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2013.04.19

ブラジルでの医薬品特許に関する新たな動き = ANVISA事前承認、審査範囲が明確に=

2013年4月15日にANVISA(ブラジル国家衛生監督局)が医薬品に関する特許付与に関する事前承認について従来よりも承認審査の範囲が明確に理解できるように決議が発行された(2013年4月10日付RDC第21号決議)。
ブラジル産業財産権法が2001年に改正され、229C条が導入されたことにより、医薬品及び医薬品の製造方法に関する特許出願は特許権が付与される前にANVISAが事前に承認することが義務付けられた。すなわち、2001年以降、ブラジルにおいては医薬に関する特許出願が登録されるためには2つの行政官庁による審査が必要になった。

最近まで、ANVISAはINPI(ブラジル特許庁)が特許要件について審査をした後に、再び自ら新規性・進歩性・産業上の利用可能性について審査を行っていた。INPIと異なる基準で審査され、場合によっては、INPIで特許要件を満たしていると判断された特許出願がANVISAの審査により特許性がないという理由で最終的に拒絶されたケースもある。ANVISAによる特許要件の審査はブラジルの実務家、学者及び知的財産関係者に批判され続けてきた。主な批判は「特許要件が満たされ、法律に違反していない出願については特許権が付与されるべき」又は「ANVISAは衛生に関する行政機関であるため、特許要件を審査する専門性が無く、特許要件を審査する権限がない」というものである。

ANVISAによる承認の拒否に関しては、裁判でも度々争われてきた。ANVISAが特許要件を判断することは違法である旨の判例もある。最近の判例で、2012年11月19日に第1巡回区連邦高等裁判所が下した判決によると、ANVISAは公衆衛生に対する問題しか審査することができないという判断を示している(事件0036427-98.2009.4.01.3400番号)。

また、2009年10月16日にブラジル国家法務局が発行した決定書で、ANVISAが特許要件について審査する行為がINPIの審査権限と衝突していることについて、一定の判断が示されている。ANVISAは衛生に関する行政機関としての権限に基づき審査すべきと示めしている。つまりANVISAによる審査は公衆衛生にに関する範囲を逸脱してはならないということである(決定書No.210/PGF/AE/2009)。

しかしながら、上述の経緯にも関わらず、ANVISAによる審査の範囲について条文上の記載が曖昧であることから、ANVISAは特許要件の審査を継続してきた。

2012年5月25日に、保健省(ANVISAの上部組織)と商務省(ブラジル特許庁の上部組織)が共同で公布した第1065号法令により、従来INPIの審査が終了してからANVISAへ移送するというフローから、ANVISAが先に審査を行ってから、INPIへ移送されることになった。

又、最新の動きとして、ANVISAが事前承認手続について新たな規定を発行した。2013年4月10日付RDC第21号決議の4条の規定によると事前承認については公衆衛生への影響について判断し、公衆衛生に反しない特許出願は承認を受けた後、特許要件の審査を行うためにINPIへ移送されることになる予定である。

最近開かれたANVISAの活動に関する公聴会において、ANVISA長官であるDirceu Barbano氏が上記の審査範囲について、事例を挙げて説明している「もしフェンプロポレックス(拒食症治療のための医薬品で、2012年に健康を害する恐れがあると判断され、医薬品製造業許可が取り消された)と似たような化学分子に関する特許が出願されれば、ANVISAが審査することになる。また、HAART療法のように公衆衛生に対して影響がある医療方法についても審査することになる。」

現在、保健省の戦略的医薬品リストについては978/2008省令書と改正1284/2010省令書によって定められている。同様のリストはINPIによって2013年4月9日決議においても対象となっている。

INPIによる決議No.80/2013を経て、INPIは医薬品に関する迅速に審査することの重要性を認め、医薬品及び医薬品の製造方法に関する特許出願に対して優先審査を請求できるようになった。優先審査は保健省又は出願人がSUSが定める戦略的医薬品リストに含まれている医薬品の製品及び製造方法に関する特許出願について、優先審査を請求することが可能になった。優先審査を請求するためには、対象となる特許出願が既に公開がされ、審査請求を提出する必要がある。優先審査請求が受理されてから1年以内に審査が行われる予定である。

今後もブラジルにおいて医薬品に関する特許制度が変更される可能性が高い。又、ANVISAによる審査の状況についても、しばらく様子を見る必要がある。

IP総研 客員研究員 ブラジル弁護士 ホベルト・カラペト

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