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2013.02.22
今回のご質問は、こちら。
アメリカ特許庁費用の大幅値上げに音を上げています。 このままではアメリカへの特許出願は、一層慎重に検討せざるを得なくなりそうです・・・。
既に当サイトでもご案内しましたとおり、アメリカ特許庁は1月18日、庁費用(オフィシャルフィー)を3月19日より改定することを発表しました。 この費用改定は2011年9月の法改正で特許庁に与えられた権原に基づくものであり、2012年2月の第一案、同9月の最終案発表を経て、この度の正式発表に至っています。
それでは、本当に仰るような「大幅値上げ」なのか、アメリカ特許庁作成資料より一部抜き出して改めて見てみましょう。
下の二つのグラフは、出願から登録までに発生する特許庁費用を、改定の前後で比較したものです。図1及び図2のいずれにおいても、一番左手の「FY2012 Current Fees」がこの資料作成当時(2012年9月)の「現行費用」、その隣の「Proposed in February 2012」が上述の「第一案」、そして続く「Proposed in NPRM」が「最終案」の金額を示しています。 実はこの資料が作られた後、2012年10月にアメリカの会計年度が新しくなるとともに「現行費用」も変更(僅かな値上げ)がなされているのですが、取敢えず本稿では「FY2012 Current Fees」が “改定前” 、「Proposed in NPRM」が “改定後” を表すものとして話を進めます。
図1は、出願から登録までストレート(ノーアクションの一発認可という意味ではありません)に進んだケースを示し、青色部が出願時の庁費用、赤色部が認可時の費用を表しています。 改定前は$1,250で済んだ出願費用が改定後は$1,600に上昇していますが、一方で認可時費用は$2,040から半分以下の$960と半分以下に下がり、結果としてトータルでは$3,290から$2,560へと22%の減額となっています。
図1と図2を見る限りでは、出願から登録までに要する費用は減額若しくは微増。少なくとも「大幅値上げ」とはいえないことが判ります。RCEを2回よりも1回、1回よりもゼロと回数を控えることでコストを抑えることも可能になりますし、またアメリカ特許庁自身も、この料金体系を導入することでそうした方向へ出願人を誘導しているのだといえます。
ちなみに一番右側にある、色みの薄い柱。 これは「Average Historical Cost」、即ち特許庁が1件あたりの審査に実際に支払っているコストを、過去3年間の平均から求めた値だそうです。 つまり、出願を処理すればするほど赤字なのだと、元々赤字のところを今回さらに安くするのだと、特許庁はこの図表をもって訴えたいのでしょう。
それでは一体、どこで採算を合せるつもりなのか・・・? その答えが下の図です。
特許庁は第一案発表の当初より、料金改定の目的として審査期間の短縮やバックログの解消、ひいては技術革新の促進を “公約” し、上記資料においても、審査に要する平均期間を2013会計年度の30ヶ月から4年後には18ヶ月に短縮するとの目標を具体的に掲げています。こうした政策はIBM知財部出身Kappos長官の方針に拠るものですが、この大仕事を終えて自らの役割は済んだと判断したのか、同氏は今月1日に特許庁を退官しています。金銭的負担の増加と引き換えに、特許庁が主張するようなメリットを権利者側が本当に享受できるのか否か、Kappos氏の政策を引き継ぐであろう新長官の手腕をこれからとくと拝見させて頂こうではありませんか。
(営業推進部 柏原)