且つ法に基づき制定した規則制度の中でも規定していない場合、専利権公告日から3カ月以内に発明者又は考案創作者に奨励を与えなければならない。1件の発明特許権の奨励金は最低でも3000元を下回ってはならず、1件の実用新案権又は意匠権の奨励金は最低でも1000元を下回ってはならない。……」
第78条
「専利権を付与された単位が発明者、考案創作者と専利法第16条に定める報酬方式及び金額を約定せず、且つ法に基づき制定した規則制度の中でも規定していない場合、専利権有効期間中、発明創造の専利実施後、毎年、当該発明特許権又は実用新案権を実施した営業利潤から2%を下回らない、又は当該意匠権を実施した営業利潤から0.2%を下回らない金額を報酬として発明者又は考案創作者に与え、又は上述の比率を参考にして、発明者又は考案創作者に一括報酬を与える。専利権を付与された単位がその他の単位又は個人に専利の実施を許諾した場合、取得した使用料から10%を下回らない金額を報酬として発明者又は考案創作者に支払わなければならない。」

この根本認識を踏まえ、講師からは、職務発明・技術成果に対する約定方式(契約方式(労働契約の関連条項もしくは職務発明創造契約)と内部規定方式)、約定金額の合理性判断、支払い方法の様々なパターンが紹介・説明されました。気になる約定金額ですが「何が合理的と判断されるかについて法律の定義はなく、労使が互いに合意できる額。通常、法定の額よりは少し低い額になる。また、法定の奨励金と実施報酬という組み合わせでなくとも、企業が独自に策定したインセンティブ制度の組み合わせが合理的と判断されればよい……」という説明がありました。やはり一言でこれだというものはなさそうです。
また、先の調査結果でも約定方式として最も回答の多かった、職務発明内部規定を作成する際の注意点として、以下3点が指摘されました。

1. 中国法律の適用
現地法人が日本本社の規程を適用したい場合、中国法律に基づき、見直す必要がある(支払う時期、金額等を含む)。
2. 地方法規の適用
各地方はほとんど、関連する地方法規を制定しているため、それを適用しなければならない。
3. 法定手続きに基づき内部規定を作成
内部規定を作成する場合、 労働契約法に基づき、民主的な手続きをとらなければならない。

最後の「民主的な手続き」とは、組合を通して、組合がなければ職員代表大会を通して作成する必要があるとの説明がありました。

第2部では、中国に研究開発拠点を有するか否かに関わらず、中国の企業とライセンス契約を締結する際の留意点が、実例を踏まえて紹介されました。
ライセンス契約における留意点としては、第一に技術輸出入管理条例第24条第3項で定める「ライセンシーが第3者の権利を侵害した場合のライセンサーの責任」が挙げられます。講師からは、ライセンサーとしての約7億円の損賠賠償責任を負わされた富士化水工業事件(2009年12月最高人民法院判決)が代表的事例として紹介され、この規定への対応策が示唆されました。ベストな対策は、このような責任条項を契約に盛り込まないことですが、強硬法規である同規定を削除することは難しいようです。できることとしては、やはり契約締結前にリスクのある特許などの調査をしっかりしておくこと。また必要に応じ、専門機関の鑑定などを得ておくことによって中国の裁判官の心証も変わってくるということです。
その他ライセンス対象技術の完全性保証(同条例第25条)などの紹介がなされ、質疑応答へと移りました。
質疑応答では、自社の事情を踏まえた具体的ご質問が多く(特に発明報奨規定)、その回答も他の参加者にそのまま当てはまることがない、というものが少なくありませんでした。

参加者の大部分の方々に今回のセミナーに対する高い評価をいただく一方、今回のテーマについては、まだまだ検討すべき事項が多く、セミナー続編その他のフォローを望むお声を多くいただきました。弊社としても、引き続き本テーマに関連したサービスや情報をご提供し、本ウェブサイト上でもご紹介してゆきたいと思います。

(渉外部/事業開発室 飯野)

本セミナー企画(兼司会)の筆者(飯野)
講師の張青華弁護士

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